04 そうだ、アップルパイのことを考えよう(後編)
「ホールのアップルパイがいいな。ごろごろ切ったリンゴがたっぷり入っているやつ」
切り分けたらリンゴが転がり出ちゃって。
その上にバニラアイスをトッピングしたりして。
バニラビーンズがたっぷりきいたアイス。
それが彼女の指先に垂れて。彼女がぺろっとなめて。
彼女が長い髪を揺らして、おいしいね、っ目尻をさげて。
頬が緩みかけたとき、アラームが鳴った。
運転席ではなく、耳に装着した携帯電話だ。その緊急連絡機能。
「今度はなんだよ」
携帯電話を操作しつつ身を乗り出して運転席のモニターにアクセスして、息をのむ。
「このあたりの気温が急上昇? そりゃ燃えているわけだから気温もあがるだろうけど、そういうことじゃなくて?」
猛烈に嫌な予感がした。
これってさ。
──森林火災だけじゃ終わらないってこと?
次に起きるのは……。
背中があわ立つ。
……どれくらいで起きる? 息が荒くなる。
そうだ、彼女にも知らせなくちゃ。
危ないから気をつけろって。十分に備えてって。
夢中で携帯電話をタップする。
そのときだ。
爆発音がした。
周囲の樹木の枝が熱で破裂したのか?
とっさにSUV車の脇で身をかがめたところで、金属音がした。
「な、え? ひょっとして火炎放射器男?」
そう思った直後にススだらけで横にも縦にも大柄な中年男が突進して来るのが見えた。
手には予想どおり火炎放射器だ。
「さっきの男の仲間?」
荷室に視線を向ける。つるんで森を燃やしていたのか?
腹立たしさがこみあげる。なんだってとか、お前らはとか、罵る言葉が脳裏をめぐる。それを必死で胸におさめる。
とにかくこいつも捕獲しなくては。
表情を消してライフルサイズの麻酔銃を男に構えた。
いまさら制止の言葉をかける必要もないだろう。
男は十分すぎるほど興奮した面持ちでおれへ火炎放射器を向けている。どうやってもおれの言葉は届きそうもない。
引き金を引こうとしたそのときだ。
男の前を小さい生き物が飛び出した。
「なっ」
肩の長さの髪を振り乱し、必死な様子で男を守るようにおれへ両手を広げた──6歳くらいの女の子だった。
その女の子に男の火炎放射器の炎が迫って。
「あぶないっ」
おれは麻酔銃を放り投げると女の子へと走った。
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