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断罪された悪役令嬢は婚約破棄される こちらは幸せになるので、お好きにどうぞ

作者: 花桃とわい

気分転換に通勤電車の中で書き上げました。

さっくりと読める短編となっていますので、隙間時間に読んでいただけると嬉しいです(*´∀`*)

「マーガレット・ブルー。お前との婚約を破棄させてもらう!」


煌びやかな学園のパーティーで突如始まった断罪劇に、周囲は一気に静かになった。


「婚約……破棄……」


マーガレットはぽそりと呟いた。

婚約者である同じく侯爵家の三男であるディランがぐるりと周りの様子を見渡して、注目を浴びていることに満足しながら続けた。


「お前は、エリカのことを虐めていたそうだな。エリカが男爵家の令嬢で身分が低いからと、散々嫌がらせをしてきたそうじゃないか! そんな酷いことをする陰湿なお前とは、もっと早くに婚約破棄するべきだった。 この場でエリカに謝れ!」


マーガレットは、ディランの隣に立つ、豊かな胸の前で手を組み目を潤ませている女性をチラリと見た。

さっぱり見覚えのない令嬢だ。


「―――その方が、エリカ様ですか?」


「とぼけるな! 放課後に校舎裏へ呼び出して突き飛ばしたり、制服を切り刻んだりされたと聞いているぞ! そうだろう? エリカ」


彼は傍らの女性に優しく語りかけた。


「はい、そうです。マーガレット様はディラン様と仲良くしている私が気に入らないらしくて、たくさん嫌がらせをされました! それに、移動教室の途中で階段から突き落とされました!」


愛らしい大きな目をウルウルさせ、ピンクのフリルたっぷりのドレスを身に纏ったエリカは、周りにもよく聞こえるように話した。


「ほらみろ! これで言い逃れはできないぞ! 婚約破棄は決定だ! 俺は真実の愛を見つけたんだ。この可憐なエリカと新たに婚約を結び直す!」


「ああ、ディラン様……」


感極まったエリカはディランの胸に飛び込んだ。

彼はなんなくそれを受け止めると、その細い腰に手を回して引き寄せた。


「はあ……」、とどうでもいい雰囲気を出しながらマーガレットは呆れ果てた。


ディランは成績はあまりよろしくはないのだが容姿は整っていて、一見、王子様然としているので、学園でも女生徒たちからは人気があった。

だが、今まで婚約者としての扱いをされず、好き勝手に遊びまわるディランのことを、マーガレットはこれっぽっちも好きにはなれなかった。

つまり、はっきり言って、マーガレットにとってディランとの婚約の破棄は喜ばしいことでしかなかった。


「とにかく婚約破棄は承りました。ですが、私は本当にその方を存じ上げません。それで、なんでしたかしら。放課後呼び出したとのことでしたが―――」


「ああ、そうだ! それでわざと水溜りの中に突き飛ばしただろう! なんて女だ」


両家の都合で五年前の十一歳の時から婚約を結んでいたが、マーガレットはこの短慮なディランが好きにはなれなかった。

ディランのマクガナル侯爵家は先代の作った借金の返済の目処が立っておらず、比較的裕福なマーガレットのブルー侯爵家と縁を結ぶことを切望した。

ブルー侯爵家としては、マクガナル侯爵家現当主の穏やかな人柄に惹かれて結んだ縁でもあったのだが、思えば明確なメリットはマクガナル侯爵家にしかなかった。


「それは、いつの話ですか?」


マーガレットが問うと、エリカは答えた。


「先週です! 取り巻きの方たちと一緒に私のことを呼び出して、水溜りに突き飛ばしました!」


ため息を吐いたマーガレットは、エリカの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「まず、ここしばらく雨は降っていないので校舎裏に水溜りは出来ていないと思います。第一に、私には取り巻きはいませんわ」


「……は?」


ディランが小さな声を漏らした。


「お友達なら有り難いことに沢山いますが、取り巻きと呼べるような人に心当たりはありません。考えてみてもわかりませんので、できれば今すぐその人たちをここに連れてきていただきたいのですが」


「……た、たしかに雨は降っていないかもしれないが、近くに水場があったかもしれないじゃないか!」


ディランが反撃を仕掛けてくるが、マーガレットは落ち着いた様子でいる。


「いいえ。校舎裏に水場はありませんわ。それは学園の生徒であるディラン様もよくご存知のはずでしょう?」


「そ、そうかもしれないが……、いや、しかし……」


ディランの声が小さくなってくる。


「それに、放課後は生徒会活動があるので、私にはそんなことをしている時間はないのですが」


エリカは目を泳がせている。


「えっと……、でもでも、そう、私の制服をズタズタに切り刻みました!」


「あの、聞いてもいいですか? 着ている制服を切り刻まれたとして、貴女はどうやって帰ったのですか? その間、誰にも会わなかったのですか?」


ディランは唖然としてエリカを見下ろしている。口が半開きになっているのは仕方のないことだろう。


「え……っと、そう、少しだけ、スカートの裾をわからないくらい少しだけ切られたんです!」


「あら? さきほどはズタズタに切り刻まれたと仰っていましたけれど」


「あ……、だから、えっと……。そ、そうです! 勘違いです。ズタズタに少しだけ切り刻まれたんです!」


もう、言っていることがめちゃくちゃだ。

必死に言い募るエリカに、周りの目は冷たくなっていく。

隣にいるディランも呆気にとられているようだ。

マーガレットは眉間に指を当てて揉みほぐした。


「あとは、なんでしたかしら……。移動教室の途中で階段から突き落とした、でしたか」


「そ、そうよ! 酷いわ! ディラン様と私の仲を認めたくないからって、そんな」


「では、誰かその現場を見た方はいらっしゃるはずですわね。移動教室の時というのなら、周りに人は沢山いたはずですわ」


マーガレットは周りをぐるりと見渡した。


「どうでしょう、皆さま。どなたか私がここにいるエリカ様を階段から突き落としたのを見た方はいらっしゃいますか?」


パーティーの参加者である生徒たちは、首を横に振った。


「……な……、エリカ、これは……」


ディランは呆気にとられて恐る恐る抱き寄せている女性を見下ろした。


「ち、違うの! 違うのよ、ディラン様! ちょっと間違えただけよ。そう、ちょっとした勘違いよ」


旗色が悪いのをようやく察してエリカはディランに縋ったが、彼は抱いていた腰から手を離した。


「今までのは全部、嘘だったのか? 俺を騙していたのか?」


「違う! 信じてディラン様」


「なにが違うんだ。俺を好きだって言っていたのも嘘だったのか?」


「好きよ! ディラン様を好きなのは本当よ!」


ディランは後ろに下がりエリカから距離をとると、真っ青な顔でマーガレットの方に向き合った。


「マーガレット、これは違うんだ! 俺は騙されていたんだ。だからもう一度俺とやり直し―――」


「いやあ、なかなか面白いことになっているようだねえ」


ディランを遮った声が後ろから聞こえたのでマーガレットが振り返ると、そこには見目麗しい青年が二人、人垣をかき分けてこちらへ進み出てくるところだった。


「お兄様。それに、アンソニー様も」


きゃあ……っと小さな悲鳴があちこちから上がった。

学園の人気者である、人好きのする兄オスカーと、その親友でハイアット公爵家嫡男であるアンソニーが並んで立っている。

アンソニーはよくオスカーのところに遊びに来るので、マーガレットも一緒になって過ごすことが多かった。

この美貌の二人が正装して一緒にいるだけで、とても絵をなっていた。


あろうことか、エリカは二人を見て頬を染めてうっとりとしている。


マーガレットが二人の元に歩み寄ると、オスカーが妹の頭に優しく手を乗せ、微笑んだ。


「大丈夫だよ。はじめから全部聞かせてもらった」


オスカーは顔色をなくしたディランに視線を向けると、厳しい表情になった。


「君は、妹という婚約者がありながら浮気をしていたようだね。それは兄として見過ごせないな」


「ち、違……」


「ブルー侯爵家当主代理として、婚約破棄の申し出を受理しよう。今日から君とマーガレットは赤の他人だ。二度と近づかないでくれ。それから、真実の愛、だったか。そこの女性とどうぞ勝手にお幸せに」


ディランはショックを受けたように愕然として、膝から崩れ落ちた。


それを見て、アンソニーが確認をするように声を掛けてきた。


「では、マーガレット嬢は今はフリーということでいいんだね?」


「そうだよ」


イタズラに笑んだオスカーが彼を見た。


「なら、もう我慢しなくてもいいよね?」


「ああ。大丈夫だ」


それを聞いて、アンソニーはマーガレットの目の前まで来ると、優雅に跪き、その華奢な手をそっと取った。


「マーガレット嬢。ずっと貴女だけを想ってきました。どうか私と結婚してくださいませんか」


柔らかくも甘い響きがマーガレットの耳に届いた。きゃーっという悲鳴が沸き起こる。

一瞬なにを言われたかよくわからなかったが、その言葉を理解した瞬間、急速に体中が熱を持ったのがわかった。


「わ、私でいいのですか?」


「はい。貴女がいいです」


彼の人となりを知っているマーガレットは、自然と笑顔になった。


「謹んでお受けいたします」


「! ありがとう、マーガレット嬢」


その瞬間、周りから大きな拍手と歓声が沸き起こった。

アンソニーはマーガレットの手を取ったまま立ち上がり、彼女の旋毛に口付けを落とした。

マーガレットは恥ずかしさに頬を染める。


「これからよろしくね。もう離さないから、覚悟しておいてね」


「は、はい。こちらこそよろしくお願いいたします」


二人を祝福する声は、(とど)まるところを知らなかった。

『妖精の森〜』執筆の合間にちょこっと書いてみました。

少しでも面白い! と思っていただけたら、⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎やブックマークなどで応援していただけるとハッピーな気持ちになれるので嬉しいです(*´∀`*)

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