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第16話 怪物退治を頼まれました 1

「ふぅ……」


 帰りのHRが終わり、クラスメイトに囲まれながらも何とか教室を脱出した俺は、久遠に渡されたメモに記された場所へと向かう。


「ここか……」


 たどり着いた場所は部室棟の片隅にある小さな部屋だった。

 ドアの中央には控えめな文字で『文芸同好会』と書かれてある。

 というかこの学校に文芸同好会なんて部活があったんだな。


「よし……」


 俺は意を決してドアをノックする。


「どうぞ」

「失礼します……」

 

 恐る恐る扉を開けると、久遠京里は部屋の奥にしかれた畳の上に正座して待っていた。


 えっと、これはどうしたらいいのだろうか。

 俺も靴を脱いで正座しないといけないのか、いやそもそもこの会合の目的は一体何なんだ?

 そんなことを考えていると、久遠は突然三指をついた。


「昨夜は私を助けていただき本当にありがとうございました」


 …………は?

 いや、え? 何で俺が助けたとバレてるんだ?


「腕時計です」


 予想外の展開に困惑していると、久遠は俺が抱えているカバンを指差す。


「今日あなたが持ってきていた腕時計は昨夜私を助けてくれた彼が持っていたのと同じものでした。それに流れたアラームも」

「あー……」


 指摘されてようやく俺も気づく。

 あのデジタル腕時計は認識阻害魔法が解除されるタイミングをアラームで知らせるために着けていたものだ。

 単に時間を知らせるというだけならスマホでも良かったのだろうが、色々と無茶なことをやっている以上、壊れたら流石に勿体ないと思ってこの腕時計を使い続けていた。

 まあその結果がこの有り様なのだが。


「ああ、昨日久遠を助けたのは俺だ。それでここに呼び出したのはそのお礼を伝えるためだけなのか?」

「それは……」


 ただお礼を言いたいだけなら教室でそれとなく真実を伏せて伝えることもできただろう。

 周りの目が気になる、という可能性もなくはないがそれならあんな大胆な方法でメモを渡したりしない。


 つまり久遠が俺をここに呼び出した理由は別に存在するということだ。


「……そう、ですね。ここで誤魔化しては貴方に失礼ですよね」


 そう言って久遠は深々と俺に頭を下げる。


「お願いします。この街に巣食う妖魔を退治するために貴方のお力をお貸しください!」


 そしてそんなことを俺に頼み込んできたのだ。




◇◇◇



 曰く、この国には古来より様々な妖魔が存在したという。

 それらは人々を害することで得られる恐怖を糧として、自らのテリトリーを増やしていたそうだ。

 そんな妖魔に対抗するために力を得た人々、それが退魔士と呼ばれる者だという。

 久遠京里はそんな退魔士の一族の末裔として夜な夜な妖魔を退治しているそうだ。

 そして今、この街には封印から抜け出したとある大妖魔が潜伏しているという。


「それを退治する力は今の私にはありません。どうかこの街を救うために私に協力していただけませんか? もちろん報酬もお支払い致します」



 えっ、この世界ってそんなファンタジーに溢れてるの……?

 いやまあ実際にこの目で見たから久遠の話は本当の事なんだろうが……。


(『鑑定』)


―――


久遠京里 人間 16歳

状態:腕と膝、肩に軽度の切り傷と打撲 発汗 極度の緊張状態にある

補足:本家の命で行った鬼との戦闘で負傷し、疲労状態にある

  また自分の話が信じてもらえるか、信頼されず殺害されないか不安を感じている


―――


 この鑑定結果を見た感じ、嘘をついていたり騙そうとしているわけではない、のかな?


 どちらにせよ久遠は異常というかファンタジーの側の存在で、しかも俺の能力を知ってしまっている数少ない人間だ。

 とりあえず暫くは久遠やそれに近い人間の観察や監視も兼ねて協力するとしよう。

 それにいざとなったら……。


「わかった。俺に何がやれるかは分からないけど出来る限りのことは協力するよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 俺の返事を聞いて久遠はホッと安堵の表情を浮かべる。


「それでその、一応確認しておきたいのですけど、貴方は人なんですよね?」


 一瞬何を言っているのか分からなかったが、俺が久遠の前でしてみせたことを思い出して彼女の質問の意味を理解する。

 

 まあまず普通の人間は突然氷を出現させたり、アッパーカットで数百キロはある巨大な怪物を空中に殴り飛ばしたり、瞬間転移で別の場所に移動するなんてことはできない。

 だから彼女もあんな質問をしたのだろう。


「俺()自分は混じりっけなしの人間だと思ってるよ」

「ではどうやってあんな力を?」


 ……ま、ファンタジーというか異常の側にいる久遠になら本当のことを話しても大丈夫か。

 大きな声でそれについて騒ぐ、なんてこともしないだろうしな。


「2年前、■■中学校で起きたガス爆発事故を知っているか?」

「ええ、当時ニュースにもなりましたからね。確か生徒25人が亡くなったと」

「ああ、だけどそれは真実じゃない。あの日、あの教室にいた俺を除く生徒は全員異世界に召喚されたんだ」

「……異世界?」


 久遠は俺が何を言っているのかまるで理解できていないようだった。

 そりゃまあ突然「異世界に召喚された」なんて聞かされた困惑するわな。


「久遠はRPGをやったことはある?」

「えっと実際にプレイしたことはありませんが、モンスターを倒して強くなって魔王をやっつけにいくゲームだとは知っています」

「そこまで知ってるなら話は早い。俺が召喚されそうになった世界はまさしくそんなゲームのような世界だった。スキルやステータスがあり、魔王が存在するRPGそのままな世界」


 何となくだが俺が言わんとすることを察したのだろう。

 久遠は「まさか」といった形相で俺を見る。


「あの日、異世界に召喚されなかった俺は、何故かゲームのようなステータスとスキル、そしてレベルアップする力を手に入れたんだ」


 そう言い切ると、俺は『アイテムボックス』を出現させて中からスポーツドリンクを取り出すと、それで乾いた喉を潤したのだった。

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