チョロチョロのチョロですか?
「は〜、お父様。ケーキほんとに美味しかったですわね。」
「ニコラちゃん、ケーキ食べに行ったの4日前なんだけど。いつまで引きずってるの?」
「引きずってるのではありませんわ。帰りに寄りましょうというご提案です。こんな遠いところ、もう二度とこないでしょうし。」
そう、早いもので、今日は例の王子様の婚約者結果発表の当日でございます。
王都はほんとに何でもあって楽しかった。
正直、王子様のことは忘れていたと言っても過言ではない。
「でも殿下と結構話したんでしょ〜?いい感じだったんじゃないの?」
「いやいやいやいや。いやいやいやいやお父様。」
「めっちゃ否定するじゃん……」
「結婚する予定の男女が話す話はしておりませんし、何より、私の日常話淑女編をちょっと盛って話したくらいなので、素がバレたら終わります。グリードナー家が。」
「……たしかに、妃教育で粗相をしでかすニコラちゃんしか思い浮かばないね〜」
お父様の方でも、王家の方々と面接みたいなことをしてたみたいなのだが、割と自由に育てたので貴族教育がつたないからうちの娘は無理ですよって断っておいてくれたみたいだけど。
それに、もしあんな会話で選ばれたら、王子様チョッロいやつになるぞ。私はおもしれぇ女枠か??
そんなんで王子様の心をゲットできるなら、最近領地の町で人気の、王都ではもう半額になってた小説【庶民ですが愛されてます】の主人公みたいになれるかも?
あ、【庶民ですが愛されてます】は、庶民の女の子がいろんな権力者の男性と出会い、愛し愛されるストーリーの女性に大ウケした小説。
王子様に、宰相の息子に、大商人の跡取り、大神官に、勇者に選ばれた幼馴染、あと魔王から言い寄られる女の子。最後は魔王と添い遂げる意外な結末だった。
この結末に納得できないファンが書き始めた別の男と添い遂げるバージョンの空想小説と言うものが存在する。空想小説は急速に広がり、【庶民ですが愛されてます】の作者も公認したことから、今ではかなりの数の空想小説が出回っているので、いろんな結末が読める。
そして完全にフィクションだからまぁ、主人公は嘘みたいにモテモテな女の子なのだが、王子様との出会いでそっけない態度をとる女の子が『おもしれぇ女』と言われて王子の恋が始まる。
ちなみに、宰相の息子は『こんな気持ちになったのあなたが初めてだ』。大商人の跡取りは『君の瞳は今まで見てきたどの宝石よりも綺麗だ』。大神官は『神よりもあなたを信じたい』。勇者に選ばれた幼馴染は『俺はお前と幸せになるために世界を救いたい』。魔王は『私とともに堕ちよう』。
空想小説では、王子と恋する女の子を、『おもしれぇ女枠』。宰相の息子と恋する女の子を、『初めての女枠』。大商人の跡取りと恋する女の子を、『瞳が宝石枠』。大神官と恋する女の子が、『神に勝った女枠』、勇者に選ばれた幼馴染と恋する女の子が、『世界の存在意義枠』。魔王と恋する女の子は、『公式』と呼ばれるか、『闇堕ち枠』と言われている。
小説の話が長くなったが、この小説は主人公がアホみたいにモテていて、さらに男どもがアホみたいにチョロいのが特徴だ。
なんなら、領地の悪ガキたちには酷評された。こんな女やこんな男がいるもんかと。フィクションだから夢があるのにね。
まあ、とどのつまり、そんな小説のチョロ男と、本物の王子を比べちゃいけねぇって話ですよ。
あとは現実的に、私が妃教育ついていける気がしない。下手したら国母でしょ?
無理無理無理。普通に無理。
あとついでに、そろそろ猫かぶりも無理。
王都じゃどこで誰に見られてるか分からないし、万が一グリードナー家の娘は頭がおかしいと噂になったらお父様がお仕事しにくくなっちゃうからという理由で猫かぶり続けてるのだが、そろそろ淑女が剥がれる。いや、剥がしたい。ベッドに寝そべりながらクッキーとか食べたい。スカートをたくし上げて走りたい。
そんなこと考えながら、宿の部屋でぼーっとしてたら、お父様が手紙を持ってきた。
「ニコラちゃーん、結果届いたから一緒に見よ!」
「はいはーい。先にあけても良かったのに。」
「ニコラちゃん!?猫!猫!」
あ、猫剥がしたいって思ってたからつい素で話しちゃったわ。
「……お父様だって素じゃないですか。」
「僕はいいの!娘に甘々で通ってるから!」
事実を『通ってる』って言うのか?
まあ、いいや。
「わかりましたよ……。それで結果は?今回はご縁がなかったということでって書いてあります?」
「今開けるね〜。………………………。」
「お父様?」
手紙を開けて読みはじめたお父様がニコニコ顔のまま固まっている。
正直嫌な予感がするが、結果を見ないことにはなにも始まらない。
「………………、おっと、燭台の火が飛んできた!」
「燃やそうとしないで!?」
お父様が必死に手紙を守る。
私は燭台を持ったまま舌打ちした。
「もう少しだったのに……。」
「何証拠隠滅しようとしてるの!?どうしたって現実は変わらないからね!?」
「そんな残酷なこと言わなくても……。あー、人生詰んだ。」
手紙にはっきりきっかり書いてあった。
祝!私がなんと婚約者に選ばれました!
何がめでたいんじゃこら。
にしても、私はおもしれぇ女枠で王子はチョロ男だったか〜……。
現実仕事しろー?
「断れませんよね?」
「無理だね〜。パパの権力もないし、理由もないね〜。」
「…………あいたたた!!!心臓が痛いわ!これはもう胸の病ね!?心臓が弱いやつは王子の婚約者なんかになれないわよね!?」
「病弱設定は無理だって。ケーキあんなに食べてたの絶対バレてるし、病人にしては元気が良すぎるよ〜。」
「4つしか食べてないっての!!!」
てかなんでバレてんの?監視されてんの?
えーん怖いよう。
とか泣いてる場合じゃねぇよどうしよう…
ない胸に当てていた手を頭に持っていき、そのまま頭を抱えた。知恵熱が出そうである。
気が向いたら続きます。