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第71話 お屋敷にお呼ばれされました 4

「青春真っ盛りの高校生の貴重な放課後を掃除に奪うってどう考えてもおかしいよね」

「そうだなあ……」

「ウチの学校でも業者取り入れたらいいのに」

「そうだなあ……」


 俺は廉太郎の愚痴を聞き流しながらほうきを掃く。

 2学期が始まって早1週間、状況は全くと言っていいほど進展していなかった。

 久遠からの返信は相変わらずなく、アリシアは何か用事があるのか掃除当番の日以外は帰りのHRが終わるとすぐに教室を出ていってしまうため手紙について相談できていない。

 そろそろ行くか行かないか判断を決めないといけないところなのだが。


「修、話聞いてる?」

「ん? ああ、聞いてるよ。ウチの学校でもロボット掃除機取り入れたらいいのにって話だろ?」

「微妙に合ってない……。てかどうしたのさ。今日ずっと上の空だよ。女の子にフラれたの?」

「ちげーよ。早く掃除終わらせてさっさと帰って昼寝してーなって考えてただけだ」

「ぁ、そ」


 俺のダルそうな態度から、これ以上話かけても面白い話が出てこないと察したのか、廉太郎は真面目に掃除をし始める。

 

 やっぱりダメ元でメッセージを送ってみるべきか?

 そんなことを考えながらほうきを掃いていると。


「おっと」


 ポケットに突っ込んでおいたスマホがバイブ音を流し始める。

 佳那が今日の夕飯のリクエストでも送ってきたのか、と考えながらほうきを壁に立てかけスマホを開くと。


『アリシア:手紙の件で確認したいことがあるのだけど今晩そちらに電話をかけてもいいかしら?』


 予想外の相手から予想外のメッセージを送られ、思わずスマホを握る力が強くなってしまう。

 

「なに? 誰からの連絡?」

「……妹からだよ。家事当番忘れんなよって」

「へえ、妹さんかあ。……なあ、修。もしよかったら――」

「絶対お前には紹介しねえからな」


 廉太郎を適当に誤魔化しながら、改めて届いたメッセージを確認する。


『手紙の件で確認したいことがある』


 アリシア、ひいては彼女が所属する組織は俺を四六時中監視しているから、当然あの式神から手紙を受け取ったということを知っているだろう。

 気になるのは何故このタイミングでこのメッセージを送ってきたのか、だ。

 

「ちょっと男子ー、ちゃんと掃除してよねー」

「はいはい、わかったよ」


 スマホを凝視していると廉太郎がからかうように話しかけてくる。

 何にせよ向こうが電話したいと言っているんだ。疑問はそこでぶつけるとしよう。


 俺は『21時くらいなら大丈夫』とメッセージを返すと、すぐに『ならその時間で』と返事が返ってくる。

 それを確認すると、俺はスマホをポケットにしまい掃除を再開した。


「なあ、修。せめてIDだけでも――」

「絶対にお前には紹介してやらねえ」




◇◇◇



「ふぅ……」


 時刻は夜の9時。

 明日提出の課題を終わらせてノートを閉じ、大きく伸びをしているとスマホから着信音が流れ出した。

 端末を手に取り液晶を確認すると、そこにはアリシアの文字が。


 念のために『認識阻害魔法』で話の内容が外に漏れないようにしてから、俺は通話ボタンを押した。


「もしもし?」

「夜遅くにごめんなさい。今大丈夫?」

「ああ、大丈夫。それで確認したいことって?」

「始業式の日に誰かから手紙を受け取っていなかった?」


 おぉ、これまたド直球に質問をぶつけてきたな。


「あー……、受け取ったよ。けどアリシアたちは俺のことをずっと監視してたんだろう。わざわざ確認を取る必要なんてあるのか?」

「……ごめん、質問は後にして。それで手紙は見たの?」

「ん? ぁあ、見たけど……」

「何か違和感を覚えたりしない? 体がだるいとか眠れないとか、そうは思っていないのに何かをしないと仕方がないみたいな――」

「いやあ、特にそういったことは……」


 アリシアの何処か焦っているような、慌てているような、そんな印象を感じさせる口調で投げ掛けられた質問の数々に平静に答えると、彼女は安堵の息をついた。


「……良かった。今のところは何も起きてないようね」

「どうしたんだよ。柄にもなく焦って」

「焦って当然よ。貴方、久遠家の式神と会って、しかもそれが持ってた手紙を見たんでしょ? ああいった名家は視線を合わせただけで人を狂わせるような呪術も扱ってるから迂闊に接触するのは厳禁なのよ」


 こっわ! そんなものが現実に存在するのかよ!

 結果的に言えば何も起こっていないけど、最悪の場合、俺か佳那のどっちが死んでた可能性があったのか……。

 ……いや、というか。


「ならその日の内に連絡してくれよ。そうしてくれたら少なくとも手紙を見たりはしなかったぞ」


 そう、監視しているのならあの日に連絡をしていればアリシアはあんな不安を抱えずに済んだだろうし、俺や佳那が危険な目に遭う可能性も低く出来たはずだ。

 


「……そうね。もっと早く伝えられていれば余計な不安を与えずに済んだかもしれない。本当にごめんなさい」


 アリシアのその言葉に引っ掛かりを覚える。

 ――もっと早く伝えていれば。それが意味するものはつまり。


「もしかして、連絡しなかった(・・・・・)んじゃなくてできなかった(・・・・・・)のか?」

「……恥ずかしい話だけど、そうね。わたしたちは組織お抱えの退魔士に指摘されるまで、あの式神のことを何の異常もないただの人間だと思い込まされていた。おかげで連絡を取るのにここまで時間が掛かったわけ」


 それが今日まで連絡が遅れた理由か。

 ……待てよ?


「夏に黒い着物っていうクソ目立つ格好をしてたのに誰もおかしいと思わなかったのか? うちの妹とかビビって家に近づけなかったくらいだぞ」

「着物? 映像だとラフな格好をした貴方と同年代の男性だったけど」

「ぁ?」

「……そういうこと。あの式神、見る人によって外見が変わる術式が組み込まれていたのね」


 あー……、そういえば情報隠匿能力とかいうのを持ってるとか何とか『鑑定』に書いてあったな。

 それでアリシアたちは違和感に気づくことが出来なかったと。


 ……いや、式神だの呪術だのに素人な俺たちがあーだこーだと議論しても答えなんて出ないか。

 とりあえず今は……。


「話ついでに俺からも確認したいことがあるんだけど、いいか?」

「わたしで答えられるものなら」

「受け取った手紙には来週の連休に俺を久遠家の本邸に招待したいと書いてあった。これについてどう思う?」

「……差出人は誰になってる?」


 訊かれたので机の引き出しから手紙を取り出して、差出人を確認する。


「久遠宗玄って書いてあるな」

「ありがとう。……わたし個人の考えとしては手紙の内容は忘れた方がいいと思うわ。ほぼ間違いなく厄介ごとに巻き込まれるでしょうから」

「厄介ごと?」


 俺が聞き返すと、アリシアは一瞬答えるのを躊躇う。

 しかし変に隠したり誤魔化したりするより、誠実に答えた方がいいと判断したのか、彼女は意を決したようにこう告げた。


「久遠家では今、次期当主を決めるための【選定の儀式】が行われているのよ」

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