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第46話 肝だめしが始まりました 2

 悲鳴が聞こえた方向へ急ぐと、そこには息も絶え絶えで腰をぬかしている廉太郎と小林の姿があった。


「おい、大丈夫か?」

「ひぃっ!? あ……修と久遠さんか」


 声をかけると小林は一瞬体をビクつかせるが、俺たちの顔を見るとホッと安堵の息を漏らす。


「凄い悲鳴だったけど何かあったのか?」

「あ、ああ……。この先にある4つ目のチェックポイントの近くに……」


「……いたんだよ、幽霊が」


 そこで今までずっと俯いて黙り込んでいた廉太郎がようやく口を開いた。


「幽霊?」

「……木陰の下に着物を着た女の人がいて、何をしてるんだろうと思って話しかけたんだ。そしたら顔が、顔が骸骨になって……」


 よほど恐ろしいものを見たのだろうか。

 自分が体験したことを話している廉太郎の身体は冷たい水に飛び込んだかのように震えていた。


「とりあえずこれでも飲んで落ち着けよ」

「あ、ああ。サンキュー」


 そう言って廉太郎たちにスポーツドリンクを手渡すと、彼らは一気にそれを飲み干す。

 汗でびしょびしょになったシャツを見るに、その幽霊とやらを目撃した場所から全速力で逃げてきたようだ。

 ……念のために『治癒魔法』と『認識阻害魔法』もかけておくか。


「どうだ? 動けそうか?」

「あ、ああ。もう大丈夫」

「先生方を呼んできましょうか?」

「いや、久遠さんたちにこれ以上迷惑はかけられないよ。僕らは前のチェックポイントに戻るから先に進んでくれ」

「……わかりました」


 スキルによって多少落ち着きと体力を取り戻した廉太郎と小林はそう言うと来た道を引き返していく。



「それで、退魔の専門家のご感想は?」

「朝間さんの体には微量ですが妖気が付着していました。恐らく本当のことだと思います」


 彼女の回答に俺は驚きを感じなかった。

 というのも廉太郎たちが戻る間際に『鑑定』を行い、あいつらは嘘をついていないことを確認していたからだ。


 さあどうしようかと、頭を悩ませていると俺はあることに気づいてしまう。


「なあ。あの時廉太郎たちが上げた悲鳴ってわりと大きかったよな?」

「え? ええ、そうですね。本来のルートから外れたあの場所からも聞こえたくらいですから……」


 俺が言わんとすることを理解したのだろう、久遠はハッとした表情を浮かべる。


 そう、あれだけの悲鳴が上がったのなら先生かガイドが先に駆けつけいるはずなのだ。

 なのに俺たちが一番最初に着いた。


(『鑑定』)


 俺は漠然と自分たちがいるこの空間そのものを対象にしてスキル『鑑定』を発動する。


―――


対象:迷い路

効果:結界内に侵入した特定の生物を特殊な閉じた空間へと幽閉する。

また異能を持たない生物を強制的に結界外へ排除する。

状態:スキルレベル10/10

補足:異能所持者のみを対象とするように改変されている。



―――


「……はあ、やられたな」


 スキル『鑑定』で表示されたそれに、俺はため息をつく。

 恐らくだが、廉太郎たちは釣り餌として驚かせたのだろう。

 この異常事態を引き起こした者の本命である俺たち、正確には異常な力を持った者を捕まえるために。



「伊織君、これは……」

「ああ、どうやら俺たちは捕まったらしい」




◇◇◇



「……まさかこんなことになるなんてな」


 『アイテムボックス』から取り出した空のペットボトルに『水魔法』で生成した飲み水を注ぎ込むと、俺はそう呟く。

 そうしていると反対側の道から久遠が疲れた様子でやって来る。


「ダメです。どちらの道から引き返しても外には出られません」

「そう簡単に脱出させてやるつもりはない、ってことか」


 俺はため息をつくと、視線を腕時計へと移す。

 デジタル式の時計に表示された時間は廉太郎たちと遭遇した時から全く変わっていない。

 どうやらこの空間では外部とは時間の流れが違うようだ。

 そしてそれは救援が駆け付けてくる可能性がほぼ皆無ということも意味していた。



「以前見せてくれた『空間転移』で脱出することはできないのですか?」

「分からん。何のトラブルもなく脱出できるかもしれないし、岩の中に転移して圧死なんて可能性もある。まあ最後の手段に取って置いた方がいいだろう」


 そう言って俺は久遠に冷たい水が注がれたペットボトルを渡す。

 さて、これだけ時間が経てば粗方展開し終わっただろう。


(『感覚共有』)


 スキルの発動と共に、俺の視界に異なる光景が次々と投影される。

 久遠が調査に出ている間、俺はこの空間に『水魔法』で生成した昆虫や鳥を多数解き放った。


 その目的は主に3つ。まずこの異空間がどれほどの広さかを調べること、次に状況を作り出した元凶がこの空間内にいるのか、そして仮にいたとして何処にいるかを確かめるためだ。


 気になるものはないかと『水魔法動物』の視界を確認していくと、北西方向に不審な影を捉える。

 その影を追うと、そこには3人の男がボロボロにさびついた刀を中心に防御陣形を取っていた。


 一連の現象の元凶かどうかは分からないけど、少なくとも無関係ということはあるまい。

 そう結論づけると、俺は脱出方法を考えている久遠にこう告げた。



「とりあえず関係ありそうな奴を見つけたけど、行ってみるか?」


「はあ……はあ!?」

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