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13話

 涼香が気づいた空白の3分は渡会さんのアリバイを崩すうえで重要なカギとなる。3分で何ができるかと言われても正直な話今の時点では何も思いつかない。


 ただ、完璧なアリバイがあるかとアリバイのない3分間は大きな違いだ。この3分が意図して起きたものなのかを調べていく必要があるだろう。


 涼香がそれに気づいたときオレは渡会さんのことを見ていた。特に動いた様子もなく、ほぼレジに居たといってもいいぐらい動いていないかった。


 ガチャとドアが開き、隠岐田さんと店長が戻ってくると、沢田さんはすぐに隠岐田刑事に話しかけた。


「隠岐田さん何かわかりましたか?」

「どうやら16日の0時5分から8分の間停電が起きていたそうだ」

「停電ですか?」


 涼香がボソッと言った言葉に対して店長が丁寧に受け答えた。


「ええ、この時停電が起きてたので映像に残らなかったんですよ」


 3分間の停電。これを警察が気づかないはずはない。


「隠岐田さん、これってかなりお手柄なのでは? この停電が渡会さんが起こしたものならアリバイを崩せますよ」

「落ち着け沢田、このぐらい映像を見た警察官は全員気づいてる。それは渡会を逮捕できていない時点で察しろ。それと店長、ここは停電が頻繁に起きているですよね?」

「ええ、かなり頻繁に」


 つまり、頻繁に起きているからこそ事件当日に偶然停電が起きたと処理されてしまったということだろう。頻繁と言ってもどれぐらいの期間起きているものなのかは知っておく必要がある。同じことを思ったのか涼香が店長に疑問を投げかけた。


「停電が起きている頻度ってどれぐらいなんですか?」

「大体1週間に3,4回起きているかな。今ぐらいの時間に……」


 『カチッ』と音が鳴って電気が落ちた。


「こんな風にこの時間帯に2,3回、さっきの映像と同じように深夜帯に1回起きている」


 店長はそう言いながらブレーカーをあげるようアルバイトの女の子に指示を出した。ブレーカーは在庫品が置かれている場所に設置されているみたいだ。それで、三田さんが停電の後、その場所から出てきたのだろう。


「停電はいつから起きるようになったんですか?」

「1年ぐらい前からかな?」

「そんな長い期間起きていたんですか? 直そうとか思わなかったんですか?」

「初めは直そうとは思っていたんですが、今度直そう、今度直そうと思ってて1年が経ってしまいました」


 典型的なダメなタイプだな。それにしても1年か。停電が起きる時間さえ分かっていれば事件に利用もできなくはないが、いつ起きるか分からないのであればそれは無理だな。でも、逆に停電を起こすことさえできればカモフラージュもできる。


「ここに来てくれるのはほとんど同じ方なので、今では受け入れてもらちゃってますね」


 それで直そうと思う意思もそがれてしまったということか。修理するにもお金はかかるからな。お客さんが受け入れてくれているなら直さなくてもいいやって思ってしまったのだろう。


 店長と涼香の話を聞いて隠岐田さんたちは何か話し合ってから、オレの方に寄ってきた。


「俺達はこれから渡会さんと三田さんにこの停電のことについて聞きに行くが、お前も来るか?」

「いえ、オレはオレでやりたいことがあるのでここに残ります」


 どうせ話を聞きに行ったところで新しい情報なんて手に入らないだろう。『たしかに停電がありました』で済まされてしまうだろう。だったら、ここに残って警察の見つかり切れていない情報を手に入れた方が良いだろう。


「そうか、店長こいつら置いて行きますが、上の方からの指示なんで自由にさせておいてよろしいですか?」


 警察でもないオレらを残すのは店長としてはあまり受け入れたくはないだろう。断られてもおかしくはない。まあ、その場合は電話をするだけなんだがな。


「構いませんよ。仕事の邪魔にならないようなら」

「そうですか、では置いて行きます。また何かあったら協力してもらうかもしれませんがお願いします」

「ええ、どうぞ」


 隠岐田さんたちはコンビニから出て行った。


「真也さんこれからどうするんですか?」

「とりあえずは監視カメラの映像をもう一度確認することだな」


 今度は停電が起きた部分を中心に各視点を見る。いっぺんに見ると見逃しがあるかもしれないからな。


「涼香も見るだろ? さっきは全部見えていなかったみたいだからな」

「はい」


     *


 僕は隠岐田さんと渡会さんの家に向かっている。


「それにしても、あの年で事務所を一人で経営しているの凄いですよね」


 僕は何故か警部に信用されている伊神君のことが気になってしょうがなかった。それと伊神君と一緒にいる影井涼香ちゃん。あの子も女子高生のはずなのに周りをしっかり見えていると思う。


「警部の指示だから邪険にできないからな。そうじゃなかったら追い出している」


 隠岐田さんはいつも厳しいことばかり言っている。もう少し寛容になった方が良いんじゃないかといつも思う。だけど新人の僕にいろんなことを教えてくれているから尊敬もしている。


「ただな、高校生を現場に入れるのはな……」


 涼香ちゃんを現場に入れることにはいまだに納得できていないらしい。たしかに僕もあんな子供を同行させるのはどうかと思ったけど、伊神君の助手と言われたら隠岐田さんも無視はできないからな。


「でも、高校生と言えば僕はあの人のことを思い出しますね」

「お前の憧れなんだか知らないが、過去の人間だ。それにやつは未だに俺達警察に疑惑を残したままなんだからな。生きているのかも怪しい」


 僕が警察を目指そうと思ったきっかけはあの人だった。今から6年前に誰も解決できないと言われた未解決事件をいくつも解決していた高校生探偵がいた。だけど、2016年の2月5日にある事件が起きた。いや正確に言うと1月から頻繁に起きていて日本中を巻き込んだ極悪な事件が起きた。


 犯人は死んだらしいが、それと同時にその探偵も姿を消した。なぜなら、彼に殺人容疑がかけられたからだ。それはネットにも一斉に拡散されて未だに世の中に疑惑を残した探偵なんて言われている。


「でも、僕は信じてますよ。彼は悪い人じゃないって」

「だったら素直に出て来ればよかったんじゃないのか? 結局その後一度も姿を見せることなく6年も経過しているんだからな」

「殺人の罪を被せられたら普通出てきませんって」

「そうかもしれないな。ただ、その探偵はもういない。それに上の方にその探偵と同じぐらいの実力を持ったやつが居るんだから良いだろ」


 そう、彼が居なくなった後しばらくして、今まで警察では解けなかったような事件がみるみる解決しだすようになった。


「それもそうですね」

「ほら、無駄話してないで行くぞ。家はもうすぐそこだ」


 今は事件解決が先だ。僕にとって彼は今でも憧れの存在。その探偵の名前は


 ―――――――――――― 結崎真也(ゆいさきしんや)


 偶然にも伊神君と下の名前が同じだ。だから僕は予感してるんだ。この事件は伊神君が解決してくれるんじゃないかって。

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