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第8話 人助けすることになりました 2

「それじゃあ今日の授業はここまで。明日までにP23をやっておくように。委員長、号令」

「起立、礼」

「「「ありがとうございました」」」


 学校一の熱血教師で有名だったという担任の顔が画面から消える。


 翌日、俺はいつものようにオンライン授業を受けていた。

 つい先週に中間テストも終わったこと、そして授業に入ったからか他の生徒からは画面越しでも緩んだ様子が感じられる。

 約1名を除いて、だが。


(……よし)


 画面の端、そこにはこのクラスに在籍している26人の生徒の顔が表示されている。

 当然その中には藤澤さんの姿もあった。


(『鑑定』)


―――


対象:藤澤晴奈 人間 14歳

状態:栄養失調 内出血 気分障害

補足:虐待、脅迫などにより肉体的・精神的に疲弊している。


―――


 やはり表示された内容は昨日と変わらない。

 「何かの誤作動であって欲しい」という願いは打ち崩されてしまったのは残念だが、だったら俺は俺にできることをやるだけだ。


『突然でごめん。伊織佳那って女の子を知ってるかな?』


 俺は個別チャットに切り替えると、藤澤さんにメッセージを送る。

 既読アイコンはすぐについたが、返事は返ってこない。

 何かあったのだろうか、いやそもそも聞かれたくなかった質問なのだろうか。

 そんなことを考えていると。


『もしかして伊織くんって佳那ちゃんのお兄さん?』


 このメッセージの内容から推測するに、昨日藤澤さんが俺に話しかけたのは「佳那の兄だから」というわけではないらしい。

 だとしたら……、いやそれは今考えることじゃないな。


『佳那は俺の妹だ。それであいつから聞いたんだけど』

『伊織くんは今日もあのお店に行くの?』

『一応そのつもりだけど』

『もし良かったら17時に来てくれないかな。そこで伊織くんの質問に答えるよ』

『わかった。じゃあ続きはそこで』


 そのメッセージを打ち込みチャットを終えると、PCの端に表示されている時計を見る。

 今の時刻は16:27、約束の時間まで30分とちょっとといったところか。

 なら練習は移動しながらするとしよう。


――――


伊織修 Lv35 人間

HP1400/1400

MP250/300

SP50

STR45

VIT55

DEX35

AGI65

INT55


スキル 鑑定 万能翻訳 水魔法 風魔法 空間転移魔法 氷結魔法 治癒魔法 アイテムボックス 追跡・探知魔法


―――


 俺は改めて『ステータス』に新しく記載されたスキルを確認すると、昨日と同じようにエコバッグを手に取り家を出る。




◇◇◇



「ごめん、待たせたかな」

「ううん、全然」


 スーパーに着くと、藤澤さんは昨日と同じ場所にエプロンとカバンを持って立っていた。


「……どこで話そうか」

「あそこの駐輪場でお願いできないかな?」


 そう言って彼女はスーパーの裏手にある人気のない駐輪場を指差す。

 これから話す内容を考えればその方がいいか。

 俺が首を縦に振ると藤澤さんはホッとした様子で駐輪場へと向かう。


「それで、佳那ちゃんの様子はどう?」

「藤澤さんが辞めたって聞いて落ち込んでるよ。あいつ、君に相当懐いてたみたいだから」

「……そっか。佳那ちゃんには悪いことしちゃったね」


 正直に言うと、藤澤さんは申し訳なさそうにする。


「家の都合なんだろ。仕方ないさ」

「……うん、そうだね」


 何も知らない体でそう言うと、藤澤さんの沈んだ表情で声を絞り出す。

 あの『鑑定』結果から推測するに、彼女の家庭環境は最悪に近いものなのだろう。

 

「まあ、何か困ったことがあったら言ってくれよ。妹も心配してたからさ」

「う、うん。ありがとう」


 俺が手を差し出すと、藤澤さんは一瞬戸惑いながらも握り返す。


「! ……ごめん、そろそろ行くね。佳那ちゃんにはよろしく言っておいて」

「ああ、わかったよ」

「それじゃ、また明日」


 藤澤さんは昨日と同様に何かに気づくと、どこか怯えた様子でその場から駆け出していく。


「……よし」


 その後、俺は佳那から頼まれていたものや洗剤などを買ってから家に帰る。


「おかえりー」


 リビングに入ると、佳那はソファーにだらけた姿勢でもたれ掛かりながら棒アイスを齧っていた。


「ただいま。さっき昨日お前が言ってた藤澤さんに会ったぞ」

「え、うそ。藤澤先輩に会ったの!?」


 俺がそう言うと、佳那は心底驚いた様子で詰め寄ってきた。


「ああ、『佳那ちゃんによろしく』だってさ」

「……藤澤先輩、元気だった?」

「少し疲れた様子だったけど、まあ元気そうだったぞ」

「そっか……」

「じゃあ俺、部屋に行くから。夕飯はチャーハンとかでいいか?」

「うん、それでいいよ」


 嘘も本当のことも言わず、曖昧に藤澤さんのことを伝えると自室に入る。


「……さてと」


 ベッドに座った俺は、昨日習得したスキル『追跡・探知魔法』を発動する。

 このスキルの効果は基本的に2つ。

 1つ目は指定した対象物を『追跡』することができるというもの。

 スキルを発動すると3次元ディスプレイのように地図が現れ、対象は赤い輝点として地図上に表示されるようになる。

 これの難点は一度手に触れたものしか追跡することができないということだ。


 そして2つ目の効果は自分や対象の周りに何があるかを『探知』することができるというもの。

 難点は『追跡』と同様に一度手に触れたものしか対象にできないということと、その周囲にあるものの詳細を知ることができないということだ。

 しかし後者に関しては『鑑定』である程度カバーすることができる。


 寝落ちするまで検証した甲斐があったな。

 そんなことを考えながら藤澤さんの現在位置とその周囲にあるものを『鑑定』を組み合わせて調べる。


「………は」


 出てきたものに思わず声を上げてしまう。

 なるほどね。藤澤さんがあんなにも疲れた顔をするわけだ。


「……あまり時間はかけられないな」


 そう呟くと、俺は腸が煮えくり返るような思いで準備に取り掛かり始めたのだった。

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