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8話

 渡会さんとの話を終えたオレたちは事務所に戻ることにした。田辺さんは未だに戻ってこない。本当にどこに行ったのだろうか。


「真也さん、これからどうします?」

「三田さんと話が出来るまでは今ある情報を1度確認しておくべきだろう」

「えっと、今分かっていることは……」


 涼香がメモを取り出し、書かれていることを読み上げ、ホワイトボードに書き上げた。


・田辺さんの死亡推定時刻:15日金曜日の21~25時

・渡会さんのバイト時刻は:20~26時

・監視カメラと三田さんによるアリバイあり

・浮気以外に動機がない(浮気があったかどうかは不明)

・ブルーシートには田辺さん以外の血痕が付着←犯人の物?


「こんなところですかね」


 涼香が分かりやすくまとめてくれた。


「上出来だ。ただこれも付け加えておこう」


 オレはホワイトボードに書き加えた。


・コンビニから山まで車で25分の距離


「これは意味があるのでしょうか?」

「いや、気になったから書いただけだ。必要かもしれないし、必要ないかもしれない。それで頼んでいたものはどうだった?」

「はい、電話して調べはついています。土日は家族によるキャンプが行われることが多く、山への出入り口は24時間交代で見張っているそうです。たまに迷子が出ることから最近になって行われるようになったみたいです」


 オレが涼香に頼んでいたことは、田辺さんの遺体が見つかった山についてだ。死亡推定時刻が分かっても、第1発見者の話だけでは遺体がいつ埋められたものか分からないからな。


「それで、見張りがつくのは土曜日の朝6時から月曜日の夜8時までだそうです。平日は朝6時から夜8時までみたいでした」

「しっかり調べているな、ありがとう」

「いえ、これぐらいは大したことでは」


 涼香はそういうが渡会さんとの話を終えてすぐにそのことを調べるように頼んでいたのだから、この短時間にそこまで調べていたのは感心する。本当に助手にしたいぐらいだ。


「じゃあ、1つここで問題だが、田辺さんの遺体が埋められたと考えられる時間は分かるか?」

「15日金曜日の夜8時から16日土曜日の朝の6時までですね」


 オレはコクリと頷いた。死亡推定時刻の8時から山の見張りがつく朝6時までの間に埋めたと考えられる。


 遺体が埋められていた場所は見張りが立つ場所からそう離れていない所であり、見張りが居るときにその場所で車を停めれば目立って仕方が無い。


 歩いて運んだにしても大きく、犯人は遺体をブルーシートに包んで運んだと分かっているからどちらにしろ目立つ。


 つまり、車で遺体を運んでいると考えるのが普通であるから、それが可能な時間はさっき涼香が言った時間になる。


 ただ1つ気になるのは遺体を埋めた場所だ。本当に隠したいのであればもっと山奥に埋めるだろうし、なにより、早く見つかる可能性が高い。


 今回は遺体を埋めてから2日後に見つかっている。これでは遺体の損傷も少なく、死亡推定もより正確なものになってくるはずだ。


 オレが犯人なら死亡推定が分からないようにする。そうすれば容疑者の数も必然的に増えてくるからだ。それなのに犯人はその利点が分からなかったのか、それともあえてそうしたのか。


「もしかすると、これって犯人のワナなのでしょうか?」


 突然の涼香の言葉に驚く。


「え、どうしてだ?」

「だって、遺体が埋められてた場所も見つかりやすいわけですから、隠すのにそんなに見つかりやすい場所に埋めますかね。これじゃあ、見つけてくれって言ってるようなものですよね? 自分のアリバイは完璧だから、逆に死亡推定時刻が広がることは犯人には都合の良くないことと思ってる……」


 驚いたことに涼香はオレと同じようなことを考えていた。確かにこれぐらいのことなら気付く人は気づくだろうが、それにしても情報が入り乱れている中でオレと同じ考えになるのは感心してしまう。


「そう考えると、田辺さんと関係が深く、絶対的なアリバイがある渡会さんが犯人……」


 大胆に渡会さんを犯人だと言った。ここまで積極的に自分の考えを言ってくる子になっていたとは思わなかった。


「それに、少し気になることがあるんですよね。彼女が殺されて1週間程度しか経っていないのに、あそこまで平気でいられますかね? しかも、彼女というだけでなく、自分のことをいろいろとサポートをしてくれた人ですよ。もう少し落ち込んでたり、辛そうな顔をしててもおかしくはないはずなんですが……」


 涼香はグーにした右手で頬を軽く叩きながら自分の考えを口に出した。そしてハッと口を開いて、


「すみません、素人がべらべらとしゃべり過ぎました」


 頭を下げて謝る涼香。


「いや、思っていることがあるなら、遠慮せずに口に出してくれた方が良い。オレ一人だけじゃ気づかないこともあるかもしれないからな」


 まぁ、今まで見過ごしたことはないけどな。それに、見過ごしているようなら後輩たちに示しがつかない。


「それで、真也さん私の考えはどう思いますか」


 少し緊張な面持ちこちらを見てくる。


「オレと同じ考えだ。よく気づいたと思っている」

「そうですか。良かったです」


 安心したのか、フーっと息を吐いて胸を押さえた。渡会さんは話の中で一度辛そうな顔をしたがそれっきりでそれ以外は基本落ち着いていた。あそこまで平常心でいられるものなんだろうか。


「じゃあ、もう一つ。もし、渡会さんが犯人の場合、遺体をいつ埋めに行ったと考える?」

「バイト終わった時間の深夜2時から山の見張りが始まる朝の6時までの4時間の間ですね」

「ああ、その通りだ」


 コンビニから遺体が埋められていた山まで、そう大した距離ではない。バイトが終わった後からでも十分間に合う。


「じゃあ、涼香、今後の方針を決めておく」

「はい」

「渡会さんを犯人と仮定してしばらくは捜査をする。まずは監視カメラの映像と三田さんの話を聞いてからだ。動機に関しては今のところ見つからないが、後回しにする。それで大丈夫か?」

「分かりました。頑張りましょう」


 それにしても涼香がここまで頭が回るとは思っても見なかった。今後この子は化けるかもしれないな。

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