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第62話 ヒールを演じることになりました 2

「は? で、デート?」


 アリシアの口から出た言葉に思わず困惑する。

 なぜここでデートなどという言葉が出てくるんだ? 何か別の言葉と言い間違えたのか? それとも何かの隠語だったりするのか?

 などと完全にテンパっている俺を見て、アリシアはクスっと笑う。


「あなた、他人を魅了したり別人に見せたりできる能力を持ってるでしょ?」


 そして前置きもなく俺の能力―――『認識阻害魔法』について触れ出した。


「……持っているとして、それとデートがどう繋がるんだ?」

「わたしの部下に調べさせたんだけど彼らは悪役になる人間を本当に見てくれだけで選んでいるようなの」


 まぁ、それはあの夏休みというだけではしゃいで髪を染めただけの生徒が選ばれた辺りその通りなのだろう。

 ……あー、話が読めてきた。


「要はその能力で『俺たちをヒーロースーツのカモに見せかける』ってことか?」

「正解。すぐに話が通じる相手は楽で助かるわ」

「……それで、その後は?」

「同じくわたしの部下を能力で被害者兼スカウト対象者にする仕掛けをした上で催眠にかかったフリをしてヒーローを返り討ちにする。その後は彼らが【ベース】と呼称している空中要塞で派手に暴れながら本丸の勇者様を捕まえる」

「おいおい、そいつはまた随分と力任せ……、というか俺任せな作戦だな」


 アリシアの語った辛うじて作戦と呼べるような何かを聞いて、俺は改めてソファーに深く座り込むとどうするべきか考え始める。


 確かにやり方としてはなくはない。だが後もう一手、起爆剤となり得る何かが必要だろう。

 『勇者様』や他のヒーロースーツ共はあの大乱闘で増援に駆けつけてくることはなく、今も襲撃を仕掛けてくる気配はない。

 あれが予想外の事態で狼狽していたのか、それともわざわざ動く必要のない問題だと片付けたのかは分からないが、こちらから仕掛けるとしたら何かしらの揺さぶりは必要だろう。


「わかった。大筋はあんたの作戦そのままでいいよ。ただし一点だけ変更したいことがある」

「……聞きましょう」

「まずは―――」


 俺の説明を聞いてアリシアは黙り込んで深く考え始める。

 流石に無茶が過ぎたか? そう思い始めた頃に彼女は顔を上げて、俺を見た。


「ええ、確かにその方が向こうの反応も大きいでしょうね。問題はそれを実行するための用意だけど――」

「その辺の心配は大丈夫だ。一晩あればあれを十分に揺さぶれるのを用意できる」

「ならそれも貴方に任せる。負担ばかりかけて本当にごめん」

「それこそ今さらな話だろ。お互い気にしないでいこうぜ」


 俺がそう言うと彼女はこくりと頷いた。


 さて、これで話し合うべきことはもうないだろうと思った矢先、腕時計のアラームが音をたてる。


 窓の外を見ると、太陽の光と青空が見えた。


「結局徹夜で付き合わせちゃったわね」

「夏休みだし帰ったらそのまま寝るよ。作戦の日時は夕方以降にメールで送ってくれ」

「了解」


 そう言って俺は『空間転移魔法』で直接自宅へと戻ろうとする。


 と、その前に。


「なあ、どうしてあんたは突然この事件の真相究明にやる気を出したんだ。呼び出した頃は全くと言っていいレベルでやる気なかっただろ?」


 その俺の質問にアリシアは一瞬顔を曇らせると、あからさまな作り笑いを浮かべてこう返した。


「どうしても手に入れたい情報があって、組織内で出世するための好機が舞い込んできた。それだけのことよ」




◇◇◇




 斯くしてヒーロースーツの集団と激闘を交わしてから3日後、俺はアリシア、もといアリサと注目を集めるためにデートすることになったわけだが……。




「あ、ねえねえ! アタシあのぬいぐるみが欲しい!」


 アミューズメント施設内のレストランで食事を済ませてウロウロしていると、アリシアが俺の腕に抱きつきながらクレーンゲームを指差す。


「お、おう。わかった。取ってやるよ」


 俺はぎこちない返事をすると、クレーンゲームの操作盤の前に立つ。


(……なあ、アリシア。俺この手のゲーム本当に苦手なんだけど)

(カップルだったらこういうのが定番でしょ。四の五の言わずに動きなさい。それに費用は経費で落とすから!)


 そう言われて俺は仕方なくクレーンゲームに100円玉を入れると、ボタンへ指を伸ばしてアリシアが欲しいと言っていたぬいぐるみに狙いを定める。


 まあ、100レベル超えのステータスを持ってるし? 昔は苦手だったけど今なら楽勝でクリアできるだろう。


 ……そう甘く見積もっていたのだが。




「……いけそう?」

「大丈夫大丈夫! 次! 次で取りやすい位置にいくはずだから!」

「それつい数秒前にも聞いたんだけど……」

「ほんといけるから!」


 そう言って俺は100円玉を投入するともう一度ボタンを押す。

 アームはぬいぐるみが入った箱の取っ手を掴むと宙へと持ち上げ―――。


「あー……」


 重さに耐えられなかったのか、ぬいぐるみの入った箱はアームから落ちてぬいぐるみの山の頂上へと落ちてしまう。


 それを見て俺はほぼ反射的に財布を開いて100円玉か500円玉を入れようとするが、無情にも小銭は5円玉や10円玉が数枚ある程度だった。


「ほ、ほら!? こういうこともあるよ!? 今度は貴方の行きたい場所に――」

「……いや、こいつを取り逃がすことは出来ない」


 ムキになっていることは自分も重々承知している。それでもここまで金を投げ捨てておいて諦めるということは俺のプライドが許さなかった。

 何よりあともう一押しで手に入れられるという確信が俺にはある。……根拠はないけど。


「両替してくる」

「はあ、お好きにどうぞ」


 恐らく相当呆れているだろうアリシアの顔を見ないようにしながら両替機へと向かう。

 幸い久遠からのバイト代はまだまだ残ってるし、このデートで使われたお金はアリシアの組織が補填してくれるというではないか。


「……よし」


 財布から取り出した1000円札を両替して用事を済ませると、俺はもう一度チャレンジするためにあの台へと向かう。


「よお、姉ちゃん。俺らと一緒に遊ばない?」

「ごめんなさい。アタシ、友達を待ってて――」

「そんなのメッセージでも送って無視しろよ。オレたちと遊んだ方がずっと面白いからさ」

「えと……」


 クレーンゲームの台に戻ってくるとアリシアは見るからに不良っぽい男数人に囲まれていた。


(『鑑定』の情報を見るにこいつらはガチの不良か)


 アリシアはどう対応すべきか悩んでおり、その間も不良たちはしつこく彼女を口説こうとしている。


「悪いね、お兄さん方。こいつは俺のダチなんだ。勝手に連れてかれると困るな」

「なんだ、てめえ?」


 俺はアリシアの肩を掴もうとした不良1人の腕を掴む。


「おい、その汚ならしい腕をどけろ! さもないと―――」

「――さもないと、何だって?」


 俺は普段から自分のステータスとそれに伴い発生するプレッシャーを少しでも抑えるために別途発動している『認識阻害魔法』を緩めると、作り笑いを浮かべながら改めて不良たちの顔を見る。


「ひ、ひい!?」


 不良たちは恐怖で血の引いた表情を浮かべると一目散にその場から逃げてしまう。


『スキル習得条件を達成しました。スキル一覧に【プレッシャー】が追加されます』


 その時、久しぶりにあの機械的な声が頭の中に響く。

 エクストラスキルが追加された時から予想していたけど、新しくスキルが追加されるということもあるんだな。


 と、考察は後だ。

 俺は『認識阻害魔法』を改めてかけ直してからアリシアに話しかける。


「ごめん。迷惑かけたな」

「い、いえ。大丈夫よ」


 そう言うアリシアだがどうも歯切れが悪い。

 これは不良たちに絡まれたから、というより俺が一瞬ではあるが『認識阻害魔法』の一部を解除したからだろう。


「どうする? 時間帯としては良い頃合いだと思うけど」

「……そうね。一度外に出て確認してみましょうか」


 腕時計を確認すると俺たちはアミューズメント施設を出る。

 どうも嫌な終わり方になってしまったな、そう考えていると。


「っ!?」

「これ、って……!?」


 突然激しい頭痛と共に命令と思想が頭の中に流れ込むような感覚が俺たちを襲う。


 『3つ先のビルの路地裏にいる女子中学生を恫喝しろ』という妙に具体的な指示と、『脅して金を強請る行為に問題なんてない』という思考。


 どうやら作戦の第一段階は成功したらしいな。

 そのことを確認すると俺は自分とアリシアを対象にして『ディスペル』を発動して洗脳を解除する。


「はあ……、はあ……、敵は引っ掛かってくれたようね」

「そうらしいな。俺たちを1日中注目するように仕掛けた甲斐があったよ」


 洗脳を振り払った俺たちは、指示された場所に向かって歩き出す。


 さあ、作戦の第二段階の始まりだ。

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