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5話

「おい、お前たち何をしてるんだ」


 駆け寄ってきた警察官にオレはいきなり怒鳴られた。もちろん、悪いことをしている自覚はある。だから、今は大人しくして話を聞いている。


「それで、君たちはこんなところで何をしてるんだ」

「それはもちろん、事件の調査に来ました」

「だから、なんで一般人のお前たちがこの場所に来ているのかを聞いているんだ」

「オレは探偵です、一般人ではありません」

「探偵でも事件と関係者以外は入ってはダメだろうが。お前名前は」

「伊神真也です。探偵事務所を開いています」

「だから、探偵が来たところでここは立ち入り禁止なんだよ」

「余計なことはしないので気にしないでください」

「入ってくること自体がすでに余計なことなんだよ」


 さっきからずっとこっちに来た警察官2人に怒鳴られ続けている。その様子をおどおどしながら見ていた涼香がオレに向かって、


「真也さん、ダメですよ。どう見ても私たちが悪いんですから出直しましょうよ」


 とオレの裾をつかみながら言ってきた。涼香には悪いが出直すつもりは一切ない。犯人の特定は時間が経つにつれて難しくなるものだ。だから今日中に事件現場は見ておきたい。ただ、この様子だと簡単には通してくれそうにない。出来ればこの手は使いたくはなかったけれど、使うしかない。


「それで、さっきからそこの探偵と一緒にいる君は一体誰なんだい?」


 オレとまともに話が通じないと思ったのか、今度は涼香が話しかけられた。涼香、すまないが少し時間を稼いでいてくれ……。その間にオレはスマホを取り出した。


「私は影井涼香っていいます」

「子供がこんなところに来ちゃダメだろ」

「これでも高校生ですよ。子供じゃありません」

「高校生は子供だ。勝手に入ってきちゃダメだろ」


 警官に怒鳴られたことで涼香はビクッと震え、泣きそうな目でオレのことを見てきた。涼香にしてみれば完全な巻き添えだからな。オレが勝手なことをしなければ怒鳴られることもなかったからな。あとで何か奢ってやろう。


「隠岐田さん、子供相手にそんな言い方だと泣いちゃいますよ」

「沢田、お前はあの話の通じない男をどうにしかしろ」


 隠岐田さんと、沢田さん。よし、2人の名前が分かった。涼香、お手柄だ。


     *


 真也さんが勝手に立ち入り禁止のところに入ったことで何故か私が刑事さんたちに怒られる羽目になった。


 刑事さんはさっきから私のことを子ども扱いするし、真也さんは誰かに電話しているし、なんで私がひどい目に遭ってるのかな。お姉さんは良いな、刑事さんに見えていないから怒られることもない。沢田さんという刑事の方は優しそうな顔をしているから、話しかけられるならそっちが良かった。


 隠岐田さんという刑事は顔だけでなく、口調も怖い。なんで私ばかり怒られなければならないんだろう。隠岐田さんはすぐに真也さんと話すのを諦めたように見えた。たぶん話が通じないと思われたんだと思う。あんな態度してたら、真也さんは頭がおかしいと私でも思ってしまう。


「涼香ちゃんだっけ? 君はなんでこんなところに来たの?」


 私が隠岐田さんの声にビクッとしちゃって答えてなかったら、今度は沢田さんの方が優しく聞いてくれた。


「私は真也さんの助手をやっていて、今日は依頼を受けてここに来ました」


 今日雇ってもらったばかりなのに助手を勝手に名乗ってしまうのはどうかと思ったけど、ここで余計なことを言ってしまうとめんどくさいことになる。だったら、今は嘘をついてもいいかな。私はしばらくの間は真也さんの下で働くつもりだし、後々この嘘を本当にするなら問題ないか。


「それで、今日はどんな依頼でここに来たの?」


 沢田さんは本当に小さい子を相手にしているかのようなしゃべり方をするので少しイラっときてしまう。けど、この状況で顔に出しちゃうとまずいから我慢しよう。


「依頼内容ですか……」


 こういうのは勝手に言っていいものなのかな? チラッと真也さんの方を向くと電話をしながらではあるが、こちらを向いて頷いているから話しても良いってことだと思う。


「真也さんと私は田辺美帆さんの事件について調査しにきました」

「だろうね、ここに来たってことは。だけど、それは誰に依頼されたのかな?」

「……探偵にも守秘義務があるので」

「そっか」


 探偵は依頼人のことを話しちゃいけないみたいなのを漫画で読んだことがある。だから、田辺さんのことを話すのはご法度のはずだ。それに正直に話したところで刑事さんたちお姉さんのこと見えてないから信じてくれないだろうけど……


「だから、依頼があるとしてもここは俺たちの管轄だ。探偵だろうと俺たちが許可しない限り操作はさせない」


 さっきまで黙っていたのにまた隠岐田さんが口を挟んできた。本当に怖いから黙ってて欲しい。さすがに大人2人からずっと話しかけられるのはしんどい。真也さんに助けを求めようとしたら電話が終わったのかこちらに寄ってきてくれた。


「真也さん、電話終わったんですか?」

「ああ、時間稼いでくれてありがとう」


 なんか、私時間稼ぎに利用されてたみたい。ひどいな真也さん、あのおじさんたち本当に怖かったんだから。私は真也さんの後ろに隠れるようにして隠岐田さんの顔が見えないようにした。


「また、話の通じないやつかよ。いい加減出て行ってくれないか?」

「それは無理な話ですね。オレにも依頼人の利益を優先しないといけないので」


 真也さんは何が何でも操作する気満々みたいだけど、大丈夫なのかな? 公務執行妨害とかで捕まらないよね? その時誰かの携帯が鳴る音が聞こえた。


「隠岐田さん携帯鳴っていますよ」


 沢田さんが指摘すると隠岐田さんは携帯を取り出し、


「沢田、こいつら追い出しておけよ」


 とだけ言って電話に出た。


「伊神君もそろそろ諦めて欲しいかな。隠岐田さんもねいつもは優しいんだけど、この事件色々と複雑でね、イラついてたんだ。だから、日を改めてきてくれないかな? もう何日かすれば規制も緩くなると思うからその時に来て欲しいかな」


 沢田さんは怒ることはなく、優しく言ってこの場から去ってもらおうとしているけど、私にはもう無駄だと分かってる。真也さんからは動く気配が感じないから。


「え、本気で言ってるんですか……分かりました、指示に従います」

「隠岐田さん何かあったんですか?」


 明らかに動揺をしているみたいだ。電話で不都合なことを言われたのかな。


「警部からの連絡だ……伊神真也に協力しろと」

「ホントに警部がそんなことを言ったんですか?」

「ああ」


 隠岐田さんも沢田さんも信じられないといった反応をしている。私だって信じられない。


「真也さん、一体何をしたんですか?」

「知り合いに連絡しただけだ。上手くいって良かったよ」


 真也さんの知り合いは警察でさえ動かせるのか……、敵に回したときが怖いな。

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