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第57話 都市伝説を知りました 4

「……あの、大丈夫っすか?」


 ヒーローとの遭遇現場から少し離れた人気のない路地裏、そこで俺は軽く眠らせておいた少年たちの身体を揺すって起こす。


「う、うぅ……ここは?」

「何でオレら地べたに這いつくばってるんだ……?」


 少年たちの反応は皆同じで自分が今置かれている状況に混乱していた。


(……念のために一応確認しておくか)


 俺はピンク色のヒーロースーツに殴りかかった銀髪の少年を対象にして、スキル『鑑定』を発動する。


―――


横井成治 人間 16歳

状態:記憶と意識の混濁 軽い吐き気と頭痛

補足:記憶の改竄と洗脳操作(特定の対象に恐喝を働くようにする)を受けていたため、体調が優れない。

■■高校1年生。夏休みということで出来心で仲間と共に髪を染めた。

羞恥心から新学期が近いことを理由に近く髪の色を戻す予定。

補導歴などはなし。


――――


 鑑定で表示された情報、そして通っている学校がここらでもそこそこ校則が厳しめな進学校だということを考えると、彼らは夏休みの出来心で不良ごっこをしているだけの普通の学生なのだろう。

 そして最も重要なのが「記憶の改竄と精神操作」という部分だ。


「一応救急車呼んでおいたのでとりあえずここで待っていてください」

「あ、ありがとう。ところであんた、オレらが何でここで倒れてたか知ってるか?」

「―――いや、自分は買い物に行く途中で倒れている貴方たちを見つけて119番通報しただけなので」

「……そうか。……くそっ、カラオケを出た所までは覚えてるのに」


 そんな話をしている内に数台の救急車がやってきて、その中から何人もの救急隊員が降りてくる。


「倒れている方がいるとの通報を受けましたが――」

「こっちです!」


 俺が大きく手を振ると、駆けつけてきた救急隊員は手際よく少年たちを担架に乗せると救急車へと運んでいく。


 彼らは救急隊員に偽装したアリシアが所属する組織のエージェントで、フロント企業として保有している病院であの少年たちの検査と「情報収集」を行うらしい。

 しかしあの『鑑定』結果を見るに恐らく有益な情報は殆ど出てこないだろう。


(となると次に調べるべき対象は……)


 俺は『追跡・探知魔法』を使ってあのヒーロースーツに取り付けた『水魔法』の追跡装置の位置を調べる。

 ま、大方郊外の廃屋か山奥などの人気の少ない場所なんかを指し示すのだろうと考えていたのだが……。


「……ああ?」


 表示された追跡装置の位置情報、そしてあのヒーロースーツが少年に手渡した手紙の内容を見て思わず間抜けな声が出てしまう。

 俺がそんな反応をしてしまった理由、それはピンク色のヒーロースーツに取り付けた追跡装置が、旅客機の巡航高度よりも遥か上の高度20000メートルで静止しているという衝撃的なものだったからだ。




◇◇◇




「おかえり。兄さん」


 スーパーで買い物を済ませて帰宅すると、佳那は腕組みしながらニッコリと笑みを浮かべて玄関で俺を待ち構えていた。


「あそこのスーパーまで10分もかからないよね? なのにどうして1時間も出掛けたままだったのかなあ?」


 あー、予想はしてたがやっぱりぶちギレてるなあ。


「……色々あったんだよ。それとこれ、早く冷凍庫に入れておいてくれ」


 そう言って俺は買ってきてくれと頼まれていた醤油とお酢、そして高校生の懐事情では中々手が出しにくい値段の赤い蓋のアイス、その詰め合わせセットを取り出し、それらを佳那に渡す。


「え、嘘マジ!? 本当に買ってきてくれたの!?」

「苺は1個残しとけよ。あとは全部食っていいから」

「はーい!」


 「現金な奴だなあ」と呆れながら浮かれた様子でキッチンへと走っていく佳那を見送ると、俺も自分の部屋へと戻る。

 とりあえずあれで妹様がご機嫌も回復しただろう。

 

「ふぅ……」


 ベッドに腰かけて『アイテムボックス』から取り出したスポーツドリンクを一口飲むと、続いてスマホを操作してある人(・・・)に連絡を試みる。


「もしもし? 今って大丈夫か? 少し聞きたいことがあるんだけど……」

「ええ、大丈夫よ。それにわたしも貴方に色々と聞きたいことがあったから」


 電話口から聞こえてきたアリシアの声は、何処か怒っているような印象を受けた。


「単刀直入で聞かせてもらうわ。貴方、今回の件にも首を突っ込むつもりなの?」

「……あのヒーロースーツを実際に目にするなんてことにならなかったら関わるつもりはなかった、と思う。多分恐らく」

「つまり実際に事件を目撃したことで今はガンガン関わるつもりでいるわけね」


 そう言ってアリシアは呆れたようにため息をつく。


「……どうせ止めろと言っても止まらないでしょうし、わたし達に貴方を止める力はない。それにあのヒーロースーツの集団についての情報は集まってなくて、それこそ猫の手を借りたいような状況なのも事実」

「それって――」

「調査状況は共有する。ただしあの連中に寝返る、なんてことはしないでよ」


 アリシアはそう言うと、呆れたようにため息をつく。

 とりあえずこれで第一関門はクリアした、と考えていいだろう。

 なら遠慮することなく質問をぶつけるとするか。


「それじゃまず救急車に運ばれたあいつらの様子は?」

「軽い吐き気と頭痛を感じているくらいで、至って健康そのもの。ただ一時的な記憶喪失というのが気がかりね」


 それは『鑑定』の結果からも分かっていたことだから大した驚きはない。


「……その【記憶喪失】でいつからいつまでの記憶が失われたんだ?」

「大体2時間前、彼らが駅前のカラオケを出たタイミングからの記憶が無くなってるそうよ。それとちょうどその時間帯に彼らがその場所から出たことは近くの防犯カメラで確認済み」


 うん、これもあいつらがボソッと呟いていた通りだ。

 さて問題は。


「そこからのあいつらの行動は分かっているのか?」

「ええ、勿論。まるで催眠にでもかかったみたいに一直線に貴方の言う【恐喝現場】へと向かっていったわ」

「それじゃ恐喝していたことや、恐喝相手との面識はあったのか?」

「いいえ、全く。双方共に面識も無ければ接点もないわ」


 すると考えられる可能性は―――。


「全部あのヒーロースーツの連中のマッチポンプ(・・・・・・)ってあり得るか?」

「大いにあり得るでしょうね。というか実際わたしらもその可能性で追っているところ」

「というと?」

「ここ最近人気のない場所で若者同士での恐喝や強姦未遂が1日辺り15件発生していて、その全てをあのヒーロースーツの不審者が鎮圧している。さらに加害者は短期の記憶喪失や催眠を受けていた痕跡に加えて、被害者とは一切の面識がないものもあるし、その被害者は事件後例外なく行方不明になってるとか怪しさの塊でしょ?」


 この平和な日本で早々起こりにくい事案が1日に15件も発生して、その全てをヒーロースーツの集団が解決している。確かにこれを偶然の一言で片付けることはできないな。

 いやだが、あの追跡装置の挙動からして実際に事件が起きてその場に派遣している、という可能性もあるのか?

 しかし加害者側が催眠状態にあったということを考えるとやはり何か裏があるのかもしれない。


「今さらな質問だし、もうとっくに試しているんだろうけど動画が投稿された端末とかは追跡出来たのか?」

「いいえ。発信元はどれもこれもデタラメとしか思えない場所で実際に調査にも行ったらしいけどそれらしいものは何もなかったそうよ」


 つまり本当にお手上げ状態というわけか。

 ならば。


「調べて分からないなら直接話を聞きに出向くしかないだろうな」

「聞きに行くって、簡単に言うけれどそれが出来れば苦労は――」

「まあまあ、連中のアジトに殴り込む手段はもう考えてあるからさ」


 そう前置きしてから、俺は潜入作戦の概要、そしてあの手紙の中身をメッセージアプリでアリシア宛に送信する。


「……いいわ。貴方の賭けに乗りましょう」


 内容を聞かされた彼女は、まず困惑し、ついでため息をつき、そして呆れながら俺の提案を受け入れた。


「それで決行日時はいつにするの?」

「明日の午前3時、事は早い内に済ませた方がいいだろ」

「了解。ならわたしは装備を調達するから、貴方も作戦の成功確率を少しでも上げるよう努力してよね」

「はいはい」


 そのやり取りを最後に俺はアリシアとの通話を切る。


「さてと、それじゃやれるだけのことはやっておきますか」



 そうして俺は『水魔法』で水球を出現させると、それを素材にあの恐喝されていた少年に限りなく酷似した人形(・・)の作成に取り掛かり出した。

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