彼女たちの存在を察知する能力に目覚めた
僕は、児童相談所によって保護された。
「名前は?」
と尋ねられ、ケイと答えようとして、あ、それは元の世界の名前か、この世界での僕の名前は何というんだろ?聞いてなかった…(おっさんやおばさんは、僕のことをくそガキと呼んでたから)。
「わかりません」
というと、相談員は驚いていた。とんでもない虐待を受けたと感じたらしい。
そして、その虐待をしていた夫婦の名前も、もと居た家の住所も、僕はまるで聞いてなかったので、児童相談所は対応に困っていた。
んなわけで、僕はとりあえず無戸籍の孤児として養護施設に送られた。
「きみの名前をどうしようか?」
という施設長に、僕は
「ケイという名前がいい」
と希望し、施設長はそうだな、それでいいと答え、僕の戸籍が作られた。
施設では、さっそく僕への教育が始まった。学校に行っていないという情報だったので、最初は幼稚園児に教えるような内容のテキストだった。
もちろん、僕は前世の16歳の記憶をばっちり持っていたので、テキストはどんどんクリヤしていき、あっという間に高校入試問題をすらすらと解ける学力レベルになった。
「天才だッ!」
施設長は、うなった。そう、僕は見た目12歳の小学生だったからだ。
こうして3か月を過ぎ、僕は、ある私立中学に特待生待遇で入学し、中学生になった。特待生というのは、入試で断トツのトップ成績だったからである。
教室ではちやほやされ、どうやら、前世並みかもしかするとそれ以上のリア充環境が整った。
転生覚醒の直後はあまりの酷い環境に驚いたが、まあ、結果よしということで。
「よし!これで、女子たちをゲットして、ハーレムを作ろう!」
と僕は意気込み、さっそくクラスでいちばんの美少女にターゲットを絞って、引っかけ大作戦をおっぱじめた。
この世界の僕は、前世の13歳の僕とうり二つである。前世の僕は、イケメンというよりかわいい顔だちのお子様という感じだった。そのため、女子たちの母性愛をくすぐり、僕はとてもモテた。
僕は、その美少女に色目を送ってみた。
すると彼女はぱっと顔を赤らめ、そして僕の顔をめちゃくちゃ見てきた。
『ふん。まだ中1のくせに、なんて色気づいてるんだ?この女子』
と内心思ったが、どうやら引っかけ大作戦は1発で成功したようだ。
と、その時であった。
僕の脳内に、この日本によく似た世界の地図がくっきりと表れ、その所々が赤く輝いて浮かび上がった。その赤い地点は、10か所あった。
「え?え?ええええー???」
僕は、その10か所が何を意味しているのか、瞬時に理解していた。それは、どういう能力ゆえんの理解なのか、自分でも分からない。
「あそこにいるのは、ミヤビか…。ここにいるのは、ハルヨだ…。そこは、フブキ。そっちは、オウミ。こっちのあたりに、トシエ、トモヨ、チエリ。ここには、ユキミがいる。あっちは、ヨシコで。そんでその隣が、ルカナか…」
そう、僕は、前世で僕にくっついていた10人の女子たちが、この世界の各地に転生してきていることを知ったのだった。
これは懐かしい、会いに行こうかな?と思ったその時、僕が察知している情報が最初は存在だけだったのが、急に詳しい情報になって僕の脳内にインプットされてきた。
「え?え?ええええー???」
僕は、またまた驚いた。
驚いた理由は、まず最初に増量された彼女たちの情報が、年齢だったことだ。
彼女たちの年齢が様々なことに、驚いた。
「え?ミヤビは90歳!?ハルヨが80歳で、フブキが70歳、オウミは60歳、トシエは50歳、トモヨは40歳、チエリは30歳、ユキミは20歳…。ヨシコは15歳で…。えええー?ルカナは、赤ちゃん???」
僕はいろいろ考えたが、おそらくだが向こうで死んだ後、こちらに転生するときにタイムラグが生じた。ミヤビは90年前に、つまりミヤビだけが早く転生したわけだ。僕はいま13歳だから、ミヤビ転生の77年後にこちらに転生したことになる…。
それと、転生直後に前世の記憶が覚醒するのでなくて、僕もそうだが、ある日突然覚醒した。彼女たちの中には、まだ前世の記憶が覚醒していない女子もいるんだろうか?
僕は、いろいろなことを考えていて、お昼を食べるのをすっかり忘れてしまった。
5限目の始まり、僕は先生の許可を取って、教室内でお昼を食べた。特待生ゆえに甘々な待遇である。先ほど引っかけた美少女のカナミが、食べきれずに余っていたパンを分けてくれた。
「ケイくん♡はい、アーン」
とカナミがそのパンをちぎっては僕の口の中に放り込んでくるんで、クラス中の男女生徒と先生がおかしな表情になっていた。
僕は食べながら、脳内に次々に増量されていく前世の彼女10人の情報に、あるいは青ざめ、あるいは感心したりしていた。
が、パンを食べ終わる頃、僕は
「ミヤビーっ!!!!!」
と大きな声で絶叫し、飛び上がるように立った。
先生とクラスが驚いて、騒然。
カナミは、誰、その女子の名前は?みたいな怖い表情になっていた。
僕は周囲の奇異な目にハッと気づき、イスに座った。
しかし、僕の足は激しく貧乏ゆすりをしていた。
『ミヤビが、死にそうだ!ミヤビが、死にそうだ!』
このときには、僕が察知している彼女たちの情報は、詳細を極めていた。
80歳のハルヨは、介護サービス付きの施設暮らしで、ただ認知症気味である。
70歳のフブキは、脳梗塞で倒れ病院に運ばれたが命はとりとめ、今のところ心配ない。
60歳のオウミに、初孫が生まれその子を抱いて微笑んでいる。
50歳のトシエは、30年連れ添った夫と離婚調停中。
40歳のトモヨは、独身だ。
30歳のチエリは、新婚3年目で、毎日夫婦げんかが絶えない。
20歳のユキミは、彼氏からの暴力が酷くて悩んでる。
15歳のヨシコは…わ?男子たちに囲まれて、服を脱がされてる???
赤ちゃんのルカナは、ほぎゃほぎゃ泣いて、おしっこをオムツに放出してる…。
ヨシコが心配になったが、それ以上に驚いたのはミヤビの情報だ。
『危篤!!!』
ミヤビは90歳、最近発病し、病院に入っているが、いよいよ病状が深刻で、今日明日も知れない命だった。
かわいいヨシコであるが、命までは取られないだろうと思いつつ、僕は、ミヤビのところに駆けつける決意を固めていた。記憶が戻っているかどうか分からないが、ぜひとも会いたい。なにせ、ミヤビは前世で僕の本妻的な立場にあった女子。心から愛していて、生涯の伴侶に決めていた女子。
それにもしミヤビに記憶が戻っていたなら、僕に会いたいだろうし…。
5限終了のチャイムが鳴り、僕は先生に申し出た。
「祖母が危篤なので、早退します」
そして僕は、学校を飛び出した。
場所は、分かっている。その学校の最寄り駅から電車で1時間くらいのところにある、病院。
その3階の病室に、ミヤビはいる。
僕の目には、まるで透視している映像のような具体的なようすまで見えていた。ミヤビのベッドの周りには、誰もいない。
ただミヤビの顔や身体はぼやっとして、よく見えなかった。
駅で切符を買うその手が激しく震える。間に合うか?間に合ってくれ!