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第103話 文化祭の準備が始まりました 6

「おはよう、京里」

「お、おはようございます。修君」


 翌朝、昨日と同じ場所で待ち合わせをした俺と京里はお互い下の名前で呼び合っていることに若干の照れ臭さを感じながら一緒に駅へと歩き出した。

 にしても……。


「あーあ、テスト1週間前になっちゃったなぁ……。やだなぁ……」

「何か不安な教科があるんですか?」

「正直言って全部不安。赤点だけは取らないようにしたいけど」

「……あれ? 修君の成績って上の方でしたよね。学校の掲示板にも載っていましたし」

「1学期のテストで高得点を取れたからって2学期のテストでも高得点を取れるとは限らないだろ」

「それはそう、ですね」


 そう言いつつ自分でもこれがただの心配性なだけだというのは分かっているのだが、それでもどれだけどれだけ公式や古文の文法を頭に叩き込み、英単語や漢字などを必死に書き写しても「本当にこれで大丈夫か? どこか見落とししていないか? 公式を間違って覚えてたりしてないか?」という不安を拭えないんだ。

 スキル、例えば『万能翻訳』や『鑑定』を使ったらテスト勉強なんかせずに済むし、こんな不安を抱えることもなくなるのだろうが。


(ああ言った手前、あっさりスキルに頼るのはだっせーからな……)


 一応これまでもテストや受験でスキルを使わないようにしてきたのだが、京里に「能力がなくても京里の隣に立てるようになる人間になる」と宣言した以上地道に頑張って勉強する他ない。

 だけど生駒先輩の件や文化祭の件があるからなぁ……。いやでもあっさりスキルに頼るのは格好悪いし……。

 と、いけないいけない。今、京里を放って自分の世界に入りかけてたな。

 

「京里の方はどうなの? 今回のテストは自信ある?」

「……どうでしょう。家の件(・・・)で長期間学校を休んでいましたから」

「でも先生に当てられた時は普通に答えられてだろ?」

「あれはたまたま自習していたところだったから答えられただけですよ。今回は成績を落としてしまうかもしれません」


 そう言って京里は苦笑する。

 でもまあ京里は1学期のテストで全教科満点取っていたし、もし成績を落としたとしても成績トップの座は維持し続けるだろう。

 

 まあ何はともあれ。


「テスト勉強頑張らないといけないことに変わりない、か」

「ですね」


 そんなある意味当たり前な結論に達して揃って苦笑いをしていると、ふとある考えが浮かぶ。

 お互い今回のテストに自信がない。中間テストは土日を挟んで行われる。テスト期間に入ったから部活はない。そして俺には京里に秘密裏に伝えたいことがある。

 ……それとこれは完全に個人的な願望だが、折角付き合ったのだから出来れば京里と恋人らしいことがしたい。

 そうした色々な思いからある1つの考えが浮かぶ。

 

「……なあ、これは提案というか相談なんだけど、お互い中間テストに自信がないようだし今週末の土日に勉強会でもしてみないか? ……その、出来れば2人っきりで」

「是非やりましょう!」


 緊張しながらそう言うと京里は俺の手を掴むと満面の笑みを浮かべながら答えた。

 そして予想外な反応に思わず固まってしまった俺を見て京里は恥ずかしながら手を離す。


「……ぁ、すみません。勝手にはしゃいでしまって……」

「い、いや、気にしてないよ。とりあえず勉強会をすることには賛成ってことでいいんだよな?」


 その俺の問いかけに京里はやや控えめに頷く。

 どうやらさっきのことをまだ恥ずかしがっているようだった。

 その証拠に京里の耳は少し赤くなっている。


「わかった。それじゃあ土日どっちに勉強会をする? 俺は両方とも予定はないけど」

「わ、私もどちらでも構いません。……でも出来るならどちらの日も一緒にいたいです」


(か、かわいい……)


 俺は衝動的に京里を抱き締めそうになりかけるが、道端でそんなことをするわけにはいかないと残った理性で必死に抑え込む。

 いやしかし、関係が変わると人の見方はこうも変わるものなのかと驚いてしまうな。


「うん、なら土日両方一緒に勉強会をしようか」

「はい!」


 京里は本当に心から嬉しそうにしている。

 ……さて、残る問題は開催場所だな。


「あー、それでだ。どこで勉強会をやる? 図書館ならうちの学校の連中も少ないだろうし人目を気にしなくてよさそうだけど」

「……あの、修君の家で勉強会をすることは出来ますか?」

「俺の?」

「はい。その、一度修君の家にお邪魔してみたくて……」


 ふむ、俺の家で勉強会か。

 特別見られて困るようなものはないし、父さんは帰って来ないだろうし、加那については「友達が来るから土日はどっかに行ってろ」とでも言っておけばいいだろう。


「わかった。じゃあ今週末の土日に俺の家で勉強会な。後で最寄り駅をメッセージで送るからそこの駅前で集合って感じでいいか?」

「はい!」


 そんな話をしている内に俺たちはとうとう駅に着いてしまった。

 本当に名残惜しいが、ここで一旦お別れだ。


「ではまた学校で」

「ああ、そっちも気を付けてな」


 そうして京里と別れた俺は、そのまま先日生駒先輩が不良たちに絡まれていた場所へと移動すると『鑑定』を発動した。

 が、表示された鑑定結果はどれもこれも対象の情報を淡々と説明したようなものばかりで、これといっておかしいものは何もない。


(でもまあ念のために『認識阻害魔法』を発動できるドローンを置いておくか)


 俺はスキルを発動して長持ちするよう改良した『水の目』を駅のあちこちに分散配置し、『空間転移魔法』で学校近くに転移しようとして――。


「!?」


 急に誰かに制服の裾を引っ張られる。

 だ、誰だ? 攻撃の意思とかそういったものは感じられないけど……。


「あの、我が儘を聞いてくれませんか?」


 そんな風に考えを巡らせていると、聞き馴染んだ、というより今さっき別れたばかりの彼女の声が聞こえてくる。

 振り向くとそこには予想通り京里の姿があった。

 でも一体どうしてここに?


「京里? 駅に行ったんじゃ……」

「はい。ただその、やりたいことが出来て……。本当に個人的なものなのですけれど」

「やりたいこと?」

「その、修君と一緒に学校まで一緒に行きたくて……」

「いやでも、それだと学校の連中に見られることになるぞ?」

「構いません! 私としては修君と1秒でも長くいられる方が重要ですから!」


 天使様と呼ばれているほど人気者な京里と学校ではモブでしかない俺が一緒に登校する。

 それを学校の連中が見たら間違いなく様々な視線をぶつけてくるだろう。

 だけど京里は勇気を出して俺と一緒にいたいと言ってくれた。

 それに本音を言えば俺だって京里と1秒とでも長くいたい。


「……じゃあ、一緒に行こうか」

「お、お願いします……!」


 俺は京里と一緒に路地裏から出るとそのまま駅に向かって歩き出す。


 多分このまま学校に行ったら廉太郎やその他大勢の連中から色んな目で見られるようになるのだろう。

 ……だけど。


「……折角だし、手繋いでみる?」

「はいっ!」


 そわそわした様子の京里にそう誘ってみると彼女は満面の笑みを浮かべて俺の手を握る。


 ――京里のこの笑顔を見られたのだから、学校の連中にあれこれ言われるのなんてどうってことないな。

 俺は大切な彼女の笑顔を見てそう思った。

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