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第64話 ヒールを演じることになりました 4

『来たな、怪人!』

『貴様を勇者様に近づけさせたりしない!』


 『身体強化』を重ね掛けし、装甲板を引きちぎって上層部へと飛び移ると、早速とばかりにヒーロースーツの集団が俺の前に立ち塞がる。

 数は……30人前後か。

 まあこれなら何とか出来るだろう。


『覚悟しろ、この外道……っ!?』


 先頭の赤いヒーロースーツが俺に殴りかかってくるが、彼(彼女?)が振り上げた拳は『氷結魔法』で生成した氷の鎖によって完全に縛られていた。


 奴だけではない。この場に集まった人間は俺を除いて全員同じように氷の鎖に四肢を縛られている。


『小癪な真似を……! だが残念だったな! このオレの力は炎を操ること! こんな氷など――』

「あー、溶かしてもいいけど後で後悔してもしらないぞ?」

『あ?』


 赤いヒーロースーツは手首足首から炎を噴出させて氷の鎖を溶かしていく。

 と、同時に『氷結魔法』で生成する際に予め仕込んで置いたスライム状の液体が赤いヒーロースーツに覆い被さる。


『クソ! 何だよこれ!?』


 赤いヒーロースーツは炎を噴出したり、腕を乱暴に振るってスライムを振り払おうとするが、彼ないし彼女が動けば動くほどに拘束はより強まっていく。


『く……そっ……たれ……』


 拘束の強化と体力の消耗の合わせ技により疲労困憊となった赤いヒーロースーツは、息も絶え絶えにそう呟くと意識を失う。


 それを見てなお無意味に抵抗しようとするヒーローはどうやらこの場にいなかったらしい。


「ほっと」


 俺は一息で拘束されたヒーロースーツの集団を飛び越えると、『追跡・探知魔法』と『鑑定』、そしてヒーロースーツの中身から聞き出した情報と『水魔法』で生成した探索ドローンの情報とを合わせて自分が今いる地点と周囲に敵がいないかを確認する。


(近くに敵の姿はなし。『勇者様』とやらがいる司令室もここのすぐ真上、か)


 俺は『身体強化(中)』を発動しながら壁を蹴って天井近くまで移動すると、『水魔法』で小型のウォーターカッターを作成して大きな穴を穿ち、そこから上層へと移動する。


「あらら、しくじっちゃったな」


 本来の予定では『勇者様』のいる司令室にそのまま忍び込むつもりだったのだが、位置取りをミスって司令室の扉の前に出てしまった。


(『鑑定』)


――――


対象:扉

状態:良

補足:スキル『鍛冶技巧』並びにスキル『設計』によって爆薬の衝撃や魔法攻撃にも耐えられるようになっている。


―――


 俺の覚えている限りスキルレベル以外で【スキル】の単語が出てきたのはこれが初めてだ。

 そしてどのヒーロースーツも口を揃えて主張していた『異世界から帰還せし聖なる勇者』という言葉。


 まさか本当に異世界から帰ってきた奴が一連の事件の黒幕なのか……?


「どっちにしろ直接会わなきゃ意味がない、か」


 俺は深く深呼吸をすると、再び『身体強化』と『身体強化(中)』、そして念には念をと『マジックカウンター』を発動させて目の前の分厚い扉を蹴り破る。


 扉が鉄屑となると、部屋の奥から冷たい空気が流れ込んでくる。

 俺は『追跡・探知魔法』で敵が現れないか確認しながら中へと入る。


 扉の奥、『勇者様』とやらがいると言われている司令室へと繋がっているのであろう通路は全体的に薄暗く、また非常に殺風景だ。


「……なんだ、ここ」


 それを慎重に警戒しながら進んでいくと、やがて巨大なホールへとたどり着く。


 部屋の内部にあったのは中央に設置された台座のようなものと、それを取り囲むように配置された6枚の空中ディスプレイだけ。

 彼らヒーロースーツが『勇者様』と信奉していた人物は影も形もなかった。


 おいおい、ここまでやって「全て無駄骨でした」なんてつまらない冗談はよしてくれよ。


 心の中でそう祈りながら、『氷結魔法』で氷のナイフと『水魔法』でウォーターカッターを内蔵した浮遊ドローンを作成して中央の台座へと近づく。


「ああ?」


 その時、台座が真っ二つに割れて内部から小さい頃に日曜朝にやっていた特撮番組の主役ヒーローをそのまま再現したパーツがそれぞれ独立浮遊して飛び出してくる。


『……君か。ボクの理想を叶える舞台を破壊しにきた奴は』


 そして最後に現れたのは黒いローブを纏った少年だった。


「確認させてもらうが、あんたがあいつらの言う『勇者様』か?」

『最早隠し立てする理由はないな。そうだ、僕が超救助戦隊の司令であり勇者だ。そして――』


 空中に浮かんでいたパーツは次々とローブの中へ入り込んでいき、ガチャンガチャンと何かが連結するような音が聞こえてくる。


 そして最後に頭部にあたるパーツが少年の顔を覆うと、彼はローブを脱ぎ捨て、俺に向かって飛びかかってきた。


『僕たちの楽園を壊そうとする侵略者である君を排除する者だ!』

「おっと……」


 ローブ服の少年だったヒーロースーツはその手に握る剣を振り下ろしてきて、それを俺は咄嗟に作成した『氷結魔法』の盾で防ごうとする。


(『鑑定』は……、やっぱり対策済みか)


 この僅かな隙にスキル『鑑定』で弱点を探れたら良かったのだが、案の定対策されてしまっていた。

 となるとここからはどちらかが相手を完全に打ち負かすまで終わらないというわけだ。


(『氷結魔法』!)


 俺がスキルを発動させると、床から氷の蔦が伸びてローブ服の少年だったヒーローの足を絡めとる。

 まずは足は封じて、その間に少しでも距離を取る。

 そう考えての選択だったのだが。


『ぐぅおおおおおおお!』

「嘘だろ……!?」


 ローブ服の少年だったヒーローは力任せに拘束を破ると、俺に向かって突っ込んできた。


(『身体強化(中)』!)


 それをすんでの所で回避した俺は、ついでとばかりに拘束用に生成した氷の蔦を『鑑定』する。


――――


対象:氷結特殊拘束具

状態:悪

補足:スキル『鍛冶技巧』とスキル『設計』によって『万物を切断する力』を付与された剣で切られた結果、拘束具の耐久性は劣化し、内部のスライムもただの水へと変化している。


――――


 なるほど、これもあいつのスキルの賜物ってことかよ。


「なあ、あんた! さっき楽園どうとか言ってたがありゃどういう意味だ?」

『……っ!』


 その瞬間、全身をヒーロースーツに覆われているはずなのに、ローブ服の少年の顔が歪んだように感じた。


『……そのままの意味だ。僕のような、いや僕たちのような落ちこぼれでもヒーローになることが出来る楽園! それがこのベースなんだ!』


 そう叫ぶと共に玩具のような剣に炎が纏う。

 その熱量は凄まじく、この殺風景な司令室の壁や床、天井の一部が溶け出すほどのものだった。


『それを破壊するお前を! 僕は絶対に許さない! ここから消えて失くなれぇええええええっ!』


 ローブ服の少年だったヒーロースーツはそう叫び、炎の刃をさらに延長させると、怒りのままに俺へと振り下ろす。


(『水魔法』)


 対して俺はこの司令室を分断するサイズの巨大な水の壁を発生させる。

 そしてマグマのように熱く燃える剣と『水魔法』によって生成された水の壁がぶつかったその瞬間、司令室内は蒸気に包まれた。

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