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第56話 都市伝説を知りました 3

 遡ること10数分前。


「……何にも出てこないな」


 家に帰った俺はスマホを開き、早速SNSでヒーロースーツを着た不審者について調べてみたが全く情報が出てこない。

 アリシアの組織がそういった噂を片っ端から潰しているのか、それともあのヒーロースーツを作り着込んでいる連中が徹底的に隠しているのか。

 

 ……いや、確かアリシアはあの動画は動画投稿サイトにアップロードされ、それを彼女が所属する組織が削除したと言っていた。

 となると前者の可能性が高いか。


「ま、俺には関係のない話だな」


 もう既にアリシアの組織が対策に動いているようだし、俺がすべきことは下手に疑われないよう今まで通り夏休みを謳歌するだけだ。

 そうするべきなのだが。


(……とりあえずイベントの周回でもして気を紛らわせるか)


 無理やり思考を切り替え、ゲームのアプリを開こうとしたその時。


「ねえ、起きてる?」


 ちょうどそのタイミングで扉の向こうから妹の声が聞こえてきた。


「ん、起きてるぞ」

「ならスーパーで醤油とお酢買ってきて。どうせ暇でしょ」

「確かに暇だけど……。分かった、醤油とお酢だな」

「それと赤い蓋のアイスも買ってきてくれてもいいのよ。マカデミアナッツ味でいいから」

「自分の小遣いで買いなさい」

「ちぇっ」


 佳那の戯れ言を無視し、俺はスマホと財布、それにマイバッグを持って家を出る。


 いつもならああいう時、どちらが買いに行くかであーだこーだと揉めるのだが今回は歩きながら考えたいことがあったから素直に引き受けた。


 考えたいこと、それは勿論例のヒーロースーツについてだ。

 何もしなくていいと言われたし、こちらからも積極的に何かをするつもりはない。

 とはいえこれまで万能だったスキル『鑑定』をメタられたのだから多少なりとも興味は出るし、どういった技術が使われてるのか、誰が使っているのかは知りたくなる。

 問題は考察の材料となるものが全くと言っていいほどないことなんだけどな!


(……そういえばあいつら異世界から帰った【勇者様】に力を授けられたとか言ってたな)


 異世界、勇者、その2つのワードを聞かされれば必然とあの日のことを思い出してしまう。


 神を自称する存在、アシェラ。そして奴によって【世界を救う勇者】として異世界に連れ去られた25人の同級生。

 それと同時に俺に宿ったこの尋常ならざるRPGを現実化したような力。


(……もしかして俺の同類か何かなのか?)


「………しろ!」

「だ……け……!」


 そんなことを考えていると、どこかから何か叫び声のようなものが聞こえてくる。


 俺はとっさに『認識阻害魔法』を発動させ、『水魔法』で生成した即席のカラスと『感覚共有』して解き放つ。


(――見つけた!)


 カラスが視界で捉えたもの、それは人気の少ない路地裏で如何にもガラの悪そうな金髪や銀髪のヤンキー数人が塾帰りか何かなのだろう中学生と思われる少年を脅している光景だった。


『なあ、いいだろ? 1万円でいいからさ』

『も、そんなお金持ってないです……!』

『ちっ、使えねえなあ……』


 これはいけないな。


 カラスの視界の範囲内に他に出歩いている人の姿はなく、またこの近くに交番はない。

 このままだとあの少年は間違いなくろくでもない目に遭う。


(……いつも通りやれば問題ないよな)


 俺は自身に対する『認識阻害魔法』をさらに強化させて周囲からは透明人間にしか見えないようにすると、『空間転移魔法』で密かに彼らのいる場所へと転移した。

 

「払えねえってならちょっとサンドバッグになってくれよ? オレ今すげえ金欠で腹が立って仕方ねえんだ」

「ひぃっ!?」


 その中々お目にかかれないガラの悪さにドン引きしながら、俺は密かにヤンキーの背後へと移動する。

 とりあえずいつも通り『認識阻害魔法』で適当に眠らせて、あとは悪さを働くことのないよう罪悪感でも植え付けておこう。


 そうしてスキルを発動しようとしたその時、俺は少年を脅しているヤンキーたちに違和感を覚えた。

 夕暮れ時ということもあって分かりにくいが、彼らの目に生気はなく、声の抑揚からして無理やり喋らされている感じがする。

 もしかしてこいつらは――。


(待て待て、考察は後でも出来るだろ。今はこいつらを無力化する方が先だ)


 俺は雑念を振り払うと、改めてヤンキー共を対象にして『認識阻害魔法』を発動をしようとする。



 ――その時、辺りに桜の花びらのようなものが舞い、それと同時に隕石のように何かが落ちてきて、衝撃波のようなものが俺たちを襲う。


(こいつはまた厄介なことをしてくれたな……!)


 心の中で悪態を吐きながら視界を滞空しているカラスへと切り替える。

 だがこちらでも土埃と花びらのせいで殆ど何も見えない。


『覚悟しろ、外道共。神聖なる勇者様に代わって従者である私が貴様らに天誅を下す』


 突然くぐもった声が聞こえてくる。

 声が聞こえた方向に見ると、そこにはあの動画で見たヒーロースーツと色だけが異なる装甲服を着た何者かの姿があった。


「なんだ? てめえは?」

『私は神聖なる勇者様に力を授かりし従者の1人。貴様らの蛮行は許しておけぬ。この私自ら粛清しよう』

「ゴタゴタと訳のわかんねえこと言ってんじゃねえよ、このコスプレ野郎がっ!」


 ピンク色のヒーロースーツの返答に苛ついたのか、銀髪のヤンキーが殴りかかろうとする。


『無駄だ』

「クソっ!? なんだよこれ!?」


 しかしヤンキーが振り上げたその腕は突如出現した蔓によって空中で固定されてしまう。


『さあ、粛清の時間だ。正義の名の下にその罪を懺悔しろ』

「う、うわああああ!?」


 ピンク色のヒーロースーツを纏ったそいつは、両腕からビーム状の鞭を発生させるとそれをヤンキーたちに向かって振り下ろす。


(……おいおい、流石にそれはやりすぎだろ!?)


 俺は『認識阻害魔法』でヤンキーたちを眠らせ、『空間転移魔法』で安全な場所へ転移させると、『水魔法』で作ったハリボテにその攻撃を受けさせる。


『ふん、口ほどにもない』


 幸いなことにピンク色のヒーロースーツは倒した相手が、ただ倒れることしか出来ない木偶人形だとは気づいていないようだ。

 それよりも今は―――。


「あ、あの! 助けてくれてありがとうございました。ところであなたは一体……」

『……私は異世界より帰還せし聖なる勇者様に力を授けられた者の1人だ』

「勇者、様?」

『勇者様はこの悪鬼羅刹が跋扈する日本を救済するために異世界にて力を得られた救世主となられるお方。そしては私は勇者様をお守りすると同時にその理想を成就させるために尽くす従者の1人だ』

「従者……」

『もし興味があるのならこの手紙に記された場所に来るといい。君には私や勇者様と同じく正義を愛する熱い心がある』

「僕にそんなものが……?」

『もちろん無理強いはしない。何を選択するかは君次第だ』


 俺は勧誘活動を行っているピンク色のヒーロースーツの背中に『水魔法』で生成した即席の追跡装置を取りつける。


『それでは少年、さらばだ』


 俺が何をしていたのか終始気づくことがなかったピンク色のヒーロースーツは飛び立つ。

 さてと。


「この手紙の場所に行けば僕もあんな力を――」

(悪いがそいつは諦めてもらうぞ)


 あのヒーローの姿に目を輝かせている少年を眠らせると、俺は彼が握り締めていた手紙を拝借し、その中身をスマホで撮影する。

 眠りもかなり浅いものにしたから5分もしない内に目を覚ますだろうし、念のためにアリシアにメッセージも送っておいたから、こちらはもう問題ないはずだ。


(……それじゃあ次はあいつらに話を聞くとしますか)


 最後に『認識阻害魔法』で少年が今さっき起きたことを思い出せないようにすると、俺は『空間転移魔法』で眠りこけているだろうヤンキーの元へ転移した。

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