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崩壊世界に薄い本を

掲載日:2021/12/17

直接的な描写“は”無いです―――

 誰も知らないというほど遠くなく、かといってすぐに経験できるというには近くない未来。きっかけが何だったのかは知りようもないが、ともかく、全世界を舞台とした戦争はまたも起こってしまった。

 自然は焼かれ、水は汚され、あらゆる都市は廃墟へと姿を変えた。

 最終的に―――何処かが降伏したのか、和解があったのか、はたまた……誰も続けることが出来なくなったか―――終戦したかさえもあやふやなまま、世界全体が所謂“世紀末”へと向かっていった。

 前置きはこの位にしておこう。この話は、そんな世界の中でも自らの欲望に忠実に従った、『クリエイター』達の物語。


◇◇◇


 彼らと出会ったのは、いつものように獲物を探しに行ったときのこと。戦闘行為は無くなっても、都市機能は完全に死んだままで。生きるためには、壊滅した軍事基地の物資,裏ルートで流れている品々など、リターンに見合わないリスクを背負ってでも手に入れるべき物は少なくなかった。


「……くそっ、やっちゃった!」


 僕を追ってくるヤツらも、そんなリスクの1つだった。基地警備やパトロールで使われる無人兵器。通称『TOYSトイズ』。小規模な基地、それも市街地と変わらない程に廃墟と化した場所なんかに生きている個体が残っているとは思わなかった。完全に俺の注意不足。


「よりによって『探索者シーカータイプ』! あの基地いったい何だったんだよ!?」


 TOYSは器用に瓦礫をかいくぐり、物陰に隠れてみてもすぐにこっちを捕捉してくれやがる。余計なところだけ壊れているのか、それとも元からそういう仕様なのか、基地から離れた市街地まで来てもまだ追ってくる。


「こりゃ、いよいよヤバいかも……」


 そう覚悟したときに聞こえたのがアイツの声だった。


「おい! そこの追われてるヤツ、こっちだ!」


 そのときは考える余裕もなく、咄嗟に体が動いていた。そして、コンクリートを粉砕しながら現れたTOYSに弾丸が打ち込まれる音を聞いた。


「やっぱり威力不足だな」


 拳銃を構えた男が呟いて、今度は背中に抱えていたものを手に取った。


「やれやれ、使う予定は無かったんだけどな」


 TOYSは男の方を新たな標的と認識したようで、僕には目もくれずにそっちの方へ向かっていった。危ないと叫ぶ暇もなく、TOYSが男に迫り――――彼のライフルに体の中心を撃ち抜かれて沈黙した。


「さて、生きてるかい?」


「……はい、どうもありがとうございます。助かりました」


「そりゃ良かった。それじゃ、コレ運ぶの手伝ってくれるか?」


 こういった成り行きで、僕は彼らと出会うことになった。




「……あ、そうだ。あんた年いくつ?」


「え? 19ですけど?」


「本当だな? んじゃ大丈夫か」


 名前も聞いてないのに、何で年齢なんか聞くんだろう。と、そのときはそう思った。


◇◇◇


「おーい、帰ったぞー」


 元々はビルだったらしい廃墟で、奥に向かって男が声を掛けた。


「あっ、レスティさん。お帰りなさい。……その人は?」


「お客さん。ちょっと成り行きでね。それより、ハイこれお土産」


 レスティ、ってこの人の名前……? どうみても日本人だと思うんだけどな。


「うわっ、TOYSじゃないですか! スッゲー!」


「その人が追っかけられてたから、つい手ぇ出しちまった。ところで他の皆は?」


「みんな奥で作業中です。俺はちょっと行き詰まったんで、気分転換に出てきました」


「そうか。締め切りも近いし、遅れないように気を付けろよ」


「ハイ、頑張ります!」


 作業? 締め切り? この人達は何か作ってたりするのかな?


「俺らが何してるか、気になってるって顔だな」


「え? ええ、まあ……」


「なら見て行くか?」


「ちょっ、レスティさん! 良いんですか!?」


「別に良いだろ。この業界まだまだ狭いままだし、それにチャンスがあればすぐさま布教ってのは大戦前からの不文律よ」


 当事者(僕)を無視して何か勝手に決められそうになってるんだけど……。


「何にせよ、無理強いするのは最悪のタブーだからな。さあ、どうする!?」


「へぇっ!? い、行きます?!」


 いきなり聞かれたから、つい咄嗟に返事してしまった。

 まあ、始まりはこんな感じだったけど、今にして思えば、この判断も悪くなかった……と思う。


◇◇◇


「お前ら、いてるかー?」


 案内された部屋の中では、男達が一心不乱に何かを描いていた。


「お帰り、レスティ……と、誰?」


「見学希望者。って、そういや名前聞いてなかったな」


「希望者……って程でもないですけど。初めまして、『吉井よしいりく』と言います」


「とりあえず、作業を続けながらにしてくれ。颯、こっちだ」


 呼ばれた先で見せられた紙束、そこに描いてあったものは――――


「…………うわぁ」


――――俗に言う『成年コミック』、あるいはもっと単純に、『エ○マンガ』。ともかく ピー で ピー で ピー な、 ズキューン で バキューン なことがページいっぱいに広がった代物だった。


「……何でこんなものを」


 なんとか絞り出せたのは、そんな感想だけだった。


「こういうのはダメか? それとも、口に……いや、へきに合わなかったか?」


「そういう問題じゃなくて……。こんな時代、こんな世界で……こんなものを描いてる余裕なんか無いでしょう!?」


 自分でもよく分からない感情が込み上げて、つい大声を出してしまった。部屋中の視線が刺さる。


「あ……ごめんなさい……」


「気持ちは分からなくもないけど……。しゃーねぇじゃん。それでも描きたいんだから」


「え……?」


「腹が減ってるときも、TOYSに追われてるときも、何の前触れもなくネタが浮かんでくるんだよ。そんで形にしたくなるんだ」


 その言葉に、周りの人達もウンウンと頷いていた。


「『食欲』『睡眠欲』『性欲』が人間の3大欲求とは言うけど、最後のだけは解消しなくても死にはせんからなぁ。俺らくらいはネタの供給しても良いんじゃね? って思ってるよ」


 そのときのレスティさんは、少しカッコいいように見えた。……まあ、言ってる内容はちょっと、いや、だいぶ低俗なものだったけど。


「……すみませんでした。失礼なことを言ってしまって」


「いいっていいって。正直、褒められたことはしてないって自覚はあるんだからよ」


 その会話の後は、他の人達の『作品』も見せてもらったり、大戦前に出版されていたアレコレ――――成年誌だけでなく一般誌も含めて――――を読ませてもらったりして時間を過ごした。


◇◇◇


「今日は大物が手に入ったし、なにより久しぶりの客が来てるからな。豪華にやるぞ!」


 そんな宣言と共に振る舞われた夕食は、この世界においては、かなり豪勢なものだった。テーブルに並んだのは、普段のブロックバーや素材そのままの合成肉とは違う、“ちゃんと調理が施された料理”の数々。


「凄い……。あれ? 使われる材料、人工合成品とかGML(Genetically Modified Lives《遺伝子組み換え生物群》)でもないんじゃないですか!?」


 安価に出回る()()()とは、明らかにしつが違う。


「気付いたか? 案外良い舌してるんだな」


 レスティさんは得意気に話し掛けてくるが、それどころじゃない。


「この夕飯、一体幾ら掛かってるんです!? てかそもそもどうやって手に入れたんですか!?」


 大戦前なら普通に買える物ばかりだけど、今のご時世では1つ入手できるだけでも幸運といったレベルの品々だ。


「やっぱり気になるよな。んー……折角だし、しばらく俺らの手伝いでもするか? 答えはその内に分かると思うぜ?」


 何だか不穏な気配はあったけど、もっとこの人達を知りたいって好奇心は抑えられず、僕は結局ここに残ることを選択した。


◇◇◇


「……終わったぁ」「っしゃあ、脱稿!!!」「はい完成っと」


 ここで生活するようになって数日後のこと。部屋のそこら中から、歓声もとい勝鬨? 怒号? いや、雄叫びか? とりあえず絶叫が木霊こだました。


「気ぃ抜くな! まだ印刷と製本が残ってんぞ!」


 緩み掛けた空気が、レスティさんの一言で引き締められた。その雰囲気はまるで戦場の様……なのか?


「印刷機の電源はどうなってる?」


「大丈夫だ。こないだの探索者シーカータイプからソーラーバッテリーを回収できた。ダメージも殆ど無かったからバッチリ使えるぜ」


「インクの在庫は?」


「大戦前のブツが格安で叩き売られてた。キッチリ確保してあるぞ」


 一連の動きは、熱を帯びつつも淡々と進む。『作品』が作り上げられていく様は、いっそ芸術的でもあった。


「レスティ、何部いく?」


「今回みたいな好条件が揃うことは滅多にないからな。今後のことも考えて……50、いや80だ!」


「「「おぉぉぉぉ!!!」」」


 熱狂は更に激しくなり、印刷機はそれに応えるかのように紙を吐き出し続ける。日付が変わっても祭りは終わらず、騒ぎが落ち着いたのは、それから3日が過ぎた後のことだった。


◇◇◇


「さて、準備は整ったってことで……行くぞ!」


 祭りの終わりから更に2日が経過して、新たな祭りが始まろうとしていた。


「ねえ、今度は何が始まるの?」


 レスティさん……は忙しくしているから、近くにいたケイエルにそう尋ねた。ケイエルとは、ここに来て最初に会ったという縁があり、比較的年も近いことから、メンバーの中でも割と気安い仲になっていた。


「そっか、颯はまだ経験してなかったっけ。今から頒布会だよ。会場は闇市ブラックマーケットだ!」


 政府や軍の管理下にない売買の舞台。それが闇市と呼ばれる市場のことだ。

 ぶっちゃけ非合法ではあるけど、世界的にインフラや都市機能がボロボロな現状では、闇市が生活基盤となっている人が殆どだったりする。


「レスティさん、今回は俺も行きたいです!」


「ケイエルか……よし、分かった。後は荒事担当と客寄せだな。ガブロス、ヴォッグ、頼めるか?」


「僕たちの組み合わせなら、荒事担当はガブロスかな?」


「だろうな。俺に呼び込みを期待されても困る」


 客寄せはまだしも荒事担当か。闇市は治安も悪いし、そういう役割も必要なんだろうな。


「それと……颯、お前も来るだろ?」


「えっ、あ、ハイ!」


 ここまできたら、最後までの全部を経験してみたい。


「なら颯のアレも決めないと!」


「そういや考えてなかったっけな。どうする? 希望があるなら聞くぞ」


 ……どうすると言われても、話の中身が分からない。


「2人共。本人が付いてこれてないぞ」


 困っていると、ガブロスさんが助け船を出してくれた。


「ペンネーム、要は偽名のことだ。俺達がメインに使ってるマーケットなんだが、中では本名を使うのが禁止されているんでな」


 闇市は各地で、しかも色んな人とか組織が開催しているから、場合によってはそれぞれ独特なルールがあることも多いけど、本名禁止っていうのは珍しいな。


「実際イリーガルな場ではあるからな。セキュリティ面とか色々あるんだろう」


「因みに俺らの中では『元締めのオッサンの趣味』が最有力候補な」


 それは流石にない……と思うけど。


「で、本題。希望ないなら俺が勝手に決めるけど?」


「あー……お願いします」


 そう簡単に思い付くようなものじゃないし、多分ここの皆の方が良いセンスしてると思う。


「じゃあ、りくだから……リリックだな」


 想像以上に安直な感じになっちゃった。まあ文句を言える立場ではないんだけども。



◇◇◇


「よし、こっちだ。ついてきな」


 準備を終わらせて闇市の会場へとやってきた。階段を降りていった先は、元は駐車場だったであろう地下の空間だった。


「……お前か。今日の割り当ては3階だ。新顔もいるようだな?」


 入口には大柄な男が立っていた。彼の着ているスーツは、多少くたびれた感じはしているけど、傷や汚れといったものは無い。大戦前の逸品な可能性もある。


闇市ブラックマーケット……侮れないな」


 ここの市場は相当の規模があるかもしれない。


「リリック、置いてくよ?」


「ゴメンゴメン、すぐ行くから」


 ケイエルの声に先を急ぐ。細かく仕切られた区画の1つで、レスティさん達は長机や椅子なんかを並べていた。


「こんなものかな?」

「新刊スペースもう少し広げようぜ」

「貴重品はここで大丈夫だと思うか?」


 和気藹々と準備を進める3人は、とても楽しそうに見えた。……って僕たちも手伝わなきゃ!


 こうして慌ただしく始まった頒布会。今までもそうだけど、今日も十分に濃い1日になった。


◇◇◇


「レスティさん!? 今日だったか!」

「新刊出てる! 1部ください!」

「これ買ったら昼飯が……いや、1食くらいどうとでもならぁ!」


 始まると同時に、机の周りには人だかりが出来上がった。


「ハイ! 新刊1部、ゴールドチケット3枚です!」


 現金の信用度は限界まで低下しきっている。そのため、この辺りの闇市では代替品として数種類のチケットで取引されているようだった。今のやり取りに使ったゴールドチケットは、上から数えて2番目の価値がある。1枚あれば1週間ぐらいの生活は何とかなるんじゃないかな?


「本当にこの値段でいいのかな……?」


「ん? ああ……確かに、我ながらちょっと異常な額だよな」


 そういうレスティさんは苦笑いをしていた。


「でも材料の原価を考えるとこの辺が限界だからなぁ」


 そうか、原稿用紙やインクなんかは、現状じゃまず需要がないから殆ど流通に乗ってない。だから仕入れるのにも手間と元手が……ってところか。改めて、この人達の熱量はとんでもないなって思った。


「おねーさん、おねーさん、こーゆーのどお? 大戦前じゃ普通に読んでたんじゃない?」


 考えている間にも、ヴォッグさんの手によって次々とお客さんがやってくる。手の休まる暇もない。


「てか一般向けの本も作ってたんですね」


「たまに普段と違うのも描きたいってこともあるからな。にしてもヴォッグの奴、女にしか声掛けてねぇな」


「こう言ったらなんですけど……。あの女の人達、ヴォッグさんの作品見たら間違いなく引きますよね」


「アイツNTRしか描かねぇしな。それに恋愛部分だけ見てもやたらドロ沼化させてるし」


「趣味……なんですかね?」


「趣味……なんだろうな」


 そんなふうに話していると、ちょっとした――――個人的にはそうでもない、騒ぎが起こった。


「ヨォ兄ちゃん達。さっきから見てたけどよ、ずいぶん稼いでるみたいじゃねぇか」


 チンピラかヤクザ、そんな感じの3人組だった。最初はお客さんかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。


「ちょ、何ですか急に!」


「痛い目見たくないだろう? 黙って今日の稼ぎ渡してくれや。全部とは言わねぇ、9割で――――」


 チンピラはそこまでしか言えなかった。


「グッジョブ!」


「荒事担当だからな」


 ガブロスさんの跳び蹴りを顔面に受け、後ろに吹っ飛ばされたからだ。


「アニキ!」「テメェ!」


 後の2人も参戦したが、文字通りの秒殺だった。

 まず近い方の1人を、鳩尾への膝蹴りからのアッパーでK.O. そして残った方が逃げ出そうとしたところ、首を抑えて地面に倒し、ストンピングでトドメをドン。

 自分達のスペースは勿論、他の人にも一切の被害を出さないスマートな決着。


「流石はガブロスさん……!」

「あの人あんな強かったんだ」


「レスティが荒事担当に選ぶんだ。生半可な腕じゃ務まらないよ」


 ヴォッグさんはそう言うけど、今日のガブロスさんは普段と雰囲気が全然違う。


「……いつも恍惚の表情でハードリョナ描いてる人と同一人物とは思えない」


「確かに」「それな」「酷いときは涎垂らしてるしねぇ」


 そんな一幕はありつつも、頒布会は無事に――――終わらなかった。


「マジで!? 完売!?」


「ああ。念のために持ってきた余剰分も全てだ」


 今後の為の予備だったのに。レスティさん達の見積りはどうやら甘かったようだ。


◇◇◇


「……大問題だ」


 頒布会から更に数日が経ったある日、レスティさんが話を切り出した。


「何かあったんですか?」

「久しぶりだねぇ、レスティのシリアス顔」


 それを聞く皆が、表面上はいつも通りに見えるけど、どこか緊張感を漂わせている。僕もこんな真剣な表情をするレスティさんは初めて見た。


「マジの緊急事態だ。紙の仕入れルートが死んだらしい」


「はあ!?」「……冗談」「うっわ……どうするよ」


 一気に空気が張り詰めていった。


「どっかのバカが軍の施設で何かやらかしたらしい。輸送ルート上に大量のTOYSが徘徊するようになっちまったそうだ」


「どこのどいつか知らないけど、ふざけた真似してくれたようだね」


「まったくだ。だが今はそんなことよりも……」


「ガブロスの言う通りだ。現状、印刷用紙も原稿用紙も在庫が心許ないからな。対策を考えないといけないんだが……とりあえず今は2案ある」


 レスティさんの案、一体何だろう?


「まず1つ。無事なルートで仕入れられる別の相手を探す」


「……無理だろ。あの工場でさえ散々探し回ってやっと見つけたんだぞ?」


「ああ。現実的に考えて、他の場所から仕入れるのはちょっと難しいな。もしかしたらと思って言ってみただけだ」


 ってことは本命はもう1つの案の方かな?


「それで2つ目だ。俺ら17人で障害をブッ壊すってのは……どうだ?」


 その瞬間の空気の変化は、ゾッとするほど鋭いもの。部屋に居る全員が攻撃的な雰囲気を放つような錯覚さえ覚えた。


「決まりだな。実を言うと運び屋のヤツもそれを期待してたっぽいんだ」


 その勢いのままに、僕たちは戦いの準備を始めた。


「ったく、食うにも苦労するってのに、こういうのだけは幾らでも手に入るんだからよ」


「こんな時代ですからね」


 2人で眺める倉庫の中には、銃火器や装甲車なんかが大量に並んでいる。有事の際に使うためとかで、レスティさん達が集めていたものだって。


「このライフルなんて、ここらの闇市じゃアイアンチケット5枚……よくてブロンズ1枚ってところだもんな。因みにお前の歓迎会のメシはゴールドチケット50枚ってところじゃねぇかな?」


 ライフルの安さよりも料理の高さの方が驚きなんだけど……。


「レスティさん、準備終わりましたよ!」


「しゃあ! 行くか!!」


 もう1つの祭りが幕を開けた。頒布会のような爽やかな熱でなく、暴力的な戦場の熱を持った祭りが。


◇◇◇


「……見えてきたな」


「聞いてたよりは少ないみたいだね」


 ヴォッグさんの運転で目的地の近くまで走ってきた。見える範囲では4体、探索者シーカータイプのTOYSが巡回している。警備中かな?


「まずアレから仕留めるか」


 気付かれない程度の距離に装甲車は停まる。後部ハッチを開き、対物ライフル――――以前助けてもらったときにレスティさんが使ってたのと同じタイプ――――を持った狙撃手が4人、車から降りる。


「3、2、1……ファイア」


 レスティさんの合図で全員同時に引き金を引く。寸分の狂いも無く着弾し、TOYS達は沈黙した。


「パーツ取りは後回しだ。ヴォッグ、バッテリーの調子は?」


「そろそろ充電切れだねぇ。TOYSのソーラーバッテリーとはいえ、EV相手じゃ発電が消費に追い付いてないよ」


「分かった。行けるとこまで行って、後は充電させておくしかないな」


 警備を潜り抜け、装甲車は先へと進む。


「まずは例の施設とやらだ。全部が全部、自立型の機体とは思えねぇ。定石通り、統括してるコンピューターから潰すぞ」


 装甲車が止まったタイミングでレスティさんから指示が出される。ここまでは予定通り。


「全員、防御ユニットは着けたな?」


 胸に取り付けた小型デバイス。大戦時に使われていた防御用の装置だそうだ。身体の表面にエネルギーフィールドを発生させて、物理的ダメージを軽減するとかなんとか。要は簡単に死なないための道具ってことだな。


「それじゃあ突入するぞ。俺らの同人活動の為に…………GO!」


◇◇◇


「新手が来たぞ!」「よし、任せろ!」


「ガブロスさん、大丈夫ですか!?」「問題ない。自分の相手に集中しろ」


 進んでいくと何度もTOYSの妨害を受けたけど、僕たちの進撃はそう簡単に止まらなかった。


「みんな凄いな……」


「リリックだってしっかり付いてこれてるじゃん」


 ケイエルからはそう評価されたけど、僕は1,2回トドメを刺しただけだし、やっぱり皆はレベルが違うと感じるよ。


「ぶぇあ!?」

「おっ、良かったな。お前の好きな粘液じゃん」

「ペッ……オイルを粘液って呼ぶな! そもそも自分が掛けられることに興味はない!」


「ちっ、TOYSは何ブッ刺しても啼かないからツマんねぇなぁ」

「脳内補完で擬人化させれば?」

「なるほど……いけるか?」


 …………うん、間違いなくレベルは違うな。


「レスティ、先に行け!」


 唐突にガブロスさんが叫んだ。いったい何を……!?

 疑問の答えはすぐに分かる。ガブロスさんが警戒に反応するかのように、壁を砕いて大型のTOYSが乱入してきた。


「……任せる。リリック、ヴォッグ、俺らは行くぞ!」


「りょーかい」「え?! でも……!」


「いーから行くよ!」


 ヴォッグさんに手を引かれ、半ば無理やり移動させられた。


「悪いね。でもリリック君にあのデカいのの相手はまだちょーっと早いから」


 つまり足手纏いか……。分かってはいたけど、やっぱり言われたら凹むなぁ。


「……ビンゴ! ここが指令室的なヤツじゃねぇか?」


 レスティさんが見つけた部屋には、沢山の大型モニターやパソコンの類が並んでいた。


「全部ってわけじゃないけど、動いているのもあるみたいだね」


「じゃあここを壊してしまえば……!」


 TOYSを止められるのかも!


「まあ待て。本当に当たりかどうか確かめてからだ。ヴォッグ、頼んだぞ」


「もちろん。てかその為にここまで連れてきたんでしょ?」


 言うや否や、ヴォッグさんはタブレット端末を取り出して手近なパソコンに接続した。


「さーてっ? ふんふん……。おっ? はいはい、なるほどなるほど。オッケー、分かったよ」


「どうだ?」


「結論から言うと大体当たりかな。ここを壊してもダメだけど、止まるように命令を出すことは出来るみたい」


 早まらなくて良かったー! 壊してしまったら逆に止められなかったかも。


「よし。早速やってくれ」


「急かさないで。セキュリティ解除とか色々あるんだから」


 部屋の外を警戒しながら、ヴォッグさんの操作が終わるのを待っていると、事態はまた変化を見せた。


「……ねぇ、イジってて気付いたんだけどさ。メインサーバー クラックして施設丸ごと掌握しちゃわない?」


「そんな手間の掛かること、やってる暇がないだろ!」


「細かい処理繰り返すより、デカいの一発ぶち込んだ方が早かったりして。外部との通信は死んでるみたいだから面倒事にはならないと思う」


「……分かった。でも時間はないぞ」


 りょーかい、と返事してヴォッグさんは作業を再開させた。タブレットの画面やキーボードを叩く音、パソコンのファンが回る音が部屋に響く。


「皆は大丈夫でしょうか?」


「ガブロスがいるからな。そこまで心配はしてねぇよ。俺はこっちの作業がどれだけ掛かるかの方が心配だな」


 2人で、モニターを睨むヴォッグさんの方に目をやった。



「ふふふ……。そんなガード固そうなフリしたってさ、セキュリティホール ガバガバなのは分かってるんだよ?」

「反抗するなんて悪い子だなぁ。従順になるように頭の中書き換えてあげるよ」

「さっさと堕ちちゃいなよ。前のご主人様が誰かは知らないけど、そんな雑な構文より僕のプログラムの方が気持ちいいだろう?」



「ちょっと何言ってるか分かんないんですけど」


「気にすんな。いつもの病気みたいなモンだろ」


 そう説明されると反論のしようもないなぁ。漏れ出てくる言葉を聞き流して待っていると、元来た道から喧騒が近付いてきた。


「……! さっきの大型!」

「止めるぞ!」


 大型は探索者タイプと違って戦闘用のようだ。施設内にも関わらずビームまで普通に撃ってくるのはどこかエラーでも起こしてるんだろう。

 2人掛かりの射撃で応戦する。ここを離れるわけにはいかないけど、ガブロスさん達も心配だし……!


「しっかし……こんなヤツが配置されてるってことは、ここは只の倉庫じゃないのかねぇ」


「そんなこと言ってる場合ですか!」


 確かに速くて硬いTOYSだけど!


 続く戦闘の中で、TOYSが脈絡なく急に突進してくるようになった。こっちを狙っているわけでもなく、壁や小部屋の扉にもお構いなしに暴れ狂っている。


「何だ? 完全に壊れでもしたか?」


「逃げた方がいいんじゃ?! これ部屋が持たないですよ!」


「っぽいな。……っ! 危ねぇ!」


 急にレスティさんから突き飛ばされた。何のつもり……って思ったけど、TOYSが辺り構わずビームを乱射し始めるのを見て理解した。


「レスティさん!!」


 僕のせいでレスティさんは対応が一拍遅れてしまった。ビームを避けることに意識を取られて、振るわれるアームに気付くのが間に合わなかったみたいだ。

 レスティさんは壁に衝突して動きを止めてしまう。不運は続き、暴走するTOYSがレスティさんに迫る。防御ユニットがあっても、あの巨体に潰されれば致命傷は免れない。


「今度は僕の番だ……!」


 ライフルを構え、以前助けてもらったときのようにTOYSに弾丸を放つ。1発ではダメでも、2発、3発……と。


「止まれぇ……!」


 そのとき、何発か目の弾丸が偶然にもTOYSの砲門に入っていった。内部でどう作用したのかは分からない。けど結果的にその砲門は爆発し、TOYSはレスティさんの僅か手前でなんとか動かなくなった。


「ナイスショット」

「……! 良かった、無事だったんですね!」


 TOYSの爆発は、他の皆を誘導する役目も果たしたようだった。


「済まない! 小型まで延々と出てきたせいでヤツを通らせてしまった。……3人とも無事で良かった」


「気にすんなって。そっちも誰も欠けてないみたいだし。それより、今日のMVPはリリックな! 実に良い働きだったぜ!」


 皆から次々に称賛を送られる。最後のおも偶然だったし、そこまで大したことは出来なかったつもりだから、気恥ずかしいな。


「レスティさん! また新手が!」


 ケイエルの警告で我に帰る。そうだ、大型を倒したからって終わりじゃないんだった!


「さて、もう一頑張り……あ?」


 身構えたはいいけど、結局それと戦うことにはならなかった。

 新手のTOYSは僕たちの目の前で動かなくなり、その代わりに指令室(仮)の中から今まで蚊帳の外だったヴォッグさんが現れた。


「お待たせー。調教、もとい施設の掌握完了だよ」


 今日のMVP、やっぱりヴォッグさんかも。でも終わったってことは……?


「よし、それじゃお前ら……。祭りは終わりだ。帰るぞ!」


 大型TOYSを始め、大量の戦利品まで手に入った。本来の目的である紙の流通確保も成功だろうし、これで全部上手くいったんだ。


◇◇◇


「今日が締切だぞ! 分かってるな!?」


「おぅ!」「後ちょっとでなんとか……!」「昼までには終わるかな」


 また祭りが近付いてきた。今回は僕も描いている。


「どうだ? ……中々いいな。エロじゃないのが残念だが」


「そういうのはまだちょっと……。気が向いた時に練習してみます」


 今回のジャンルはSF系のバトル物。こないだの戦いの後から、なんだか無性に描きたくなったんだ。画力もストーリーもまだまだだけど、形にしたいと心から感じた。皆の情熱に少しでも近付いたんだろうか。


「夜には印刷始めるからな。キッチリ仕上げろよ!」

「間に合わせます!」


 こんな時代だけど、ネタが浮かんでくる限り、絶対に描き続けよう。供給することは止められない。崩壊世界に薄い本を……!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  たぶん世界が本当に終わりかけても、こういうぶっ飛んだ人たちは居そうな気がする。  いいお話でした。
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