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第66話 あるヒーローに憧れた者の末路

(……っ!? どうして僕はあんなことを……)


 突如、走馬灯のようにこれまでのことを思い起こしてしまう。一体どうしてこんなことに……?


(……これから彼を殺すからか?)


 あの人間を洗脳してヒーロースーツを装着させるのは……恐らく意味がないだろう。

 彼は自力で異能を習得し、そしてそれを使いこなすことができる本物の能力者だ。

 最初に襲撃を仕掛けられた時に、レッド・ライザーやローズ・ピンクバロネスの救援を諦めてデータ収集に徹したのも、彼が制御することが可能な人間かを確かめるためだった。

 そしてその結論は『制御することは不可能、もしまた接触するようなことが起きれば殺害するしかない』というものだったのだ。


(もうヒーローなんて建前に過ぎない。僕は僕の王国を守らなくちゃいけないんだ……!)


 この部屋を満たす蒸気のせいでよく見えないが、それでも彼が横たわって身動きすることすら出来ないということだけは分かる。


 つまりこの剣を彼の胸元に突き立てれば確実に仕留められる、ということだ。


 僕は蒸気で視界の殆んどを遮られながらも、横たわる人影を目標に一歩一歩、着実に歩を進めて行く。


 そして確実に心臓に剣を突き立てることが出来る位置にたどり着いたその時、僕はようやく気づく。


『……氷の、人形?』


 僕が彼だと思っていたもの、それは精巧に作られた氷の人形だったのだ。


『……囮?』


 まさかこの僕がまんまと奴の罠に嵌まったというのか?

 いやそれよりも考えるべきなのは……!


『何処だ!? 何処へ行った!?』


 ゴーグルに備え付けられた索敵機能を全てオンにして僕は消えた敵の姿を必死に探す。

 もう既に逃げているという可能性は一先ず除外していいはずだ。

 自由自在に転移することが出来る能力、そんなものを持っているならこんな目眩ましなんかせずとも脱出できるだろう。


 しかし敵の姿を見つけることは一向に叶わず僕は徐々に冷静さを失っていった。


(本当にっ、何処へ逃げたんだよ……!?)


 一か八か、全方位360度に攻撃を仕掛けて炙り出してみるか?

 だけどそれでは―――。


 その時、左の肩にザクりと何かが突き刺さるような、そんな感触を覚えると共にその重さに耐えきれず地面に押し倒されてしまう。


(……何だ? 今度は何が起きたんだ?)


 何とか力を振り絞って左肩を見てると、元々あった装飾や装甲を破壊して蟹の鋏のようなものがスーツのパーツをぎっしりと挟み込んでいる。


 何が起こったのか分からず僕は一瞬思考を停止させてしまう。


 そしてそれは敵にとって攻撃を加えるのに十分過ぎる程の時間だった。


「ふんっ!」


 左肩に突き刺さった装置の中心部にある装置が何かを巻き取るように回転し始める。

 それとほぼ同時に僕はようやく敵意を感じ取った。


(スキルの発動は――間に合わない!?)


 敵は両手に持った氷のナイフを目にも留まらぬ早さで何度も何度も振り下ろし、火花を飛び散らせながら僕のスーツの装甲を削り取り始めた。

 どうやってあの氷が溶けないようにしているかは分からないが、それを考察する時間なんてない。


 このままでは間違いなくスーツの装甲は全て剥がれ落ち、僕は生身でこの化け物と対峙せざるを得なくなる。


 ――苦渋の決断だがやむを得ない。

 僕は予めスーツに仕込んでおいた自爆機能を起動させると、瞬間脱着機構によりスーツはそのまま敵から逃げ出すことに成功する。


 そして僕が爆発範囲内から逃げ出したちょうどその瞬間、スーツは大きな音を立てて爆発四散した。


「終わった、んだよな?」


 思わずポツリとそう呟いてしてしまう。

 爆発する最後の瞬間、スーツの上に跨がる人影があったのは見えた。

 恐らくよっぽどのことがない限り敵はあの爆発に巻き込まれてくれただろう。


「はあ、はあ、……クソ」


 ついに人を殺してしまったということより、この窮地を脱することが出来たと考えてしまう自分に苛立ちを感じながら僕は司令室の真下にある自室へと向かうことを決めた。


 この超救助戦隊の要であるヒーロースーツやベースを維持するのに最も重要なあの水晶が無事かどうかを確かめるために。


「――へえ、その水晶とやらがこんなバカデカいものを浮かしたり、あのスーツのバカげたスペックのタネなのか」


 その時、後ろから聞いてはいけないような、否、聞こえてくるはずのない声を耳が拾ってしまう。


「な、あっ……」



 そこに立っていたのは間違いなく奴だった。

 その身体は至近距離で爆風を受けたにも関わらず傷一つなく、その瞳は獲物を見つけた獣のように爛々と輝いている。


「はぐっ!?」


 そして次の瞬間、僕は何かの衝撃を当てられて一瞬の内に意識を刈り取られてしまうのだった。



◇◇◇



「『鑑定』」


――――


加藤正義 14(16)歳 人間 レベルn/a

状態:気絶

補足:水晶の状態を確かめるために、司令室地下の自室兼安置所に向かおうとしたところを背後から奇襲されて気絶した。


――――


 ようやく使えるようになったスキル『鑑定』で勇者様、もとい加藤正義とやらの気絶を確認した俺は大きく伸びをする。

 一か八かで試してみた氷人形による囮作戦だったが、まさかここまで効果抜群だとは。

 いやはや、何事も試してみるもんだねえ。


「さてと」


 俺はそのまま加藤君が向かおうとしていた台座の下にある彼の私室兼安置所へと降下する。


「部屋の内装は他のヒーローの部屋と大して変わらない感じか」


 私室は以前人形越しに見せられたあの部屋と同様で風呂場やトイレ、タンスや机に冷蔵庫と生活に必要なものだけしかない。

 唯一の相違点は奥にさらにもう一部屋あるということくらいだろう。


「ん?」


 早速とばかりに俺はその部屋の扉を開こうとドアノブを握るが、ピクリとも動く気配がない。

 よく見るとドアノブには鍵穴のようなものがあった。


 ただでさえ外部から隔離された部屋の中にさらに鍵を用意する。ということはやはりこの部屋の中には彼が何としてでも守りたかったものがあると見て間違いないだろう。


「ふんっ!」


 これなら身体強化を使うまでもない。

 俺は勢いだけでドアを蹴破ると、そのまま土足で入室する。


 安置室とされたその部屋は薄暗く、それでいて何処か神聖さを感じさせるような場所だ。

 そして部屋の中央、そこには手のひらサイズの翡翠色の水晶が宙に浮かんでいた。


「『鑑定』」


――――


対象:イカイ水晶

状態:良

補足:異界から魔力を抽出し、所有者のスキル発動に必要なMPを肩替わりする。

また水晶を喪失すると元の所有者はスキルの発動が出来なくなる他、元々発動していた全てのスキルの効力が失われる。

現在の所有者は加藤正義。


――――


 これが全部のカラクリの仕掛けか。

 タネが分かった以上、これをこの場所に置いておく理由はない。さっさと破壊するなりアイテムボックスに収納するなりした方がいいのだろうが。


「うおっと」


 ドォンと大きな爆発音が聞こえ、この空中要塞もまた大きく傾く。


「まずはこのデカブツをどう軟着水させるかだな」


 俺は『感覚共有』を発動させると、空中要塞の上空に予め待機させておいた『水魔法』ドローンからケーブルを射出させて、これを安全に、そして人気のない場所へと着水させることに意識を集中させるのだった。


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