令嬢の始まり
純粋にタイトルがクソだね!
「…王都からこんな遠くまで来てくれたところすまね、申し訳ないが、お、私には婚約者は必要ないんだ。あなたも望んだ婚約じゃねえ…ではないだろう。だからどうか、こんにゃ、婚約破棄をし―」
「―はっ、僕に婚約破棄だと?こんな何にもない土地に、わ、ざ、わ、ざ、出向いてやったこの僕に?随分と笑わせてくれるじゃないか、えっ?」
「え、いや、あのっ、えっ???」
(き、聞いてたキャラと違えええーー!それにこの声…!)
「あ…しまっ」
(やってしまった…僕としたことが、人生最大の失態――)
少し昔の話をしよう
何かと有名であるホワイト公爵家の末娘であるエイヴェリーは、幼い頃から、人々に類い稀なる才能の片鱗を見せていた。
一度読み書きを教えてやれば、家中の、文学、地学、歴史学、医学、果ては帝王学なんかのあらゆる書物を貪るように読み散らかし、
「…ほかには?」
などと聞いてメイドを卒倒させた。
5人姉妹の末ということで、甘やかされていた訳ではなかったが、特に厳しく育てられることもなかった。
ぶっちゃけ暇だったので、姉達に紛れ、遊びのように習っていた弦楽器、チェリロレンでは姉妹の誰よりも早くコツを掴み、始めてから3ヶ月余りで、今まで習ってきた姉達でさえ難しいと音を上げる楽譜を難無く弾いてみせた。
(そのことで姉全員からシメられたのは内緒だ)
また、料理は爆発だ!!をモットーとする自由奔放な料理長が面白半分に、本来、貴族であればする必要のない菓子作
を教えたところ、エイヴェリーの作った菓子がプロ並み、というかプロ顔負けの天にも昇る美味さであったが故に、料理長…ではなくまたもやメイドを卒倒させた。
他にもエイヴェリーの才能を挙げると切りがない。
(ちなみに、剣術や武術などの戦いの才能はまるでなかったし、楽器は弾けるのに喉音痴という謎な状態のせいで、姉達には鼻で笑われている)
が、他者よりも圧倒的にずば抜けている才能がある。
それは、『魔法』である。
エイヴェリーは、本来なら13歳で発現するであろう固有魔法を、たったの9歳で発現させた。
その固有魔法には、さすがの公爵も卒倒、いや頭を抱える事態となった。
エイヴェリーの固有魔法の詳細については、追々説明しよう。
そして、こんなにも多くの才能に溢れるエイヴェリーは、そう…とてつもない美人なのだ。
姉達も並外れた美人なのだが、姉達とは何か違う美しさを有していた。
華奢ですらりとした体躯。
透けるような生白い顔に、それを縁取る射干玉の黒髪、
顔の中央を飾るつり目で伏し目がちな瞳は、まるで紫に輝く黝簾石のようだ。
存在は儚げだが、それでいて見つめられればぴくりとも動けないような威圧感をも持ち合わせている。
天は二物を与えずというが、この者に関しては例外であった。
ああ、神よ、何故なのか!
全く世の不公平さに泣きそうになる。
とはいえ、流石のエイヴェリーも完璧とまではいかなかった。
え?ここまできて何が欠けてるのかって?
冒頭を覚えていれば大方検討がつくだろう。
そう、『性格』である。
エイヴェリーは、とてつもなく捻じ曲がった性格の持ち主なのだ。
外を歩けば(穢らしいといって、歩くことを嫌うが)街の喧騒に顔を顰め、口を開けば(限られた人の前でしか開かないが)この世の言葉とは思えないほどの悪態を吐く。
なので人前では、口元から漏れ出る隠しきれない悪意を隠す為、扇子が必要不可欠なのだが、それさえも奥ゆかしい淑女の手本であると評価される。
美人って楽だな!
そんなこんなで生きてきた16年間。
ついに親元を離れ、国中の貴族が集まる寮制の国立シグニアス学園に入学する2週間前。
エイヴェリーは公爵から思いがけないことを言い渡される。
「お前の婚約者が決まった。ここから離れた辺境伯の令息だ。同じ学園に行くそうだが、あちらの家に一度挨拶に行ってきなさい」
「――――はあ……………は?」
これからが本番だよ!