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幕間 異世界に召喚された者たち 2

「はあっ!」


 天城が煌めく黄金の聖剣を振るう。

 それから放たれた光波によって、試合相手の訓練担当の騎士は大きく吹き飛ばされる。


「ま、参った! 降参だ!」


 騎士が両手を上げて降参の合図をすると、それを見て審判役の別の騎士が天城の勝利を告げる旗を掲げた。


「すげえ……、これで10連勝だぜ!」

「あの騎士団長をこうもあっさり倒すとは……」


 天城の華麗な剣捌きに試合を観戦していた一部の生徒たちから歓声が上がる。

 彼らが語る通り、天城は今日1日だけで10回も模擬試合を行い、その全てに勝利していた。しかも実戦経験豊富な騎士を相手に。

 そんなものを見せられて興奮しないのは無理なことだろう。


「おつかれ。一応水とタオル持ってきたけど、その様子じゃ必要なさそうだね」

「本当に凄かったです、聖也様!」


 聖剣を鞘に収めていると、天城の下に2人の美少女――凛とプリシラが駆け寄ってくる。


「いや、ありがたく使わせてもらうよ」

「にしても汗一つ欠かずに10人抜きするとはねえ。聖也も勇者の肩書きが板についてきたわね」

「お父様も言っておられましたよ。『聖也様は人類最強だ』って」

「ははは、それは流石に言い過ぎだよ」


 凛とプリシラの絶賛に、天城は笑って誤魔化しながら水を飲む。


「ところで聖也のレベルって今いくつになったの?」

「えーっと、ちょっと待ってくれ」


 そう言って天城は懐から翡翠色の水晶玉を取り出す。


「『ステータス』」


 天城がその水晶玉に手をかざして『ステータス』と唱えると、空中に彼のステータスやスキルが表示される。


――――


天城聖也 レベル65 人間

称号【勇者】

HP6500/6500

MP300/500

SP0

STR80

VIT60

DEX50

AGI45

INT40

エクストラスキル 天聖覇断 聖剣抜刀

スキル 剣術 徒手空拳 受け流し 身体強化(中) 光魔法 雷撃魔法 自動翻訳


――――


「すごい、もう65まで上がったの!?」

「皆がレベリングに協力してくれたからだよ。それにどうやら【勇者】はレベルが上がり易いようだからね」

「いいえ、これも全て勇者様の実力あってのものです!」



「ちっ、面白くねえ」


 一方、そんな天城たちを苛立ちや不満を抱きながら眺める生徒たちの姿があった。


「何だよ、あれは。手柄は全部勇者様のもの、俺たちは勇者様の小間使ってか」

「おい、あまり大きい声を出すなよ。あいつに聞かれでもしたら――」


「僕に何か言いたいことがあるのかい?」


 彼らが物陰でこそこそ話していると、天城はにっこりと笑顔を浮かべて詰め寄る。


「い、いや。俺たちは何も文句なんか言ってねえよ! なあ!?」

「あ、ああ。もちろんだとも。皆もそうだよな?」

「そうかい? それならいいんだけど――」


「待てよ。俺はてめえのことは心底気に食わなかったんだ」


 他の者が穏便に済ませようとする中、ある男子生徒が苛立った様子で天城を挑発した。


「それは申し訳ないことをした。それで君は僕にどうして欲しいんだい?」

「決まってるだろ、決闘だ。勝ったら俺たちを小間使扱いするのをやめてもらう」

「うーん、僕は君たちに何かを命令したつもりはないんだけどなあ」


 天城は男子生徒の啖呵に困ったように苦笑しながらも、慣れた手つきで腰の鞘から剣を抜く。


「おいバカ! お前が敵うような奴じゃ――」

「うるせえっ! 俺はもう誰かに指図されるのはウンザリなんだよ!」


 男子生徒は得物としている大型のナイフを取り出し、それを構える。


「天の神よ、我にさらなる力を授けたまえ! 『身体強化』!」


 スキルを発動して天城に向かって突っ込んでいく男子生徒の姿に、ある者は呆れ、ある者は止められなかったことを後悔し、そしてある者は男子生徒が取った選択を無謀と嘲笑した。


 一方の天城は、そんな男子生徒を冷ややかな目で一睨みすると剣先を彼に向ける。


「全能なる大神よ、彼の者に裁きの雷を。『雷撃魔法』」



 聖剣を魔法杖に見立てて放たれたその『雷撃魔法』は、この世界がある程度の傷ならば『治癒魔法』で回復することができるということを指し加えても明らかに過剰な威力だった。


「がっ……!?」


 雷撃魔法の直撃を受けて、男子生徒は肉が焼け焦げるような臭いの煙を立てながら地面にうつ伏せに倒れる。


「僕の勝ち、みたいだね。それじゃ、これからも協力(・・)してもらえると助かるよ」


 それだけ告げると、天城は凛やプリシラの下へ戻っていく。


「流石だね、聖也。11連戦して息一つ乱さないなんて」

「やはり勇者様は天が我々を救うために遣わした最強の御使い様です!」

「いやいや、僕はそんなんじゃないよ」


 一方、決闘に敗れた男子生徒の下には彼の数少ない仲間が集まりポーションや治癒魔法で必死に治療を試みている。

 ちゃんとした治療を施さなければあの男子生徒は死んでしまう。それは誰の目から見ても明らかだ。

 にも関わらず他の生徒や騎士は男子生徒を救おうとしない。

 その理由は至って明白、天城の掲げる正義に歯向かえば次は自分がああなると理解しているからだ。


 この2年で召喚された生徒たちの関係は大きく変わってしまった。

 召喚当初は全員が戦いというものに未熟であったが故に一致団結できていたが、月日が流れると共に彼らは【勇者】と【その他】という関係になってしまう。

 そしていつしか、パーティーとそれに関わる者は全て【勇者】である天城と彼が信じる「正義」に牛耳られるようになってしまったのだ。



 今の生徒たちは主に3つのグループに分けられる。

 1つは天城の力に心酔した極一部の者たちからなる中心派。

 もう1つが先の男子生徒同様に天城に付き従うことを良しとしなかったため雑用を押し付けられている一部の男子生徒や女子生徒からなる少数派。

 そして最後が天城の威光を笠に着て少数派を虐げる大多数の生徒たちからなるグループだ。

 こうした状況は天城をさらに思い上がらせ、彼の自己中心的な性格をさらに悪化させることになってしまった。




 天城は無意識に口角を上げる。

 自分は人類最強へと至った。仮令元の世界に戻っても思うがままに力を振るえる至高の存在なのだと。


 だが天城は知らない。

 天城の考える元の世界には天城を上回る実力者がおり、その1人は彼らが忘れ去ってしまった者だということ。

 そしてこの先、その実力者と相見えることになることを、この時の天城はまだ知らなかった。

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