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第84話 儀式が始まりました 4

「ほいよ、これで汚れは粗方取れたと思うよ」

「「ありがとうございます!」」


 『風魔法』と『水魔法』を応用した即席の簡易ドライヤーで少年たちの服や体についた汚れを脱がすことなく取ると俺は地面に座る。


「えーっと、それじゃもう一度確認するけど君たちはおじいさんと一緒に突然この空間に飛ばされたってことで合ってる?」

「はい、そうです」


 俺の質問に少女(どうやら少年の実の姉らしい)が答える。

 『鑑定』結果によれば2人は一応久遠の敵対陣営の人間らしいが、子供にそういったことは関係ないだろう。

 何より彼らには俺たちをどうにか出来る力がない。

 だったら敵意を向けたり警戒する必要もないだろう。


「ここ以外の場所に行ったことは?」

「ないです。あなたが壁を壊すまでここは密室でしたから」

「なるほど……」


 これはまた厄介な話になってきたな。

 どうやらこの迷宮には他のどの空間や通路にも通じていない完全な密室が存在するらしい。

 そうなるとただ道順に移動しただけでは久遠たちと再会できないという可能性が生まれてしまう。

 加えてこの空間は外部から観測した限りではただの行き止まりにしか見えなかった。

 

 今からこの階層の全ての行き止まりをしらみ潰しに調べていたらとんでもない時間がかかるし、全く本当にどうしたものやら。


(……今さらだけど、この空間の『鑑定』はまだしてなかったな)


 ここを徘徊してる化け物の調査やメモ帳に道や空間なんかを書いて軽くマッピングなんかはしてきたが、肝心のこの空間については殆ど調べてない。


(まずはこっちをさっきにするべきだったな。『鑑定』)



――――


対象:妖魔幽閉用階層型結界術

効果:久遠家初代当主により異空間と現実世界を接続することで設置した対妖魔用の監獄。

捕縛した妖魔を呪術によって縛りつけ、結界の破壊による脱出を阻害する効果を持つ。また慢性的な飢餓状態を与えることで妖魔の力を弱める作用を持つ。

第1階層に脱出地点が存在する。

脱出地点には操作盤が設置されており、内部の人間を自由に脱出させることが可能。


状態:スキルレベル【汚染】

補足:結界内部が異界を経由して日本中の妖魔が入り込むように改竄されている。

また結界内部の構成は大きく改変されてあるが、階層と脱出地点はそのままとなっている。


――――


 ん、異界? この単語、どっかで聞いたことがあるような……。

 いや、今はそれについて考えることはよそう。

 この『鑑定』で得られた情報で最も重要な部分は【脱出地点には操作盤が設置されており、内部の人間を自由に脱出させることが可能】ということだ。

 となると最優先目標はなるべく時間をかけずにゴールを目指す、だな。


「……どうかされましたか?」

「ああ、いや。何でもないよ。それで君たちはどうする? ここでおじいさんを待つ?」


 俺がそう聞くと少年と少女は顔を見合わせて相談し、そして。


「お兄さんと一緒にいさせてください!」


 少年たちは全く同じタイミングで俺に頭を下げた。


「俺はそれでも構わないけれど……、本当にいいのかい? おじいさんが君たちを探して回ってるかもしれないよ?」

「そのおじいさまを待っている間、姉さんを守る力を僕は持っていません。だからおにいさんと一緒にいさせて欲しいんです」


 こう真剣にお願いをされると無下に断る、なんてことはできないな。


「わかった。ただ状況が状況だから必ず守りきれるわけじゃないってことは頭に入れておいてくれ」


 そう答えると少年たちは心底嬉しそうな様子で「ありがとうございます!」と頭を下げてくる。


「それじゃこれからの方針を伝えるけど、俺たちは一直線にゴールに向かって走り抜ける。あー、パッと調べた感じだけどこの迷宮のゴール地点に内部の人間を脱出させられる装置があるみたいだから、他に迷い込んでいる人は探さない。いいね?」

「……わかりました」


 半ば自分に言い聞かせるようにそう告げると、姉弟は沈んだ表情で頷く。

 この歳で肉親を置いていくという決断をするのが酷だということは分かる。

 だが全体の生存率を上げるためだ。ここは割り切ってもらうとしよう。


「さてと、それじゃ……」


 俺は自分の靴に手をかざすと『設計』『鍛冶技巧』、それに『風魔法』を組み合わせて少しだけ小細工をする。


「あの、一体何を……?」

「ちょっと移動の負担を減らそうと思ってね……。よし、準備万端だ。それじゃ2人共、俺の背中に乗ってくれ」

「は、はあ……」


 そうして2人を背負うと、念のために護衛用の武装ドローンを作成して俺の背後に配置すると、次の階層へ向かうための階段があるエリアを凝視し――。


「ちょっと飛ばすけど舌を噛まないようにしてくれよ」

「え、え?」


 靴に仕掛けた外付けの即席噴射装置を起動させ、一気に目的地へと飛んで(・・・)いったのだった。




◇◇◇



「ははは! そうか、こういうことか! 茨のすることは本当にどれも素晴らしいな!」

「ひ、ひいい!? げ、玄治様! どうか、どうかやめてくだされ――」


 【選定の儀式】のための迷宮結界、その最上層にて久遠玄治は正気を失った様子で震える退魔士から剥ぎ取った光る何かを剥ぎ取りそれを口に運ぶ。

 そして次の瞬間、久遠玄治から発せられる力はより大きなものとなる。


 久遠玄治の周り、そこには【選定の儀式】のために集まっていた久遠に属する力ある退魔士ほぼ全員が意識を失った状態で倒れていた。


「素晴らしいですわ、玄治様。そのように他の退魔士の方々からお力を頂戴すればいずれ久遠京里様に――、いいえ伊織修様にも匹敵することができましょう」

「匹敵じゃ意味がない。俺は奴を圧倒し、久遠の真の当主になるんだ!」

「ええ、ええ! 玄治様ならきっと可能ですわ!」


 そんな光景を見て茨と呼ばれた少女は不自然なまでに穏やかな笑みを浮かべながら、玄治を囃し立てる。

 そんな彼女の瞳には妖しげな光が宿っていた。

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