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第111話 文化祭が始まりました 3

「お、おい。これ中にいる奴どうなったんだよ……?」

「は、早く先生を呼んでこなくちゃ!」


 その異常現象を目の当たりにして周囲の生徒はパニック状態に陥る。

 これはまた面倒なことになったな……。

 展開しているドローンの『認識阻害魔法』でここにいる生徒を眠らせたら却って騒ぎが大きくなりそうだし、かと言ってこのまま放置しておいたらあの不可思議空間の中に入ってしまう生徒が現れかねない。


(……いつまで保つか分からないけど、とりあえずやっておくか)


 俺は『水魔法』を発動して異常空間へと通じるゲートを塞ぐように周囲の構造物を模した壁を設置し、続いて京里の方を見る。


「……一先ず他の生徒が中に入れないようにした。ただいつまで保つか分からないから一旦外に出てこれからのことを考えよう」

「……わかりました。混乱が大きくなる前に校舎を出ましょう」


 そう小声で話し合うと、俺たちは学校の校門へと急いで向かう、が……。


「おい!? どうなってんだよ、これ!?」

「何で出られねえんだよ!?」

「何この霧……、こわい……」

「お前ら落ち着け! 皆とりあえず体育館の方に―――」


 校門の前には生徒や教師が押し寄せており、こちらもまた皆一様にパニック状態に陥っていたのだ。

 そして彼らがそうなっている理由は校舎の外に広がる光景と学校の敷地から出ようとする生徒に起きる異常現象からすぐに分かった。


 校舎の外には周囲の建物すら見えなくなるほどの濃霧が発生している。

 さっきホットドッグを買うために行列に並んでいた時は快晴だったのに、この短時間でここまで天気が変わるなんて普通じゃない。

 そしてもっとマトモでないのが――。


「クソっ! なんで戻ってきちまうんだよ!?」


 外へ出ようと駆け出した生徒はすぐに酷く疲れた様子でこちらへ戻ってくる。

 どうやらこの濃霧は外へ出ようとする者を強制的に元いた場所へ戻す異常性があるようだ。


 これは――林間学校の時に閉じ込められた結界と同じようなものか?

 だとすると『空間転移魔法』で脱出するのは危険だな……。


「……修君。あの中庭なら知っている人が少ないですから落ち着いて話が出来ると思います」


 どうしたものかと考えていると京里がそう提案してくる。

 確かにあの場所を知っている人は少ないし、この騒動だと皆外へ出ているし、今後についての話し合いをするには打ってつけか。


「……わかった。ならそこで話し合おうか」


 俺は小声でそう返すと混乱の隙をついて京里と一緒に中庭へと移動した。









 この学校の中庭は少々入り組んだ場所にポツンと置かれてある。

 これは校舎の建て直しや部室棟の新設などの影響を受けたかららしく、この場所の存在を知らない教師も少なくないようだ。

 そうしたこともあってかこの中庭は掃除当番の対象外にされており、またあまり人に知られたくない話をするには快適な場所としてごく一部の生徒の間でのみその存在を語り継がれているという。


 この話を仲良くなって間もない頃に廉太郎から聞いた時は「本当かー? 先輩に騙されてないかー?」と疑っていたのだが、入学して半年が経った今ならそれが本当のことだと分かる。


『全生徒と教員はただちに体育館に集合するように! 繰り返します! 全生徒と――』


 校内に設置されたスピーカーからは体育館への移動を呼び掛ける声がひっきりなしに流れているが、この中庭からは体育館へ向かう生徒や教員の姿は見えない。

 とはいえここで油断や慢心をするのは危険だ。念には念を入れて『認識阻害魔法』を展開するドローンを配置して周囲から俺たちの姿が見えないようにしてから話し始める。


「……駄目だな。外との連絡は一切繋がらない」

「あの人形ともですか?」

「ああ。それどころか校舎近くに展開しておいたドローンも反応が消失している」


 これは戻ったら作り直し確定、か。あれ作るのに結構な時間と集中力使うから揃えるのそこそこ面倒なんだよなぁ……。

 まあこれも「戻ることが出来たら」の話だけど。


「アリシアも校内にいないみたいだし、この状況に対処できるのは多分俺たちだけだな」

「そうですか……。厄介なことになりましたね……」


 そう、今の状況は本当に厄介極まりないものだ。

 林間学校の時とは違って少なくとも100人以上の教師や生徒が巻き込まれており、また何か化け物が出現してしまったら庇い切れるか分からない。

 そして恐らくだがこの異様な状況はより悪くなっていくだろう。

 つまり俺たちは可及的速やかにこの異常現象の元凶を特定し、それをどうにかする必要があるというわけだ。

 俺は展開した探索用ドローンの情報を頭に叩き込むと次の手を考える。


「とりあえずまず真っ先に調べるとしたらお化け屋敷だな。校内をざっと調べたけど濃霧以外で異常なことが起きているのはあそこだけだ。それにあそこには中に取り残された人間が少なからずいるようだし」

「わかりました。なら急いでそちらへ向かいましょう」

「……ああ、そうだな」


 そう言って京里は早速出立の準備をし始めた。

 ……正直に言って京里を何が起きるか分からないあの異空間へ連れていくことには不安しかないし、そもそも彼女にはこういった事態を解決する責任などないから安全な場所で穏やかに過ごしていて欲しい。

 一方で現状いつ何が起こるか分からない以上、この異空間に絶対に安全だと言い切れる場所があるのかどうか分からない。

 ならば下手にここで別れて行動するよりもこのまま一緒に行動した方が安全だろう。


「よし、それじゃあ行こうか」

「はい!」


 互いの準備が整ったことを確認した俺は自分たちの姿を認識できないよう『認識阻害魔法』を発動してから中庭を出る。


「おい、押すなよ!」

「なんで……、なんでこうなるのよ!?」

「もういやぁ……」

「早く進ませろよお!?」


 やはりと言うべきか校内はパニック状態に陥った生徒が少しでも早く体育館に避難しようとしており酷い状況と化していた。

 俺は京里の手を握ると『身体強化』を発動し、跳躍と壁蹴りで階段へと近づき、そのまま一息でお化け屋敷の出し物があった2階へと駆け上がる。

 そして周囲に人の姿がいないことを確認した俺は京里の方を向いた。


「大丈夫か? 怪我とかしてないか?」

「は、はい。私は大丈夫です」

「わかった。ならこのまま進むけどいいか?」


 京里の様子を見て、彼女が虚勢を張っていないと判断した俺はお化け屋敷のあった場所へと視線を向けた。

 パッと見の印象ではあるが、異空間は出現した時点と何も変わらないように思われる。


(『水魔法』)


 新たに偵察用のドローンを作成し、それを異空間に侵入させるがゲートをくぐった瞬間、ドローンからの反応は全て途絶えてしまった。

 ……やっぱり直接中に入るしかない、か。

 そう覚悟を決めて京里にも準備をするよう呼び掛けようとした、その時。


『ズゥゥゥン……』

「っ、これは……!?」


 突如また校舎全体が強く揺れ、俺は思わず転げそうになってしまう。

 この揺れがただの地震である可能性はまあほぼないと言っていい。何かまた異常なことが起きているはずだ。

 そう考えて辺りを見回すと、ゲートとその周囲に配置されていたオブジェクトが内側から(・・・・)突き上げられるように振動している。

 ……何かが水魔法の壁を破って異空間から出てこようとしているのか?


「京里、すぐ戦闘になるかもしれないから準備をしておいてくれ」

「っ、はい!」


 俺の言葉に京里は札を取り出して力強く頷く。

 よし。それじゃ行くとしようか。


「何が起こるか分からない。危ないと感じたらすぐに逃げてくれよ」


 京里にそう告げると俺はゲートを封鎖していた壁を消し、勢いよく異空間へと飛び込む。


『……aaaAAAAAAAAAA!!!』


 ―――そして次の瞬間、巨大な肌色をした物体が俺たち目掛けて落下してきた。


「くっ!?」


 それを『身体強化』で受け止め、京里を抱きながら即座に攻撃してきたそれと距離を取る。


「修君! 大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。俺は全然平気、だけど……」


 俺は『水魔法』でシールドを幾重にも展開しながら異空間内部を見回す。


 そこはあのお化け屋敷の出し物を極限にまで引き延ばしたようなホラー感溢れる場所だった。

 まるで自分たちが人形になったのかと思ってしまうほど巨大化した机や椅子、黒板などが置かれている薄暗い教室。

 そしてその中心には足まで髪が伸び、背中に追加で6本の腕を生やした5メートルはありそうな女性の姿をした人形のような何かが、長い前髪に遮られていても分かる赤く光る目で俺たちのことを睨む。


「だ、誰か……、助けて……」

「く、苦しい……」

「いてぇ……、いてぇよぉ……」


 その6本の腕の先には恐らくお化け屋敷の中にいたのであろう生徒たちが握り締められ悲鳴を上げている。


(……人質が取られた状態での戦闘か。こりゃ厄介だな)


 俺は『水魔法』で水の剣と遠隔攻撃兼撹乱用のドローンを作成すると、剣を構えながら戦闘態勢を取った。

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