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第50話 肝だめしが始まりました 6


 最後の札が剥がされると同時に刀から黒い煙が噴出する。

 その煙は人のような形を取ると、スライムの中に沈んでいた錆び付いた刀を引き抜いた。


「……っ!」


 何かを察してか久遠は炎の弾丸を煙に浴びせるが、全くダメージを与えられていない。

 その間にも煙は周囲の草花や土を内に取り込みながらその体を形作っていく。



 ――それは誰も思い描くような鎧武者だった。

 所々煤けた金色の角を生やした兜に、鬼の形相を思わせる面頬、漆黒の甲冑。

 しかしその鎧の中に本来着込むはずの人の姿はなく、代わりに黒い煙を隙間から覗かせている。


『……ォォオオオオ!! 姫ェ! 姫ェ!』


 そして鎧武者はその目に紫色の炎を宿すと、どこか怒っているような、嘆いているような声を上げながら辺りを見渡す。


「ひっ……」


 そして鎧武者は岡島もスライムから引き剥がすと、あの錆び付いた刀で切りつけると、それを腰の鞘に納める。


「あが……」


 どういうわけか切りつけられた岡島の体には目に見えるような外傷はない。

 だがその顔には苦悶の表情が浮かんでいた。

 

(『鑑定』)


 スキル『鑑定』を発動させて岡島の状態を確認するが、命に別状はないようだ。

 問題は……。


――――


黒煙の亡霊武者 怨霊

状態:狂化 半霊 精神汚染

補足:無念の死を遂げた武者の魂が取憑いた妖刀を核に、周囲の物体や黒煙を取り込んで身体を構成している。

目の前で姫を殺害され、自らも闇討ちされた武者の魂が刀に宿っており、自分たちを死に追いやった者共への憎悪の感情のみで動いている。

またその刀で切られると、生きながら永遠に死を追体験することになる。


――――


 やはりと言うべきか、あの鎧武者は例の妖刀伝説と関連があるもののようだ。

 しかし切られたらずっと死ぬ瞬間を見せつける刀とか厄介にも程があるだろ。


「……早い内に仕留めないとな」


 ならばと俺は控えさせていた5機のドローンを鎧武者に差し向け、あの刀が入った鞘を鎧武者から取り上げようと試みる。

 しかし。


『邪魔をスルナア!!』

「うそだろ……!?」


 鎧武者が鞘から刀を抜き放つと、向かわせていたドローンを全て一刀両断した。

 ならばと今度は遠距離からのスライム弾を浴びせて動きを封じようとしてみるが、鎧武者はそれも刀を一振りしただけで全て撃墜してみせたのだ。


「なあ、久遠。あいつをこのまま結界に残して俺たちだけ脱出することって出来ないか?」

「……難しいかと。脱出するとなるとこの結界を丸ごと消失させないといけませんし、あれが大人しくこの場に留まり続けるとは思えませんから」


 そうなるとやっぱりあいつを倒さないといけないわけか。


(『スキル貸与』)

「……! これは」

「『身体強化』のスキルを渡したから、それを使ってこいつらと一緒に全速力でここから離れてくれ」

「まさか、1人であれをどうにかするって言うんですか?」

「ああ、その方が効率的だしな、っと」


 そう話している間にも鎧武者は俺たちを切りつけようとしてきたので、『氷結魔法』で生成した壁でその攻撃を阻む。


「……っ、わかりました。ただ無茶はしないでください」

「分かった。なるべく無茶はしないように心掛けるよ」


 久遠は『身体強化』を使うと、スライムに拘束された2人と気絶した岡島を引きずり森の奥へと走っていく。

 ……何か言いたそうにしていたが、ちゃんと聞いておくべきだっただろうか。


『逃がスかアアァ!!』

「っと」


 今はそんな呑気なことを考えている場合じゃないな。目の前の問題に集中しないと。


 俺は氷の壁を突き破って切りかかってきた鎧武者に10機のドローンを向かわせると、その機体を再構成し、『氷結魔法』と組み合わせて巨大な氷の大剣へと変えて迎撃する。


 妖刀と大剣、それぞれの力が込められたものがぶつかり合い、発生した衝撃波が周囲の木々を吹き飛ばす。


『ウオオオォォォォ……』


 鎧武者は負けじとさらに妖刀へと力を注ぎ込み、俺の氷の大剣は徐々にひび割れていく。


 だがこれでいい。本当の狙いは……。


『ヌオオォォォ!?』


 氷の大剣が砕けると同時に、内部に貯蔵されていた拘束用の強化スライムが溢れ出て鎧武者に押し寄せる。

 鎧武者はスライムの濁流から逃れようと体を黒い煙に変えるが、少し遅かったな。


「捕まえたぞ」

『小癪ナ……!』


 あの鎧武者を構成していたもので唯一実体があり、そして本体そのものと言える妖刀。

 それをスライムで完全にコーティングした上で地面に接着させると、俺は近づいて『ディスペル』を発動しようとする。


 その時。


『アぁ、姫。某ハまた約束ヲ……』


 黒い煙が完全に消え失せ、元の錆び付いた刀となった妖刀からあの鎧武者のすすり泣くような声が聞こえてきた。


 その声に俺は思わず伸ばした手を引っ込めてしまう。


 廉太郎たちが見たという女物の着物を着た骸骨、妖刀に取憑いている武者の嘆き、そして久遠から聞かされた妖刀伝説の内容。

 それらを思い出して、考え込んだ末に俺はある決断を下す。


「……試してみるか」


 そう呟いて『マジックカウンター』を発動させると、俺は改めて妖刀に手をかざした。


 そして――。


「『感覚共有』」

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