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第117話 クラスメイトが逃亡しました

「えっと、そのちょっと待ってもらえますか? 頭の中で整理したいので……」

「突然このようなことを言われたらそうなりますよね。どうぞゆっくりお考えください」


 突然の情報の濁流に頭がパンクしそうになった俺は輿水先生の了解を得るとその場で考え込む。

 まず担任の先生がアリシアの組織のエージェントだった。さらに付け加えると生徒のアリシアが先生の上司だったらしい。

 もうこの時点でワケわからんとなるが、さらに事態を面倒くさくしているのがアリシアが機密データを持ち出して逃亡したということだ。

 そして輿水先生は俺にアリシアの捕縛を頼み込んでいる……。


「何点か質問したいことがあるのですが、よろしいですか?」


 そうして考え込んでいると京里が手を上げて輿水先生に質問する。


「はい。構いませんよ」

「先生はその、いつからアリシアさんが所属していた組織のエージェントだったんですか?」

「詳しい時期はお教え出来ませんが、お2人が入学した頃には既に組織のエージェントでした。……あなた方の動向を観察するという目的を帯びて」


 ということは輿水先生にとって俺たちは最初から監視対象だったというわけか。

 ……何だかんだ色々とモヤモヤとするが、とりあえず今はそのことは棚に上げておくことにしよう。念のために『鑑定』は発動させておくけど。


「ではアリシアさんはいつからエージェントだったのですか?」

「6歳の頃からだと伺っております。何でも弟様の異能力が目覚めたことがきっかけで我々の組織と関わりを持ち、そのままエージェントになられたとか」


 つまりアリシアは10年近くこの危険な仕事をしてきた歴戦のエージェントというわけか。

 これまで何度か自分より明らかに年上の人間を部下のように扱っていた理由もこれか?


「では最後に、アリシアさんを捕まえた場合彼女は今後どうなるのでしょうか?」


 次に京里がそう問いかけると輿水先生は本当に一瞬だけ焦ったような表情になるが、すぐにまたあのポーカーフェイスへ戻って口を開く。


「アリシアには研修施設に戻ってもらった後、後方要員として勤務してもらいます。あなた方と会うことはもうないでしょう」

「そうですか……。修君、どうします――」

「輿水先生、すみません。返事は少し待ってもらえませんか? 突然のこと過ぎてまだ頭の中で整理できていなくて」


 俺は京里の話を半ば遮る形でそう返事をする。

 それを聞いて輿水先生は残念そうに「わかりました」とだけ呟く。

 と、同時にそのタイミングで下校を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。

 

「出来れば今週末までに返事を聞かせてください。それでは」


 立ち上がった輿水先生は俺たちに綺麗に一礼すると、文芸同好会の部室を出ていく。

 そして先生が部室棟から完全に立ち去るのを校内に展開していたドローンとの『感覚共有』で確認した俺は、次いで盗聴されないように『認識阻害魔法』を発動させる。


「あの修君――」

「『アリシアがこの国を害する者と接触しようとしている』、『研修施設に戻ってもらって後方要員として勤務してもらう』。これは真っ赤なウソだ。アリシアの組織は上層部にとって何か都合の悪いことを知り脱走した彼女を捕まえて殺す気でいるらしい」

「こ、殺すって本当ですか!?」

「ああ。だからあの場で返事をしたくなかったんだ」


 俺が輿水先生の会話内容を『鑑定』した結果、事実だったのはあの人がアリシアのかつての部下だったこと、俺たちの協力を必要としているということだけだった。

 どうやら輿水先生にも知らされていない情報も幾つかあるらしいが、何にせよあの人の話を鵜呑みにすることは出来ない。


「それで修君はどうするおつもりですか?」

「適当に“アリシアが何をしてくるか分からない”とか言って断るつもりでいるよ。向こうは隠し事をしている上に肝心なことを知らされてなさそうだから関わっても損しかなさそうだし」

「そうですか……。だったら私もそうすることにします」


 俺の返事を聞いて京里は決心を固めてこくりと頷く。


「と、そうだ。アリシアの組織は俺たちが使う電子機器を常に覗いてるみたいだ。面倒かもしれないけど重要な連絡は式神で送って欲しい」

「わかりました。……これ以上校舎にいると怒られそうですし帰りましょうか」

「だな。念のため駅まで送っていくよ」


 俺はスキルを解除すると京里の手を握って共に学校を出る。

 それから駅に着くまで俺たちは不安を打ち消すために、次のデートの予定を話したりと他愛のない雑談をしながら一緒に歩く。

 そうして駅で京里と別れ、そのまま真っ直ぐ家に帰ろうとして―――。


「お?」


 突然スマホが振動したので開いてみると、通知欄にメッセージを着信したとの表記が。

 そしてその差出人は……。


(アリシア……!?)


 輿水先生の話によれば組織を抜け出して行方不明になっているはずの相手からの突然のメッセージに思わず画面を見て固まってしまう。


「……」


 色々と不振に思いつつも、中身を確認しないことには何も始まらないと考えた俺は、念のため『マジック・カウンター』と『鑑定』を発動させた上で画面をタップする。


『突然の連絡でごめんなさい。単刀直入に言うと今夜あなたと二人っきりで会えないかしら。どうしても確認してほしいことがあるの。もちろん報酬は用意しているわ』


 アリシアからのメッセージはたったそれだけだった。

 ……さて、このメッセージに対する俺の返事は。


『先生から色々と聞かされたけど会って大丈夫なのか? そもそもこの会話も盗み見されてるんじゃないか?』

『今日だけなら大丈夫。だけど明日以降はメッセージを送ることは出来ない。お願い、どうかわたしの話を聞いて』


 スマホの画面と同時に見ていた『鑑定』の結果は……白。このメッセージを送ってきたのは間違いなくアリシア本人で、彼女は心の底から俺に伝えたい、知らせたいことがあるようだった。


『会うと言ってもどこで会うんだ? この街は監視の目でいっぱいなんだろう?』


 とのメッセージを送ると、この街にある個人経営の喫茶店兼バーのリンクを受けとる。


『ここの店主に「茶会に来た」と伝えて。そうすれば誰の監視も受けることなく話し合える』


 ふむ、このメッセージも『鑑定』によれば白。なら本当に監視を受けることなく二人っきりで話し合いが出来るのだろう。


(……まあ、確認だけすれば良いみたいだし行くだけ行ってみようか)


 そう考えた俺は早速佳那に『帰りは遅くなる』とメッセージを送ると、目的のバーへ向かうことにした。

7月10日発売のコンプティーク8月号よりコミカライズの連載がスタートします。

漫画担当は仲紙様(x.com/nakagami147q)となっております。

コミカライズの詳細についてはコンプティーク編集部様のポストからご確認ください。

https://x.com/comptiq/status/1800015876558901715

Web版とはまた違った体験を得られる作品となっていますので楽しんでいただければ幸いです。

どうか応援のほどよろしくお願いいたします。

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