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第7話 人助けすることになりました 1


「『アイテムボックス』解除」


 スキルの発動を解除すると白い箱が消失し、箱があった場所からサッカーボールと辞書がドスンと音を立てて床に落ちる。


「今のスキルレベルだと2つは無理かあ……」


 あれから俺はスキル『アイテムボックス』の検証を行っていた。

 分かったことはMPの消費量は一律10だということと、入れられるものの重量に特に制限はなく自由に持ち歩けるということ。そして一度に収納にできるものは現状1つだけということだ。


 最初は「何でも自由に持ち運びできる」大当たりスキルを習得できたと浮かれてしまったが、これでも十分マシな方だろう。


 と、そろそろ買い出しに行かないとな。


 俺はエコバッグを手に取ると部屋を出ようとする。


「あっ」


 その時、偶然にもエコバッグが白い箱に吸い込まれてしまう。


 しまった、これを消すのを忘れていた。

 まあスキルを解除するだけで戻ってくるし特別気にするようなことではないが。

 そう考えて『アイテムボックス』を解除しようとすると、ふと『収納物一覧』が視界に入った。



―――


『アイテムボックス』

 収納物一覧

 ・エコバッグ

  ・レシート


―――


 俺はそれを見て一瞬見間違えたかと思い、目をこすって再び確認するがやはりその内容は変わらない。

 慌ててスキルを解除してエコバッグの中を確認すると、そこには『収納物一覧』にあった通りレシートがあった。


「……もしかして」


 俺は電子辞書を引っ張り出してカバーケースに入れ、それをアイテムボックスに収納すると再び『収納物一覧』を確認する。


―――


『アイテムボックス』

 収納物一覧

 ・カバーケース

  ・電子辞書


―――


 もしかしてこれ、袋か何かに入れたら一つのものとして扱われるようになるのか?

 だとしたら色々と悪用できそうだな。


「と、流石にそろそろ行かないとやばいな」


 そこで俺は買い出しに行く予定だったことを思い出す。

 これ以上の検証はまた明日にすることにしよう。


 俺は改めて外出の用意をすると家を出るのだった。



◇◇◇




「合計で3255円になります! お支払い方法は?」

「現金で」

「かしこまりました。7番のレジへどうぞ!」


 俺はいつものように会計を済ませて買ったものをエコバッグに詰めると、そのまま店を出る。

 そして人気の少ない場所へと移動すると『アイテムボックス』を発動させた。


「ほいっと」


―――


『アイテムボックス』

 収納物一覧

 ・エコバッグ

  ・米2キロ

   肉300グラム

   キャベツ1玉

   玉ねぎ3個

   ………

   ……

   …


―――


 無事に収納されたことを確認してホッと安堵のため息が出る。

 もし上手くいかなかったら荷物が地面に落ちて悲惨なことになっていたからな。


「帰るか」


 空になったエコバッグに白い箱――『アイテムボックス』を詰めると俺は家へ向かって歩き出す。


「あれ、伊織くん?」


 突然後ろから声をかけられる。

 振り返るとそこにはエプロンを着た俺と同じ年と思われる女の子がいた。


「君は……?」

「そういえばこうして顔を合わせるのは初めてだったね。藤澤晴奈(ふじさわはな)って言ったら思い出してくれるかな?」


 藤澤……藤澤……。


「あっ、学級委員長の!」

「よかった。覚えててくれたんだね」


 藤澤さんはホッとした様子で笑みを浮かべる。


「それで俺に何か?」

「えっとその、たまたま見かけて声を掛けちゃっただけなの。ゴメンね」

「いや、気にしなくていいよ。ところで藤澤さんはここで何を?」

「わたしは夕飯のお買い物に。伊織くんは?」

「俺も同じだよ」

「へえ、伊織くん料理するんだ」

「簡単なものしか作れないけどね」


 そんな雑談をしていると、藤澤さんはハッとなって突然俺に頭を下げた。


「ごめん、呼び止めちゃって。また明日授業でね!」

「う、うん。また明日」


 まるで何か怖いものから逃げるかのような、そんな様子で藤澤さんはスーパーへと走っていく。

 何があったんだろうと考えていると、ふと彼女の上着の裾から痣のようなものが見えた。


「……『鑑定』」


 内心では申し訳なさを感じながら、俺は藤澤さんを対象にしてスキル『鑑定』を発動する。


―――


対象:藤澤晴奈 人間 14歳

状態:栄養失調 内出血 気分障害

補足:虐待、脅迫などにより肉体的・精神的に疲弊している。


―――


 表示されたその内容に絶句してしまう。

 栄養失調? 虐待? 脅迫?

 思わず『鑑定』が間違った情報を表示しているのではないかと疑ってしまうが、それを確かめる術はない。


「……帰ろう」


 何にせよ確固たる証拠がない以上、今の俺にはどうすることもできない。


 俺は陰鬱な気分で帰路についたのだった。



◇◇◇


「これを1人で持って帰ってきたの……?」


 買ってきたものを冷蔵庫に仕舞っていると、道場から帰って来た佳那が驚いた様子で声を上げる。


「ちょっと前から鍛えててさ。これくらい楽勝だったよ」

「ふーん」


 空元気にそう答えると佳那は疑いの眼差しを向けてくるが、すぐに興味を無くして冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出してそれを飲み干す。

 そこで俺は佳那がどこか落ち込んでいることに気づく。


「何かあったのか?」

「……今日、こっちに来てからずっと優しくしてくれてた先輩が道場を辞めたって聞かされてさ。もう何ヵ月も通ってなかったから覚悟はしてたんだけど」


 なるほど、落ち込んでいた理由はそれか。

 しかしあの佳那がこれほど入れ込むとは。

 その先輩とやらはどんな人だったのか気になるな。


「なんで来なくなったんだ?」

「おうちのことで色々大変なんだって。また会いたいな、藤澤先輩」

「……藤澤?」

「うん、藤澤晴奈先輩。すっごい強くて優しくて、皆から慕われてたんだ。確かお兄ちゃんと同じ学校に通ってて学級委員長をしてるんだって」


 俺と同じ学校で学級委員長の藤澤晴奈……。

 恐らく、いやほぼ確実にさっき会ったあの「藤澤さん」のことだろう。

 やっぱり一度確かめた方がいいかもしれないな。


「お兄ちゃん、どうかしたの?」

「なあ、明日の当番はお前だったよな」

「うん、そうだけど……」




「明日の当番も俺がやるよ。佳那はゆっくり休んでいてくれ」

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