11 彼が笑ってくれればそれで十分で(後編)
どこもかしこも燃えていて道なんてもうない。
黒焦げになった地面を踊るようにハンドルを切って進む。
火のついた枝が窓を叩きつける。
雨ではなくススを払うためにワイパーがフル稼働だ。
空は火の粉で真っ赤で、巨大な隕石でも落ちてきたかと思うくらい。
ひっくり返るんじゃないかってくらい、車がバウンドした。
よくパンクしなかったわねってくらいの木々を踏みつけた。
枝が熱で爆ぜる音、葉が燃え上がる音、枝がこすれる窓の音。
これが、彼が教えてくれた事態。
森林火災に加えて、ススの嵐。
数百度にもなる熱風とススのかたまりが町をすっぽりおおったりしたら。
それが? ……世界各地で起きている?
ああもうっ。
なんとかしたいとか。
どうにもならないとか。
怖いとか。いまさらとか。やってられないとか。
……胸が震える。
そんな考えてもどうしようもないことばかりが頭にうかぶ。
それでも。
視線だけを動かす。彼を見る。
彼がいるから。
だからがんばりたい。
先のことなんてわからない。
わかんなくていい。
いまできること、すべきこと、それだけで、いい。
彼が笑ってくれたら。
彼が話しかけてくれたら。
わたしに──呼びかけてくれたら。
それだけで十分で。
だから。
わたしはアクセルを踏み続ける。
**
どれくらい走り続けただろう。
空がふわっと明るくなった。
風向きが変わった? 一時的であれススの嵐を振り切れた?
いまのうちに、と森から抜けて彼があらかじめモニターにセットしておいてくれた町を目指す。
そのショッピングセンター。
ひと気のない駐車場にSUV車を停める。
ふう、と大きく息をつく。
それで?
「これからどうすればいいのかな?」
あなたはどうするつもりだったの?
苦笑して、目を閉じたままの彼に顔を向ける。
そうね。
……彼のことだから、大事にはしたくないわよね。
わたしとしては、できれば警察に捕獲した火炎放射器男女を受け渡したいところだけど。こっちの身分証明とか捕獲経緯とかなんとか面倒だし。
それに──この子の父親だって混じっているし。
おねえちゃん、と女の子がきっぱりとした声を出す。
「ありがとう。……バイバイ」
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