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第120話 妹に紹介することになりました 2

「きりーつ、れーい」

「「ありがとうございましたー」」


 日直として号令をすると同時に帰りのSHRが終わり、クラスメイトが教室から出ていく中、俺は各班の班長に今週中に提出するようにと配られた社会科見学のレポートに使う紙を見て大きくため息をつきながら机に突っ伏した。


「……修君、大丈夫ですか?」

「あんまり大丈夫じゃないかもしれないです……」


 結局あの後、意図してのものなのかどうか分からないが廉太郎が作った流れに抗うことが出来ず、俺は項垂れながら次の班長に手を上げてしまったのだ。

 ……まあ、京里にあまり負担をかけたくないという考えもあったのだが。


 何はともあれ、考えるべきは中学生たちの引率と社会科見学後に班員にちゃんとレポートを書かせることだろう。

 幸い、うちの班員はちゃんと課題を期限内に提出しているので、廉太郎という不安材料を除けば後者の方はあまり心配はしていない。

 その廉太郎についてもメッセージで圧をかければ何とかなるだろう。

 問題はそう、中学生たちをどう扱うかだ。

 自分とたった2つしか変わらなくて、しかも妹までいるグループとの接し方なんて分かるわけがない。

 しかも厄介なことにこの中高合同班のリーダーは俺ということになっている。


「はぁ……」


 本当にため息しか出ない。

 アリシアの件にひとまず片がついたと思ったら今度は非異常な方で頭を悩まされることになるなんて。


「あの、良ければ相談に乗りましょうか? 自分で言うのも何ですが他の方に比べたら人の上に立つことについては詳しいと思いますので」


 と、京里が俺に提案してくる。


「……いいのか?」

「元はと言えば私が班長をすると貫き通していれば修君をそんな風に悩ませることにならなかったわけですし。それに……これで修君と一緒にいられる時間が減るのは嫌ですから」


 そう話す京里の頬は赤らんでいて、彼女からしてもこの“提案”は恥ずかしいものだと察することができた。

 しかし京里が言う通り、班長として社会科見学をどう乗り切るかということに悩まされて彼女と一緒にいる時間が減るのは俺も嫌だ。

 彼女に負担はかけたくないと思って手を上げたが、ここはこの誘いは素直に受け入れることにしよう。


「それじゃあ京里先生、ご指導のほどお願いします」

「承りました。あと先生は恥ずかしいのでやめてくださいね。……それで相談はどこで行いますか?」

「んー、なら俺の家とかどうだ?」

「し、修君のおうちですか!?」

「俺も京里と久しぶりに二人っきりでいたいし、今日は20時までは家族は帰ってこないからどうかなーって。勿論京里が嫌なら他の場所を――」

「い、嫌なんかじゃありません! それでお願いします!」

「お、おう。わかった。それじゃあこの後、俺の家で相談会ということで。日誌を先生に提出してくるから京里は先に校門に行っててくれ」

「はい!」


 この提案に予想外の食いつきを見せた京里に若干驚いたが、彼女と二人っきりになれるということに俺は喜んでいた。

 前回俺の家に来た時は生駒先輩の一件があったからそれへの対策とテスト勉強に時間を費やしてしまい、正直あまりいちゃつくことが出来なかった。

 だから今日、今度こそは社会科見学どうこうは抜きにして京里と思いっきりいちゃつきたい。

 それに彼女に言った通り、今日は父さんは帰ってこないし、佳那も道場に行っているし、買い物も済ませてゆっくりと過ごせる時間はある。


「へぇ~、さっきと違って随分とご機嫌じゃん、修」

「うおっ!? お、驚かすなよ、廉太郎……」


 そんなことを考えながら日誌を書き終えて職員室へ持っていこうとした矢先、廉太郎がニヤニヤと笑みを浮かべながら近づいてきた。


「いいなあー、久遠さんと家で二人っきりだなんて。ほんと羨ましいなー」

「……今から班長を変わってもらってもいいんだぞ?」

「やだね! 学校で窮屈な思いをしてるんだから放課後は何も気にせず遊んでいたいもん」


 そう言って廉太郎は自分の荷物をまとめると、そそくさと教室を後にした。

 言いたいことだけ言って逃げやがって……、今度めんどくさい仕事が回ってきたら絶対にあいつも巻き込んでやる……!


(待った待った。俺にはこれから京里と一緒に過ごすっていう最高のイベントが待っているんだ。あいつのために時間を費やすのは止めよう)


 そうして俺は思考を切り替えると改めて学級日誌を提出するために職員室へ向かうのだった。




◇◇◇


「お邪魔しまーす」

「どうぞ、好きにくつろいでいて。俺はお茶を淹れてくるから」

「ありがとうございます」


 日誌を輿水先生に提出して京里と合流した俺は、十数分ほど歩いて彼女を自宅に招き入れていた。

 二回目ともなると京里に緊張した様子は殆どなく、案内したリビングのテーブルに今日の事前学習で配布された社会科見学の資料を並べて整理している。


「はい、お茶。緑茶しかなかったからこれにしたんだけど大丈夫だった?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「あ、ああ」


 京里は俺からコップとお茶菓子を受け取り、にこやかな笑みを浮かべた。

 その可愛らしさに思わずドキッとしつつ、俺は京里と対面になるように座る。


「と、とりあえずは俺たちの班と中学生たちとの間にトラブルが起きないようにすることを考えるべきだよな?」

「ですね。そうなるとやはり妹さん方の人となりを知れたらいいのですが……、まず修君の兄妹仲はどんな感じですか?」

「どんな……、多分普通だと思うよ。昔は甘えん坊なところもあったけど今はそんな雰囲気はないし」


 でもまあ、あの転移失敗で病院に運ばれた俺の元に駆けつけた時はとても心配してくれたし、今も話しかけたら普通に返事をしてくれるから悪いということはないだろう。


「……なるほど。では妹さんはどういった人なんですか?」

「佳那がどんな人か? うーん、ちょっと勝ち気なところがあるって感じかな。あとは本当に普通の女の子だよ」

「なるほどなるほど……」


 京里はどこからか取り出したメモ帳に俺が言ったことを熱心に書き込んでいく。

 こういうところを見ると、やっぱり班長は京里にやってもらう方が良かったのかな。

 なんてことを思いかけた矢先――。


『ガチャリ』

「っ!?」


 突然玄関の扉の鍵が開く音が聞こえてきて、俺は反射的にいつでも攻撃を迎撃できるよう警戒態勢を取る。

 昨日のアリシアの件に今朝の輿水先生の件と今の俺は色々と厄介ごとに巻き込まれている状態だ。

 それにアリシアが所属していた組織は本当に何でも出来る力を持った強大な組織だということが分かる。

 故に即座に警戒態勢を取ったわけなのだが、その不安はすぐに杞憂へと変わった。


「ただいま。喉が乾いたからジュース――え?」

「あ、あの、お邪魔しております……」


 完全にオフモードでリビングに入ってきた我が妹、佳那は俺と一緒にいる制服姿の京里の姿を見てピシリと固まってしまうのだった。

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