表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/126

第106話 文化祭の準備が始まりました 9

「ただいま」

「お兄ちゃん、お帰りー」


 家に帰り、リビングに入るとそこには道場から帰って、ソファに寝っ転がりながらお菓子を食べる佳那の姿があった。


「ねえ、リビングが凄く綺麗に掃除されてたけど誰か来てたの?」

「ああ、彼女が来てた」

「へー、かのじょ……彼女!?」


 どうせここで誤魔化してもいずれバレる。

 だったらいっそのこともうここで彼女ができたことを明かしてしまおう。

 そう考えてサラッと答えたのだが佳那は予想以上に動揺した。


「え、あの……、いつから?」

「今週の月曜日から」

「今週……、その、それじゃ今日夕方まで帰らないでって言ったのは」

「彼女が来てたからだな」

「えっとその、えー……」


 俺の言葉に佳那は完全にテンパってしまう。

 まあ、兄妹から突然彼氏彼女ができたと聞かされたらあんな風に驚くのも無理ないか。

 多分俺も佳那から彼氏ができたと伝えられたらテンパっちゃうだろうし。


「まあそういうことだから明日も彼女とうちで勉強会するから昼飯代とか含めて1万渡すからどこかに出掛けてくれ。あー、それと昼に頼んだピザとか唐揚げとかサラダの残りが冷蔵庫にあるから夕飯はそれを温めなおして食べておいて」

「わ、わかった……」


 佳那に伝えることだけ伝えると、俺はそのまま2階の自分の部屋に向かう。

 早く駅前で思い付いたアイデアを試してみたいからな。


 俺は固まってしまっている佳那をそのままに2階の自分の部屋へと向かった。





「お兄ちゃんに、彼女」




◇◇◇



「あったあった」


 自分の部屋に入った俺は部屋着に着替えると、勉強机の前に座ってスキル一覧を表示する。

 前回巨大UMAを討伐してアリシアたちが到着するまでの暇潰しにと閲覧していた際に目に入ったスキル。俺は躊躇なくそれを習得した。


「『鑑定』」


 続いてスキル『鑑定』を発動して新たに習得したスキルの効果の確認を行う。


―――――


対象:スキル『模倣』

状態:スキルレベル1/10

説明:MPを消費することで人間の動きを記録し、それを自分のものとして再現することができる。

補足:n/a


―――――


(……説明通りなら俺の期待通りのスキルだけど、どうにかなるかな)


 とにもかくにも実際にスキルを発動して試してみないことには何も始まらない。

 部屋の中で、なおかつ俺自身が『模倣』の効果を実感できるもの……。となると、あれかな。


 俺はスマホで動画サイトを開くと、「お絵かき動画」と検索し、その中でもイラストレーターの手が映っているものをタップする。

 続いて俺は動画が再生されるのと同時に『模倣』を発動し、イラストレーターが美麗な美少女のイラストを描き上げていくのを眺めていく。

 そして動画の再生が終了すると、まだ使っていないノートを開いてあのイラストレーターの作画作業を「再現」することを強くイメージしながらペンを手に取った。

 はっきり言って俺には絵心が全くない。

 当然、あのイラストレーターが描いていたようなイラストを描けるはずもないのだが……。


(お、おお?)


 ペンを手に取った俺は記録されたイラストレーターと全く同じ手つきで線を引いていき、動画と全く同じ美少女をノートにスラスラと描いていく。

 が、色塗りの段階に入ると突然手の動きが止まってしまった。

 

(これは……、色を塗るための道具がないからストップしたのか?)


 MPが枯渇する時の吐き気や嫌悪感はない。となるとやはり再現に必要な道具がなかったから『模倣』が止まってしまったと考えるべきだろう。


(それなら次は下書き段階までを記録して、あとは体の動きを見ておくことが再現に必要かどうかを検証してみるか)


 今度はイラストレーターの作業動画、それも手が映っておらず声とパソコンの画像だけのものを選び、それを見ながら『模倣』を発動してみる。


(さて、今度はどうなるかな……)


 動画が終わったので、ノートの新しいページを開いてペンを手に取ってみるが、俺の手はさっきとは異なり勝手に動いたりしない。

 やっぱりその人間の体の動きを何かしら見ておかないと効果は発動しない、か。


 だけどまあこの程度のデメリットならこのアイデアを実現するのに支障はないだろう。

 そう考えた俺は続いてメッセージアプリを開いて京里にメッセージを送る。

 するとすぐにメッセージに既読マークがつき、数分も経たない内に京里からメッセージが送られてきた。


『突然ごめん。頼みたいことがあるんだけど今って大丈夫か?』

『大丈夫ですよ。それで頼みたいことというのは?』

『今日基礎術式を複製するところを見せてくれただろう? あれと従属化術式を式神に植え込むところを動画にして送って欲しいんだ。出来ればその時の手の動きなんかも映した形で』

『それは構いませんけど何に使うんですか?』

『昼にした式神をうちの学校の生徒に化かして生駒先輩をカバーさせるって話。あれを実現する方法を思い付いたんだ。で、それに基礎術式と従属化術式がどうしても必要なんだよ』

『わかりました。動画を送るのに少し時間が掛かりますけどそれでも構いませんか?』

『全然大丈夫。それじゃお願いするよ』


 そのメッセージを送って一旦会話は中断となる。

 さて、京里に動画を送ってもらうまで俺の方でも『模倣』についてもっと詳しく調べておくか。


「よしっ、やるぞ」


 家の中で現象作業をするとなるとやはりイラスト系だろうな。

 次は必要な道具や材料が全てある状態でやってみよう。

 ああそれと、レベルアップでスキルの効果がどう変わるのかも確認しておかないとな。

 

 そう考えた俺はまたスマホの動画サイトを開いて『模倣』の検証に使えそうな動画を探し始めた。




◇◇◇



「お、もう送ってくれたのか」


 検証作業を再開して大体30分くらいたった頃だろうか。

 スマホの通知欄にメッセージアプリのアイコンと共に『京里から動画が送られてきました』との通知が表示される。

 それをタップしてみると、そこには俺が希望した通り京里の手が映った基礎術式の複製と従属化術式を植え込む動画が丁寧に2つに分けて送られてきた。


『遅れてごめんなさい。これでよろしかったでしょうか?』

『完璧。本当にありがとう。それと急に変なことを頼んでごめんな』

『私の方こそ修君に任せきりにしてしまってごめんなさい。また何か協力ができることがあったら遠慮せず連絡してくださいね』

『わかった。その時はそうさせてもらうよ。それじゃ、また明日』

『はい。また明日』


 そう書き込んで会話を終えると、『模倣』を発動させながら動画を再生し記録を行う。

 そして動画を見終えると今度は京里から貰ったコピーされた式神が封じられたノートの切れ端と無地の紙を用意して、それらを机の上に並べて配置する。


(頼むから上手くいってくれよ……)


 最後にそう強く祈りながら動画と同じように式神が封じられている紙切れに右手をかざす。

 すると俺の手はこちらの意識を離れ動画内の京里の手と同じように動き出し、昼過ぎに見せてもらった通りノートの切れ端から五芒星と紋章を浮かび上がらせ、無地の紙にそれと同じものを刻み込んだ。


「『鑑定』」


――――


対象:式神札

効果:子狐の式神が封じられた札。本物の子狐と同じように振る舞うことが出来る。

状態:スキルレベル10/10

補足:伊織修を主と認識し、従属している。


――――


 『鑑定』で表示された情報を見て心の中でガッツポーズをする。

 これで、これでようやく必要なもの全てが揃った……!

 あとはこの材料全てを組み合わせるだけだ。


「『アイテムボックス』」


 早速スキル『アイテムボックス』を発動させると、先の久遠家での戦い以来ずっと封じてきたものを取り出す。


 それは生きた人間のように振る舞い、多くの者を本物の人間だと誤認させ、そして戦いの果てに内と外から氷結させられ動きを封じられ、目蓋を閉じた人形。

 その名を【茨】と呼んだ。


「『設計』」


 次に俺は茨と呼ばれた人形と、新たに作成した式神札に刻み込まれた『従属化の術式』を材料に指定して『設計』を発動して目的の物に必要な設計図を入手する。

 そしてその設計図を元に『鍛冶技巧』を発動し用意した材料を組み合わせる。

 後は欠損した腕を『氷結魔法』と『水魔法』で修復して……。


「これで完成、かな」


 外見は久遠家で戦った時と同じ金髪に赤い着物を纏った美少女で、よく観察しても人形とは思えない。


「『鑑定』」


―――――


対象:写身人形

効果:幻影人形【茨】に式神の『基礎術式』と『従属化の術式』を植え込んだ人形。

幻影人形と同じく疑似人格を有し、ある程度の自律行動を可能にしている他、機体を改造することで異能を付与することができる。

状態:活動停止

補足:『設計』により新生したことで擬似人格の活動が停止しており、また各関節を『氷結魔法』で封じられており身動きが取れずにいる。

封印を解除し、一定量のMPを与えれば再起動できる。

備考:伊織修を主だと認識している。


―――――


 『鑑定』の結果も問題なし。

 あとはちゃんと起動してくれるかどうかだ。


 俺は深呼吸をしてから『氷結魔法』の封印を外し、『鑑定』にあった通りMPを人形に注ぐ。

 そうすると人形はゆっくりと目蓋を開き、にっこりと穏やかな笑顔を浮かべる。


「―――貴方様が私の主様ですね。この身の全ては貴方様に捧げております。どうぞご自由にお使いくださいませ」


 そして人形は初めて出会った時と全く同じ声色で喋り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ