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12話

 ―――――4月24日日曜日


 今日は渡会さんのコンビニの監視カメラの映像を見に行く。警察と三田さんから得た情報で渡会さんが一番の容疑者であることは間違いない。ただ、それを否定するだけのアリバイが渡会さんにはある。


 警察の話では、監視カメラに渡会さんが田辺さんの死亡推定時刻の間ずっと映っていたらしい。それだけで、アリバイはほぼ完璧といえるだろう。ただオレはその映像を見たわけではない。だから渡会さんをシロと判断するかは映像をこの目で見てから決める。


 今日は日曜日であることから涼香は朝から事務所へ来ている。ただ、監視カメラの映像を見に行くのは沢田さんの同行が必要であるため夕方に行くことになっている。午前中は警察の捜査で忙しいらしい。無理を言っているのはこちらだし、合間を縫って協力してくれるのだから文句は言えない。


 涼香はというと今まで得た情報をホワイトボードに書き加えた後、暇そうにしていたので、依頼(近所の困りごと)を渡しておいた。今頃歩けないおじいちゃんに代わって犬を散歩させている頃だろう。


 オレはオレでやることはある。抱えている仕事は田辺さんの事件だけじゃないからな。そちらの方は大したこともなくメールを送って済ませた。


     *


 オレと涼香は午後4時半に渡会さんが働いているコンビニに着いた。今日は渡会さんも三田さんもいないらしく、絶好の機会だといえるだろう。


「沢田さん来ませんね」

「忙しいみたいだし、もう少ししたら来るんじゃないか?」


 その時コンビニにパトカー(覆面)が止まった。


「来たみたいだな」

「ですね………………げっ」


 隣から変な声が聞こえた。よく見るとパトカーから降りてきたのは沢田さんだけでなく、隠岐田さんもこちらへ寄ってきていた。涼香はこの前の件で隠岐田さんに苦手意識があるらしいな。隠岐田さんがいるのが分かった途端一瞬嫌そうな顔をした。


「すみません、お待たせしました」

「隠岐田さんも来たんですね」

「悪いか?」

「いえ、構いませんよ。ただ沢田さんだけと聞いていたので」

「いや僕もね一人で行こうとしたんだけど、隠岐田さんが来るって聞かなくて」

「沢田、黙ってろ」


 隠岐田さんに注意され、子犬のように大人しくなる沢田さん。それと同時に涼香もオレの後ろに隠れるという訳の分からない状態になっていた。


「あんたの力を見たいと思ったからここに来た。俺達に解決できない事件をどう導くのかをな」

「期待されても困りますけどね。ただの探偵ですよ?」

「ただの探偵なわけあるか。警部とパイプがある時点で普通とは言わせないぞ」


 ごまかしは通じないみたいだ。この二人にはオレは印象深く残ってしまうことだろう。それはこの事件を引き受けたタイミングで覚悟できていたことだから問題はないがな。


「冗談はこのぐらいにして、早速監視カメラの映像を見せてもらってもいいですか?」

「こっちについてこい」


 隠岐田さんは店長らしき人に話をし、オレ達は監視カメラの映像を見ることが出来る従業員室に入っていった。


「これが15日の20時から26時の映像です」

「ありがとうございます」

「では、私はレジの方にいますので何かあれば言ってください」


 そう言って店長は従業員室から出て行った。今日のコンビニには涼香と同じぐらいの年の女の子しかいないらしい。


「隠岐田さん、見させてもらってもいいですか?」

「どうぞ」


 オレは監視カメラの映像を見ることにした。


     *


 私、涼香は真也さんの後ろから監視カメラの映像を覗いている。


 渡会さんの話ではカメラにずっと映っていたと言っていたけど、たぶんそれは本当のことだと思う。こんなところを嘘つけばすぐに刑事さんに怪しまれちゃうからね。それがないってことは渡会さんの言っていることは嘘ではないんだと思う。


 だけど、私は田辺さんを殺したのは渡会さんだと思っている。その次に怪しいのは三田さんになるんだけど、三田さんははっきり言って殺す度胸はないように思っちゃう。だから渡会さんにアリバイがあるといっても犯人にしか思えない。


 私もこんなことを考えていないで映像をしっかり見た方が良いんだけど、映像が映っているテレビ画面の前には真也さんはもちろん刑事さん二人まで覗き込んでいる。この二人は事前に見ていなかったのかな。おかげで私は時間の部分しか見れていない。しょうがないから、後でもう一回見せてもらおう。


「渡会さん、ずっとレジにいますね」

「証言の食い違いはなさそうだな。三田さんの方も怪しいところはないな」

「本当にこの二人のどちらかが犯人なのでしょうか? 他の方も言ってましたけど、映像におかしい所なんてありませんよ」

「黙って探せ、絶対何かあるはずだ。沢田、見落とすなよ」


 真也さんが黙って監視カメラを見ている横で、刑事さん二人がしゃべっている。真也さんは3画面すべてを見ているが、刑事さんの方は、隠岐田刑事がレジと従業員室、沢田刑事は入り口と商品棚のカメラの映像を見ている。


 真也さんたちは田辺さんの死亡推定時刻だけではなく、渡会さんが入店した時間から見ている。そんな長い時間見るわけもいかないから、早送りをしながら見ている。たぶん、30分もかからないで見終わるんじゃないかな。


 20分ぐらい経って、画面の見過ぎで疲れたのか沢田刑事は一度画面から目をはずし、背伸びをして再び画面に目を向けた。そのおかげで、先ほど見えなかった商品棚の部分の映像が見えるようになった。その瞬間、映像がおかしなことになった。


「え? ちょっと待ってください」


 私が声をあげると刑事さん二人が驚いたようにこっちを向いてきた。ただ、真也さんは冷静に私に聞いてきた。


「何か見つけたのか?」

「何か見つけたというより、不可思議なことがあっただけですけれど」

「どこだ?」

「えっと……ココです」


 真也さんが映像を巻き戻してくれたので私は不思議に思った部分で映像を止めてもらった。そして、商品棚が移っているカメラを指差した。


「見ててください」

「あっ」


 声をあげたのは同じく商品棚を見ていた沢田刑事だった。沢田刑事は気まずそうに隠岐田刑事の方を見たが、隠岐田刑事はその映像を見るなり店長を呼びに行っていた。


「よく気づいたな」

「たまたまですよ。見ていた映像がみなさんより少なかったので気づけただけですから」


 その映像に映っていたのは、突然三田さんがワープするというあまりにもおかしなものだった。私たちは飛ばし飛ばしに見ていたわけではないから、早送りにしているとはいえ、ちゃんと人が歩いていてもものすごいスピードで歩いているように見えるだけだった。けど、三田さんは突然姿を消したかと思えば従業員室の隣にある在庫品が置かれているところから出てきた。


「切り取ったかのような感じだな」

「ええ、時間も3分ほど飛んでいますね」


 この3分間は大きなことだと思う。短いとはいえ完璧なアリバイに陰りが出来たと思う。ただこのことを刑事さんたちが気づいていないとは思えないんだよね。こんなあからさまなことだれでも気づけちゃう。だから、映像が切り取られたで済むような問題じゃない。

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