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4:魔族のシュカナ君



 ロウファンの冷たい視線が突き刺さる。

 回答を間違えればこの場で死ぬこともあり得るだろう。


「自分が人間だと、証明できるもの、か」


「そっすね、何でもいいっすよ?」


 私は軽くため息を吐いた。


「自分が人間か魔族かなんてどうでもいいね。そもそもその証明は不可能だ。人間と魔族に大した違いはない。

 もちろん、保有魔力の量が違うと言うことはできるが、これは個人差に左右される。常人を越える魔力量を持った人間は全て魔族という極論に至りかねない」


「だーーーーっ、回りくどい!」


 私の後ろから走り込んできた少女がいた。

 目に映る銀色の髪、

 プラウラだ。


「ちょっとお前信用できないから私たちの傍を離れないでね!離れたら敵とみなしてぶっ殺すわよ!でいいんよっ。それをこうくどくど話し出すから話がややこしくなんの!」


「………そっすね。今のシュカナ君の発言にはちょっと思うところがあるんすけど、行動的には正直グレーっす。今できることは見張っとくくらいっすかね」


「まーあ、私はシュカっちは敵じゃないと思うけどねっ!」


「その勘当たるから嫌なんすよねぇ」


 ロウファンはため息を吐いて肩を落としている。

 先ほどまでの冷たい雰囲気はそれで消えてくれた。




~~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~~




 結局、私の魔族疑惑は晴れることはなく、あの現場に居た騎士伝いにこの国の上層部にも話は伝わったらしい。


 とはいえ、この国一番の騎士であるプラウラ―――ここに疑問を挟むと長くなるので割愛―――の大丈夫発言と、アティニス姫―――私を迎えに来た姫―――による弁護で私の人権は守られている。


 結果的に、


「おはよっおはよ~おっはよーサーン!」


 プラウラと同室で過ごすことになった。


『騒~がしい朝が来た!』


 希望の朝にはなりそうにないな。


「シュカっちー、早く修練場いこうぜー」


 私とミーティスは勇者としてその力を鍛えるために王城内で訓練を重ねることになった。

 剣はプラウラに、魔法はラフィールに教えを受けている。

 プラウラの剣術指導は直観的なので私にはあんまり参考にならなかったが、ミーティスには非常に効果的だったらしい。彼女はメキメキと力を付けていた。


 ラフィールの魔法教室は、基礎のところからかなり詳しく教えてもらえるので、正直すごく分かりやすい。

 対人間用の魔法しか教えてもらえないのが偶に傷だが、その辺は実践で覚えろ、ということなのかもしれない。

 まぁミーティスなら問題ないだろう。


『君には僕が居るからねっ、何も問題なんてないんだからっ』


 そのツンデレ風味はなに?



 そんなわけで私は剣の腕が微妙に伸びないので身体能力を伸ばす方面で努力している。


 ロウファンと一緒に走ったり、ビリックと一緒に身体を鍛えたり、剣の扱い以外でも何か伸ばせる部分がないかと模索しているのだ。




~~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~~





 そんなこんなで順調に訓練が進んでいった二週間後の朝。


 アティニス姫から呼び出しがあった。



「お待ちしておりました、シュカナ様」


 テラスのような場所に姫は立っている。護衛らしき人物は特に見えない。


「護衛なら私がいるよ?」


 隣に立っていたプラウラから声が上がった。


 人の心を読むのは止めろ下さい。


「それで、姫様、お話というのは一体」


「貴方の処遇についてです」


『デッド オア アライブ!』


「端的に申し上げますと、貴方は勇者としての活動はできなくなりました」


『やったぜ!!』


「ただ、これは 今は 勇者を名乗ることが許されないという話です。貴方には引き続き魔王討伐のために尽力していただきます。

 貴方が手柄を立てれば頭の固い老人たちも意見を覆すでしょう。それまでどうか辛抱していただきます」


『ぬか喜びじゃん!!』


「はい、かしこまりました」


 予想通りだったので素直に返事をする。


「それで、以前班分けについて話されていましたよね」


「はい、確かにチームを二つに分けて行動するかどうか、という話をしていました」


「そのチーム分けをお願いします」


「ええと、それは私がミーティスと共に行動するのは外聞が良くない、ということでしょうか?」


「…………馬鹿々々しい話ですが」


 姫はその手をぎゅっと握り締めていた。

 彼女も納得はしていないのだろう。


「いえ、問題はありません。元々そうしようかと話していたところです」


「苦労を掛けます」


 姫は小さく頭を下げた。



~~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~~




「で、どーするん?チーム分け」


 隣を歩くプラウラ、彼女はどう考えているのだろう。


「私としてはミーティスにはビリックたちが必要だと思っているが、プラウラはどうなんだ?」


「んーもう、シュカっちには私たちが必要でしょ、んねっ?」


「んねっ、じゃないが、まぁそっちの方が私としてはやりやすいかな」


「んじゃまそーゆー感じで行こう」



 というわけで、ビリックたちにもその話をしたところ、


「あー、別にいいんじゃねぇか?」

「私は賛成っすね」

「特に異論はありません」


 三人はすぐに了承してくれた。


「えー、シュカナさんと一緒に戦えると思ったんですけどー」


 ミーティスは不服そうだったが、


「冒険の中で強くなったミーティスに会うのが楽しみだな」


「あ、そういうのもありますね!旅の途中で再開した仲間との共闘っ!いいですね、燃えますっ!!」


 私の説得を受けて意見を変えてくれた。




~~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~~




 正式にチームを分けて行動することが決まったその日の夜。



「どーもー、こんばんはー」


 どこか間延びした声で話しかけて来る女の声が聞こえる。


「何の用だ?」

「用というのはですねー、同族がいるのかなーと思って様子を見に来ただけなんですよー」


 同族?何のことだ?


『お相手、魔人なんじゃないかな?』


 魔人の女が一体何用で…………………



 あーーー、魔人騙ったな、そういえば。

 それでお怒り的な?


『でも、魔人って面白いことが全てみたいな性格してるから怒りには来ないんじゃないかな』


「じゃあ普通に話しに来ただけ?」


「そうですよー、勇者パーティーに紛れ込む魔人。面白いですよねー」


「暇なの?」


「いやだなー、暇じゃない魔人が居たら教えて欲しいですよー」


『魔人ってば強大な力を持ってる癖に目的をあんまり持てない種族だから基本的にその全てを持て余してるんだよね。

 そういう理由もあって他の魔族からは嫌われがち。基本的に魔族は力こそ全てって種族だから、力があるのに遊んでるだけにしか見えない魔人っていうのは腹が立つ存在なんじゃないかな、多分』


「へー、何か可哀そうね」


「ひどいですねー、確かにあなたはー楽しそうですけどー」


「あー、まぁ正直面倒だから代わってくれるなら代わって欲しいよ、私は」


「えーー、そんなに面白そうなのに面倒だなんてー。どれだけ恵まれた人生送ってるんですかー」


 魔人の女は恨めしそうに声を上げる。


「姿は見せないのか?」


「それをするとー、隣で寝てる方に気が付かれるのでーまた今度ー」


 隣にはスヤスヤと眠るプラウラが居る。


「そうか、帰り道は色々大変だと思うが、気を付けてな」


「はーい、また会いましょうねー」


 そう言うと、魔人の女の声は聞こえなくなった。


『声的に胸が大きい』


 ん-、どうかな。意外と普通かも。


『いーや、あの声は絶対デカいよ』


 のんびり屋≠巨乳だと思うがね、私は。


『いいや!あれは巨乳の声だった、僕には分かるんだ、真のロリとそうでない者の差がッ!!』


 要らないスキルだなぁ。


 私たちは眠るまで魔人の女がどんな人かを予想していた。




~~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~~



『閑話:ビリックの魔法』



 チーム分けについて考えるとき、お互いに何ができるのか分からなければ話にならない、ということで自己紹介も兼ねて自分たちの特技を披露することになった。


 まずはプラウラから。


「んぇ、私?速く動いて速く斬れるってだけよ?魔法使えないし」


 そう言いながら凄まじい身のこなしを見せる。残像がすごい。



 次にロウファン。


「えぇぇ、アレの後っすか?いや、まぁ魔法使えばプラちゃんと同じくらいには動けますけど。後はまぁ色々とできますよ。器用貧乏って奴っすね」


 ロウファンはプラウラと同等の速度で動きながら、その間に


 ラフィールにお茶を淹れ、ビリックの肩を叩き、ミーティスに飴を渡し、プラウラを蹴り、私と握手していた。


『めっちゃ器用だ………』



 次は私。


「えー、私のできることか。今のところ教えてもらった魔法は大体使えるな。剣の方は当てにしないでもらえると助かる」


「がんばってーシュカっちー希望はまだあるぞー」


『ガンバレーシュカナ君ーそのままじゃお荷物だぞー』


 ガンバリマス。


 次はミーティス。


「私ですかっ!私は剣を振るのが得意ですっ。火の魔法も得意ですっ!」


「頑張れーミテっちーシュカっちを越えろー」


「頑張ります!」


 もう越えてるから。


 次はラフィール。


「ええと、そうですね。魔法が得意です」


「頑張れー、ラフっちー、もうちょいアピールできるぞー」


「えっと、色んな種類の魔法が使えます」


「よく頑張ったーお疲れラフっち!」


 さっきからお前(プラウラ)は何目線でそこに立ってるの?


 最後にビリック。


「あー、俺が最後か。

 物珍しさはあると思うんだが、まぁ使いようってやつなんだよな」


 ビリックはそう言うと、手に持っている本をパラパラと開き、


 ――――――その中からうさぎの兵隊が飛び出してきた。



「え、なんですかそれっ」


 ミーティスが食いつく。


「ん-、簡単に言えば俺の心象風景だな」


 出てきたうさぎは両手に剣を持ち、二足歩行している。


「可愛いぞー。ゴツイ見た目の割に中身は乙女なビリっちー」


「いや、んなこと言われても困るんだよなぁ」


 ビリックはため息交じりに返事をしている。


「それはどういう魔法なんだ?」


 うさぎに近づきながら私は聞いた。


「特に変わったことはねぇかな、見たまんま、歩くウサギだぜ。普通に戦闘を任せることもできるし、偵察とかにも使える」


 説明を聞きながらうさぎに触ってみる。

 もふもふとした手触り、くりくりとした瞳。


「私も触ってみたいですっ」


 ミーティスが突進してきたので場所を譲る。


「耐久性はどうなんだ?」


 これだけ実物に近いのだし、軽く攻撃されただけなら消えることはないだろう。


「あー、その辺は出てきた個体によって変わるんだよな。そいつだと何発か魔法を打ち込まれても耐えられるな」


 ミーティスがわしゃわしゃとうさぎを撫でている。うさぎは若干鬱陶しそうにしているが、大人しく撫でられている。


「んで、俺の魔法なんだが、簡単に言うと心に干渉する魔法だ。ウサギ出すやつは俺の心に働きかけてる」


「他者の心に働きかけるとどうなるんだ?」


 他者の心の風景を映し出すとか?


「感情を上書きしたり、価値観を変えたりできるな」


「………なんだそれ?」


 チートじゃん。


『俺のものは俺のもの、お前のものは俺のものがまかり通っちゃうね』


「いや、自分の心に干渉するならともかく、人の心の方はあんまり上手くいかねぇよ。ちょっと集中乱したりするくらいだな」


「それでも十分強力だと思うが」


 戦闘中に集中を乱されるのは普通に問題だし、魔法を唱えているときにそんなことをされれば魔力の流れが乱れて自爆しかねない。


「まー、ボチボチだよ。ボチボチ」


 ビリックは謙遜するように首を横に振った。



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