15話
事件を最後に止まった停電、そしてブレーカーに不自然に付着しているセロハンテープを見て、オレはもう一度だけ映像を見ることにした。先程までは停電になる前に不自然な動きをしていないかをチェックしていたが、停電前後だけでなく、事件以外の日の映像を見せてもらうことにした。
その映像の中で気づいたことは2つ。
1つは事件日以外の三田さんの近くにあった商品の向きが停電前後で毎回変わっていること。
もう1つは、事件当日三田さんの制服の結び目が変わっていること。
「こうして何度も見てみると色々と分かってくるもんなんですね」
「ここまでくれば停電が事件と無関係だとはいえないな」
だとしてもだ。証拠が一切ない。停電のトリックが分かったとしても犯人と結びつけるには弱すぎる。停電の時間は約3分間。この時間なら田辺さんをコンビニに呼び出しておけば殺せなくもない。田辺さんが監視カメラに映っていないことから呼び出していたとしたらコンビニの裏だろう。
裏までの道なら一切カメラに映らなくて済むからな。コンビニの裏には倉庫の裏口から出ていける。そこに前もって呼び出しておけば3分もかからず殺害はできるはずだ。
「共犯ですかね?」
「難しいな……」
停電を意図的に起こしている以上相手方が一切気づかないというのはあまりにもおかしい。
「しょうがない、罠に嵌めようか」
「……罠?」
オレは隠岐田さんたちに連絡を取り、作戦を話して実行してもらうことにした。
*
―――――― 2日後
「犯人が分かったって本当ですか?」
「ええ、事前に渡会さんに伝えておこうと思いまして、今日ここに来ていただきました」
オレは渡会さんを事務所に呼び出した。監視カメラの件で犯人を絞ることが出来た。涼香も事務所にいることはいるのだが、今はキッチンにいてもらっている。信頼はしてはいるが、顔を読まれたりしたらまずいからな。
「それでこれから自首を進めにいきたいと思っているのですが……」
「伊神さんが誰のことを言っているのかは分かりませんが、自首はしないと思いますよ」
こちらの目をまっすぐ向いて答えた。
「ちなみに誰が犯人なんですか?」
「三田さんですよ」
「やっぱりそうだったんですね」
「驚きはないんですか?」
「ええ、三田君はどこか動揺しているところがありましたから」
驚いた様子もなく、ある程度予想していたみたいに冷静であった。
「刑事さんにそのことは伝えたんですか?」
「まだです」
「なんでですか? 犯人が分かっているのなら早く言った方が良いんじゃないですか?」
「それがですね、物的証拠が見つかってないんですよ。これでは逮捕することは難しいと思います」
「それじゃあ、何故私に犯人を教えてくれたんですか?」
「次の三田さんがシフトに入る日にわざと停電を起こさせて尻尾を出させようと思っているんです」
「わざと……ということはあの日起きた停電は三田さんが起こしたものなんですか?」
「そうだと警察を含め、オレたちは思っています。先程、三田さんには電話をして事件後に停電が起きてないので犯人がアリバイトリックのために停電を起こしたのではないかと伝えておいたんです」
事件の後、ピタッと停電が起きなくなるのは少し不自然だからな。
「それで三田君が次のバイトで停電を起こすと?」
どうやら、渡会さんは三田さんにそのことを伝えた理由を分かっているようだ。
「ええ、疑いを向けないようにするために、起こす可能性はあるかと……」
「次のシフトとなると明日ですね」
「はい、それで渡会さんも一緒だと聞いたので事前にお話ししておいたのです。当日は在庫品が置かれている部屋に警察が隠れるそうです。それで取り押さえる予定です」
「おびき出して証拠を見つけると……?」
「ええ、警察はまだ三田さんの家はもちろん、コンビニでの証拠品の捜索は始めていないらしく、停電を起こしたことを理由に家宅捜索をしようとしているみたいなんです」
「でも、何日も経ってますから、捨ててしまっているのでは?」
事件からは1週間以上も経っている。証拠となる物をいつまでも保管したいとは思わないのが普通だ。だけど、今回に関しては違ってくる。
「それがですね、遺棄現場、コンビニ、渡会さんや三田さんの家の周辺にそれらしきものは見つからなかったみたいなんですよね」
「ゴミとして捨てたとかは?」
「もちろん警察もその線は考えてましたけど、見つからなかったみたいですよ」
「だから、保管していると?」
オレは黙って頷いた。
「分かりました。伊神さんたちに協力しましょう」
「ありがとうございます」
「それで俺はすればいいですか?」
「いえ、何もしなくていいです。ただ三田さんに警戒されないように気を付けていただくだけで大丈夫です」
「そうですか。分かりました。では、明日でこの事件が解決できるよう期待してますね」
事務所から渡会さんが出ていくのを確認すると、涼香がオレの方に寄ってきた。
「上手くいきますかね?」
「五分五分ってところだな」
上手くいかなきゃいかないでDNA鑑定をすればいいだけだ。疑惑が深まれば家宅捜索も認められるだろう。十中八九、凶器は捨てていないはずだ。もし捨てていたならば犯人の目的が半分達成できなかったことになるからな。
「なるようになるさ」
「だといいですけど」
涼香は不安そうにしているが、オレは確信している明日ですべてが解決すると。