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11話

 三田さんとの会話を終えたが、オレたちはそのまま喫茶店で残っていた。


「三田さん、かなり様子がおかしかったですね」

「ああ、あの慌てようは尋常じゃないな」

「それに三田さんが言っていることで田辺さんの話と矛盾していることがありましたよね」

「涼香も気づいたか」

「ええ、三田さんは田辺さんから弁当が貰えなくなったのは半年前でそれは渡会さんと田辺さんが付き合ったからじゃないかと言ってましたけど、2人が付き合ったのは3年前のはず」

「ああ、だから弁当を作らなくなったのは交際開始が原因ではないんだがな」


 単純にめんどくさくなってやらなくなったのか、それとも別の理由があるのか。そもそもそんなことは田辺さんから聞いていない。弁当を作ってあげていたということしか言われていないからな。


「それに独占欲が強い人が他の男に弁当を作ることを許しますかね?」


 それはオレも引っかかったところだ。三田さんは大学時代に渡会さんに他の彼女がいて渡会さんの重さに耐えれず破局したようなことを言っていた。オレ自身恋愛経験はないから分からないが、そんな男が弁当を他に男に作ることを容認するとは思えない。


「許さないだろうな。まあオレはその手の経験はないから分からないが、涼香はどうなんだ? こういうのは容認できるもんなのか?」

「なんで私に聞くんですか?」

「そりゃ女子高生だから、そういうものには詳しいんじゃないのか?」

「私だってここまでのことは分かりませんよ。私もそういう経験ないんですから……って何を言わせるんですか」

「悪い、こういうのは女子高生の方が詳しいかと思って」

「真也さん、分かっていると思いますけど、私が高校生になったのはつい最近ですよ? そんな短い期間で真也さんが思っているような女子高生にはならないですよ。たぶんよく言う『女子高生は~だ』というのは早くても高校1年生の後半の時期ぐらいからの子たちを指すんだと思いますよ?」

「へ~、知らなかったな」

「まあ、私のイメージですけどね。もしかしたらそういう子もすでにいるかもしれませんけど。って真也さんも高校行ってたならそういう雰囲気とか感じなかったんですか?」

「なかったな」

「意外ですね。そういうのに敏感そうに生きているのかと思ってましたけど」

「どういうイメージだそりゃ」

「高校生の時から探偵業やってるならそういうこと考えてそうだなと思っただけですよ」

「オレにそういった知識はないと思った方がいいぞ。今後もそういうことに関しては涼香に任せるから」

「しょうがないですね、分かりました頑張ります」


 オレには『高校生』と言うものがどういったものなのか知らない。だから依頼として来た高校生たちの話を聞いてイメージをしているだけだ。なぜならオレは『高校』というものに通ったことがないからだ。


「話ズレちゃいましたね。私としては許さないんじゃないかと思いますよ? 独占欲の強い人って誰かに取られるのを嫌がるわけじゃないですか。そんな人は異性と話すことさえピリピリしちゃうなんてことを聞いたことがありますからね」

「渡会さんはその面があると?」

「一度話した感じだとそういったことは分からないですが、三田さんが言ったことを信じるのであれば、独占欲が強くて破局したみたいですし、弁当を作ることなんてもってのほかだと思います……」

「まあ、そうだろうな。オレも同意見だ」

「それと気になっていたことがあるんですが?」

「なんだ?」

「渡会さんって興味がないことには目に入れないようにしてると思ったんです」

「どうしてそんなことを思ったんだ?」

「渡会さんと話したとき、私を見ないで真也さんばかり見ていたじゃないですか?」


 そのことはオレもよく覚えている。渡会さんは露骨に涼香を無視していたように思えたからな。


「あの時はただ単に子ども扱いされていただけだと思ってたんですけど、今思えば、あの場で重要なのは真也さんと話すことだけで私のことはどうでもよく、興味すら抱いていなかったと思うんです。普通なら話す前に気になったりしませんか? 『なんでここに子供がいるんだ?』って。それなのに私が話すまでこちらを見ることもありませんでした」


 あの場に女子高生である涼香がいることに何の疑問を持つことなく、渡会さんは淡々と話していたことが気になっていたのだろう。


「私なりの解釈なんですけど独占欲の強い人ってなんでもかんでも独占したいと考えることは少ないじゃないのかなって思うんです。だって、なんでもかんでもやってたら精神的疲れてしまうと思うのでどこかでセーブする必要がある。その方法の一つが興味のないことはとことん遮断すること……」

「つまり涼香は、渡会さんが涼香のことを無視していたのはそもそも興味すら抱いてなくて、それは独占欲が強い人の特徴だと言いたいのか?」

「はい。……考えすぎですよね? すみません、変なことを言ってしまって……」


 冷静になったのか頭を下げて謝ってきた。涼香の話は飛躍し過ぎではあるかに思えるが一応そうとも考えられなくはない。たしかにオレも露骨に涼香のことを無視していたのは気になっていた。


 『あの子はなんでも見透かしちゃいそうな目をしているの』


 オレの頭に田辺さんの言葉がよぎった。涼香の直感を信じるのであればそういうことなんだろう。


「涼香、時には直感も大事だから思ったことはガンガン言っていい。それに渡会さんが独占欲の強いというのは三田さんの態度から分かっているからな。そこに涼香の直感も考慮すればそう判断してもいいんじゃないか?」


 三田さんは話の中で動揺することが多かった。けれど、渡会さんのことを話していたときは比較的冷静に話していた。これが演技だとしたらお手上げだ。だが、あの様子だと本当のことなんだろう。


「じゃあ今度から思ったことはどんどん言っていきますね」


 元気を取り戻したようで両手でガッツポーズを作って顔をあげた。


「ああ、そうしてくれ」


 落ち込んでいる姿よりも元気でいる涼香を見ている方が良い。


「何度間違ってもいい。最後にしっかりと真相にたどり着けさえすれば過程なんて必要ないんだからな」


 そういってオレは涼香の頭を撫でた。何故オレがそんなことをしたのかは分からない。ただ体が勝手に動いていた。


「ちょっとやめてください。こんなところで」


 そう言いつつも涼香の顔がとても赤くなっているのが分かった。恥ずかしくなりながらも手を押しのけようとしていたので手を離すことにした。


「真也さん今日はこれで、また明日もよろしくお願いします」

「またな」


 慌てて店から涼香は出て行った。もう少し落ち着けばいいものを……


 オレは涼香を撫でた手を見てふと思ってしまった。


 オレも一人の人間なんだな。オレのやってしまったことは取り消せないのに……、解放されたくて仕方がないようだ。罪深き人間でありながら誰かに温みを求めている。この凍った氷を溶かしてくれる存在を……。


「お客さん、お呼びですか?」

「コーヒーを1つ」


 オレはコーヒーをもう一杯だけ飲んでから会計することにした。落ち着きを取り戻したオレは自分のことよりも再び事件のことを考えることにした。


 彼女が殺されても何故か落ち着いている様子の渡会さん。話しているときにびくびくしている三田さん。そして捜査にあまり協力をしてくれない田辺さん。まだまだ、この事件には深い背景がありそうだ。

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