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第99話 文化祭の準備が始まりました 2

「はぁ……」


 『空間転移魔法』で一気に学校の近くへと転移した俺は、そのまま教室の自分の席へ向かうと深くため息をつく。

 幸いなのは、京里はまだ着いていなかったようなのであの情けないため息を聞かれずに済んだことだろう。

 

「おっはよー! 朝から辛気臭い顔してるねえ、シュウ」

「ああ、おはよう。廉太郎」

「何、久しぶりに登校した京里さんに告白して盛大にフラれでもしたの?」

「っ!」

「え!? もしかして当たり!?」

「……ちげーよ。俺に久遠さんに告白する勇気があると思うか?」

「それもそっか! ごめんごめん」

「おまっ……、そこはお世辞でも『そんなことないと思うけどなあ』くらい言えよ!」

「おれって正直者だから!」

「こいつ……」


 当たらずとも遠からずな廉太郎の言葉に動揺して押し黙ってしまいそうになりかけたが、何とか切り抜けることはできた。

 それはそれとして釈然としないけど。


「で、何で悩んでたの?」

「人との付き合い方は難しいなって考えてたんだよ」

「また難しそうなことで悩んでるね。まあいいや、シュウに話しかけたのはお悩み相談に乗るためじゃなくて聞きたかったことがあるからだし」

「聞きたいこと?」

「そう、文化祭の日どうするのかなーって」


 言われて思い出す。

 そういえばもうそんな時期だったか。


「普通にクラスの出し物を手伝いに駆り出されるんじゃねーの?」

「それがさあ、この学校1年生は事前にクラスで展示物を作るか当日部活の出し物を手伝うかのどっちかなんだよ。で、おれら両方帰宅部じゃん? しかも文化祭の日はサボっても欠席にはカウントされないらしいし」

「確かにそれなら当日はすっげー暇なことになるな」

「でしょでしょ。だから暇な子を集めて遊びにでも行こうかなって思ってるんだけど」


 うーん、以前なら「俺も行くわ」と即決で答えていたのだろうが……。

 確か京里は『文芸同好会』に入っていたよな。となると部活の出し物のために文化祭当日も学校に行くことになりそうだから……。


「あれ? 何か予定埋まってる感じ?」

「いや、家の事情とかもあるから今すぐには答えられないっだけ。行くかどうかは来週末の中間テストが終わってから答えるよ」

「うげっ、中間テスト……。嫌なこと思い出させないでよ」


 廉太郎はテストと聞いてあからさまに嫌そうな顔をする。

 そういえばこいつ、1学期の期末テストの結果が悪くて『親に大目玉を食らった!』ってチャットで愚痴ってきてたな。


「嫌そうな顔をしてもテストからは逃げられないぞ~」

「くっそー、ようやくあの時のことを忘れかけてたのにー!」


 と、他愛のない雑談を繰り広げていると京里が教室に入ってくる。

 その表情はいつもと変わらずにこやかなもので、教室にいた生徒は彼女の周りに集まっていく。

 パッと見た感じ今朝のことで何か怒ってそうな感じはしないが、でも京里は空気を読むのが上手いからな……。


「廉太郎、お前は久遠さんのところに行かなくていいのか?」

「おれたちには高嶺の花だってよーく実感したから行かない」

「……ま、普通に考えたらそうなるよな。てかお前、連休中の宿題出さなきゃいけないんじゃなかったか?」

「うわ、そうだった! なあシュウ――」

「俺の宿題は昨日提出されて今は先生の手元にあるからお前に見せることはできない」

「くっそー!」


 そんな泣き言を言って廉太郎が自分の机に向かったタイミングを見計らい、チャットアプリで京里にメッセージを送る。


『今朝のことでもし不愉快な思いをさせていたらごめん。もし他にも嫌なことがあったのなら容赦なく指摘して欲しい。それと文化祭当日はどうする予定なのか教えて欲しい』


 ……長文な上にかなり堅苦しい文面になってしまったが、今はこれ以外の文面が思いつかない。

 もうこれでいい! と、半ばヤケクソ気味に京里にメッセージを送信すると、スマホを握ったまま机に突っ伏す。


(アリシアにメッセージを送るのは……家に帰ってからでいいか。まだ1限目も始まってないのに疲れたあ……)


 水人形を身代わりにして疲れが取れるまで家に帰って休んでしまおうか、などと考えていると。


(うおっ!?)


 突然握っていたスマホが揺れて思わず驚く。

 画面を見ると京里からメッセージが届いたという通知が表示されている。

 俺は恐る恐るチャットアプリを開いて京里から届いたメッセージを見る。


『まず気を遣わせてしまって申し訳なく思っております。今回初めて誰かと一緒に学校へ登校することになり想像以上に緊張してしまっていただけなので、修君の言葉を不快になど思っておりません。文化祭当日の予定ですが、今日の放課後の部活で分かると思います。部活自体は大して時間はかからないと思いますので、ご都合がよろしければ部室棟に来ていただけないでしょうか』



 な、長くない? 俺がメッセージを送ってからまだ5分くらいしか経ってないよな? この短時間でこれだけの長文メッセージを書いて送ってきたのか?


 届いたメッセージに若干困惑しながら俺は京里がいる場所を見たのだが……。


(あれ? いない?)


 そこには京里と仲のいい女友達の姿しかなかった。

 どこに行ってしまったのだろうか教室内を見回していると――。


「ご、ごめんね! 急に出ていって……」

「気にしなくていいよ。急いで連絡を上げないといけない相手だったんでしょ?」


 教室の扉が開き、少し汗をかいた京里が友人たちのもとへ駆け寄っていく。

 ――その途中、京里が一瞬恥ずかしそうに俺の方を見た……ような気がする。

 

「あっ……、ちょっと待ってもらってもいいかな?」

「うん、いいよいいよ」

「わたしたちは全然気にしてないから~」

「……ありがとう」


 京里は友人たちの輪に戻る前に再びスマホを取り出すと何かを打ち込む。

 それと同時に開いていたチャットアプリに新しいメッセージがハートマークを差し出すマスコットのスタンプ付きで届く。


『それと可愛いと言ってくれて嬉しかったです』


 京里の方をチラッと見ると彼女は俺に背を向けてはいるが、その耳は赤くなっていた。

 いやちょっと待って、それって―――。


「シュウ! 一生のお願いだから手伝って! 数学の安野に呼び出されるのは本当に嫌なんだ!」

「……チッ」

「え、今ガチの舌打ちした?」

「貸せよ、どこ手伝えばいいんだ?」

「あっ、手伝ってはくれるんだ。えっと、このページから……」

「ほぼ真っ白じゃねーか。連休中何やってたんだよ……」

「おれにはおれの用事があったの! いいから早く手伝って!」

「へいへい」


 唐突に邪魔された時は一瞬本気でイラッとしたが、ここでのろけたら俺たちが付き合っていることがバレていたかもしれない。

 それを考えれば廉太郎が話しかけてくれたのはある意味良かったのだろう。

 そう考えることにして何とか感情を抑えた俺は、目の前の友人の宿題を手伝ってやることにしたのだった。



◇◇◇



「きりーつ、きをつけー、れーい」


 帰りのHRが終わり、今日の日直の気だるげな声で挨拶をすると教室の空気は解放感に満ちたものとなる。

 ……約1名を除いて、だが。


「ありがとな、シュウ。こんなおれのために色々と手伝ってくれて」

「よせよ、俺とお前の仲じゃないか」

「そっか……。そんなお前に最後の――」

「断る!」


 俺が話を聞き終わる前にそう言い放つと、ただでさえ絶望に満ちた表情をしていた廉太郎の顔がより真っ青としたものとなる。


「せめて最後までに聞いてくれよ!?」

「どうせ職員室に付いて行って安野先生に一緒に謝ってくれ、とか言うつもりだったんだろ? ぜっっったいに嫌だからな!」

「そうだけど! 一生のお願いだから付いてきて! あの先生クソ怖いんだよ!」

「お前の一生のお願いは今朝聞いた! ほら、大人しくお縄についてこい」


 結論から言えば廉太郎の宿題は終わらなかった。

 廉太郎は「数学の時間が午後からだったら間に合ってたのに!」と悔しがっていたが、多分あの真っ白具合では昼休みの時間を全て費やしても終わらなかったと思う。


「……じゃあ行ってくるよ」

「おう、骨は拾ってやるから安心しとけ」


 俺はまるで絞首台に向かう囚人のように教室を出ていった友人を見送ると、隣の席をチラッと見る。


(京里は……俺たちがバカなことしてる間に部室棟に行ったか。さて、どうするかな)


 メッセージには「大して時間はかからない」「都合がよければ部室棟に来て欲しい」とあったが……。


(夕飯は……別に買い出しにいかなくても用意できるだろうし、このまま部室棟に行ってみるか)


 と、方針を定めた俺は加那には「帰りは遅くなる」と、アリシアには「今朝気になることがあったから夜9時くらいに報告する」とメッセージを送り、鞄を持って部室棟へ向かう。


(……来週末からテスト期間だから校内に残ってる生徒は少ないな)


 残っている生徒も友人との雑談してるか、廉太郎のようにやらかした奴くらいで部室棟は閑散としていた。


 今さらだけどこんな時期に文化祭をどうするのかを決めるって珍しいな。

 まあ部員は少なそうだし活動自体あまりやってなさそうだったから普通の部活とは違うのかもしれないけれど。


 そんなことを考えていると、いつの間にか『文芸同好会』の部室にたどり着く。

 来るのは京里に化け物退治を頼まれた時以来なのによく覚えていたなあ、と内心自画自賛していると……。


「あ、あの、す、すみませんっ!」

「―――え?」


 突然女性の声が聞こえてきたので思わず立ち止まって振り返った俺は、そこにいた人物の姿に思わず言葉を失う。


「えと、そ、その、今朝、助けてくれた方ですよね……?」


 そこにいたのは今朝、異様な状況で不良たちに絡まれていた女の子―――生駒樹里だった。

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