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第112話 文化祭が始まりました 4

『AAAAAAAA!!?』

「京里! 援護を!」

「はっ、はい!」


 異空間と校舎を繋げるゲート付近に陣取ってもらった京里が放った火球が巨大ゲテモノ人形の化け物の顔面に炸裂したのを確認すると、俺は足の関節部に目掛けて攻撃を加える。

 バランスを崩した化け物は前に倒れそうになるが、生徒を握っていない残り2本の腕で何とかその場で堪えた。


 勿論、この絶好のチャンスを逃したりはしない。


「おらあっ!」

『GYAAAAAAAAA!?』


 俺は踵蹴りを化け物の背中に生えている4本の腕の1つに浴びせて破壊すると、続け様にさらにもう1本の腕を力任せに引き抜く。


 化け物は2本の腕があった場所からインクのような黒い液体を噴水のように放出させて絶叫する。

 ……どうやらあれには痛覚のようなものがあるようだ。それに体表も思っていたよりも柔らかい。

 だったら!


「っ!」


 俺は靴の底面に『氷結魔法』で登山靴のようなスパイクを後付けすると、黒い髪に覆われた背中にダメージを与えられるよう力強く踏みしめ、そして一息で反対側へと移動する。


「はあっ!」


 再び『水魔法』で剣を生成すると、まずそれで生徒を拘束している残る2本の腕の1つの関節部にダメージを与え、続いて膝蹴りでそれを破壊。

 そして残った腕を水の剣で切り落とし、拘束されていた生徒を全て解放した。


(『水魔法』!)


 最後に宙に放り投げられていた4人の生徒を『水魔法』で生成した水のクッションでキャッチして、彼らをクッションごと京里の所へ送り届ける。


『GU……GURAAAAAAAA!!』


 一方、背中の4本の腕を失った化け物は大声を上げるとそのまま異空間のさらに奥へと逃走してしまう。

 正直追いかけたい気持ちは山々だが、今は拘束されていた生徒のケアの優先か。

 そう考えた俺は京里の元へと駆け寄ったのだった。



「京里、この人たちの具合は?」

「あの巨大人形に握り締められたことによる傷が数ヶ所、それに加えて精神的に相当参っていたのか皆さん気絶してしまっていて……。傷の方は私の術式で回復させておきました」

「りょーかい。なら俺は意識の方を回復させるか」


 俺は拘束されていた4人の生徒に『治癒魔法』と併せて『認識阻害魔法』をかける。

 『認識阻害』の内容は俺たちが戦って彼らを解放したという記憶を消し、「この異空間に入った俺たちが偶々彼らを発見した」という偽の記憶の植え付けと「俺と京里を疑わないようにする」というものだ。

 さて次は彼らをどう安全な場所に移送しようか……。

 ……よし。


「し、修君!?」


 俺がゲートに顔を突っ込むと京里は驚いて声を上げる。

 そりゃまあ突然こんなことをしたら驚くのも無理はないか。


 それはさておき、ゲートの先は変わらずあの校舎に繋がっており、さらに異空間内にいるはずの京里の声はこちら側でも聞き取れることが可能だ。


『全生徒と教員はただちに体育館に集合するように! 繰り返します! 全生徒と――』

(……これなら自力で体育館に向かってもらえそうだな)


 俺はゲートを潜り抜けて体育館へ避難するようにと促すアナウンスが流れていることを確認すると、改めて異空間内へと戻った。

 

「この空間と校舎はまだ繋がっているみたいだ。あの人たちが起きたら自力で体育館に避難してもらおう」

「そ、そのための確認でしたか……。急に顔を突っ込むからびっくりしましたよ!」

「いやあ、悪い悪い」


 と、怒る京里に謝っていると俺は救出した生徒の1人がお化け屋敷でお化け役をしていたあの女子生徒だということに気づく。

 それと同時に彼女らもまた意識を取り戻した。


「あ、あれ? ここは……?」

「大丈夫ですか? 俺たちはここに潜って偶々あなた方を見つけたんですがどこか痛むところはありませんか?」

「あたしは平気……、あんたたちは?」

「お、俺たちもどこも怪我してない。……良かった。あの化け物、俺たちを見逃してくれたんだな……」


 解放された生徒は皆一様にホッとした表情を浮かべる。

 さてこのまま彼女らにここにいてもらってもハッキリ言って面倒なだけだし、さっさとこの空間から退去してもらおう。


「あのゲートみたいな場所は校舎と繋がっているのであそこから避難した方がいいですよ」

「あ、ああ、そうか。助かるよ」


 彼らは『認識阻害魔法』の効果で俺の言葉を素直に信じ、ゲートの方へ歩いていく。

 ……と、そうだ。


「すみません。俺の知り合いがお化け屋敷に入っていったはずなんですが、他の人は見かけませんでしたか?」

「他の人? ……ああ、そういえば女の子が1人化け物に連れていかれたよ」

「っ! その人、どんな姿だったか覚えていますか!?」

「……悪い。覚えていない」

「そう、ですか。引き留めてすみません」

「いやいいよ。改めてありがとうな。……君たちはどうするんだ?」

「俺たちはもう少しここで知り合いを探します」

「……そうか、気をつけろよ。ここにはとんでもない化け物がウジャウジャいるから」

「わかりました」


 生徒たちは京里の術式や俺の『治癒魔法』を受けてそれでもなお疲れ果てた様子でゲートを潜って異空間から脱出する。

 さてと。


「京里。多分、というかほぼ確実にあの化け物はまた俺たちを襲いに掛かってくると思う。だから――」

「引き返せ、と言われてもお断りさせていただきます。修君を置いて逃げるなんてことは絶対にしません」


 京里は札を強く握りながら俺にそう断言する。

 ―――これは、無益な質問だったな。


「わかった。なら最大限警戒しながら付いてきてくれ」

「はいっ!」


 ……最悪の場合は『認識阻害魔法』をかけて記憶を奪いこの空間から脱出させよう。

 内心そう考えつつ、俺は改めて暗闇に包まれた異空間の奥を一瞥する。


 そして近くにあった巨大テーブルと窓ガラスの一部を水の剣で切り取り、それを素材に『設計』と『鍛冶技巧』で強力なスポットライトを搭載したドローンを作成し、それを伴って異空間のさらに奥へと進んでいく。



(と、そうだ。一先ず落ち着いたしここらで『鑑定』しておくか)


――――


対象:局所的異常空間

効果:異能力の暴発によって発生した異常空間。

異空間内部は生駒樹里の深層心理に呼応し、発生地点に存在した物体が変化した異常実体で溢れている。

またこの異空間の影響により周辺地域も亜空間に呑み込みつつある。

状態:活性状態にあり異空間を徐々に拡大させている。

補足:n/a


――――


 ……なるほど、どうやらこの空間は時間が進むごとに範囲が拡大していくらしい。

 それに加えてあんな化け物が溢れているとなるとあまり悠長にやっていられないな。

 


『ギ……ギギ……ヨウコソ……』

『ヨヨ……ヨウコソ……』


 そう考えていると俺たちの周りに人の影のような実体が糸に吊られた状態で降ってくる。

 数は10、どれも表面が酷く焦げ付いており、唯一無傷の口から見える人の白い歯がより不気味さを増していた。


『コチラヘ……コチラヘドウゾ……』


 そんな実体の内の2体が俺たちを自分たちの元へ引きずりこもうと飛び掛かってくる。


「お断りだ!」


 それに対して俺は回し蹴りをして実体の頭部を砕くと、『氷結魔法』で小さな氷の槍を幾つも生成して胴体に叩き込む。


「京里! サポート頼むぞ!」

「わかりました!」


 京里は札から全身が炎で構成された狐の式神を呼び出し、狐は周囲の実体を牽制するように宙を舞う。


『ギ……ギギ……ギ……』

「おらあっ!」


 それに実体たちが怯んだ瞬間を狙い、俺は接触面を最大限高温化した水のハンマーで一気に凪ぎ払った。


 残る人型は3体。

 さっさと片付けさせてもらおうか。

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