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07 これはひとつの伝えることのない告白

挿絵(By みてみん)


 あー……もー。


 薄れいく意識の中で、おれは(ののし)る。

 誰に? そうだな、多分、自分に。

 

 こんなところを部長に見られたらどんだけ怒られるか。最悪研修のやり直しかも。それこそ冗談じゃないし。本気でゴメンだし。

 まあ、そうね。

 ……なんて悠長なこと、思っている状況じゃなさそうか。

 

 ありったけの力でおれは耳に装着した携帯電話に触れる。

 せめて彼女に連絡しなくちゃ。あれやらこれやらそれやらを。迷惑かけちゃうよね。だけど頼れるのは彼女しか思いつかなくて。


 だってさ、と笑みが浮かぶ。

 彼女なら、おれがどんなに厄介なことを頼んだとしても。

 そうだよ、「めんどくさいでしょ」とプリプリしながらも、いつだってちゃんとやり遂げてくれるから。

 だからおれは彼女のことが。


 そうか。……この気持ちもまだ伝えていなかったなあ。

 残念だなあ。


 でもさ。


 胸がぽかぽかあたたかくなる。


 彼女がいたから。

 彼女に会えたから。

 だからおれはがんばれた。

 

 彼女のために、生きていたくて。

 彼女のためだけに、生きていきたいくらいで。


 だから──。

 こんなことはなんでもなくて。

 つらいとか。

 苦しいとか。

 やってられねえとか。

 冗談じゃねえよとか

 

 そりゃ吠えたいけど。

 

 そんな弱音をはいている場合じゃないし。

 ぜんぜん問題ないし。

 むしろ楽勝だし。


 ──死にかけてるのなんて、そんなのも気のせいで。


 力が入らないとか。

 目がかすむとか。

 そんなのも気のせいで。

 ただの気のゆるみで──


 ……だから……。



**



 彼の頬を叩く。肩をゆする。

 けれど、彼は目をとじたまま。

 背中が粟立つ。呼吸があらくなる。

 それを抑えて、彼の胸元に耳を当てた。


 ゆっくりだけれど聞こえる心拍。

 それから──伝わるあたたかい彼の体温。


 ──大丈夫。生きている。


 泣きたいのを必死でこらえる。


「……まったく。無茶ばっかりするんだから」


 彼の頬に流れる血を指先でぬぐって、額の傷を診ようとしたときだ。声をかけられた。


「おねえちゃん、おにいちゃん大丈夫?」


 女の子が立っていた。6歳くらいの女の子。

 顔も服もススだらけで、身体を震わせて目には大粒の涙を浮かべていた。

 

 目をしばたたく。

 女の子? ……こんな森林火災の真っ只中に? どうして子どもが?

 眉をしかめた。


 だから?

 ……だから彼は。


 大きく息を吸う。


 ああもうっ。

 ……くわしいことはわかんない。だけど、どうして彼が倒れているのか、わかった気がした。

 わかっちゃった気がしちゃったじゃないの。


 ああもうっ、どうしてくれんのよっ。



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