表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

10 彼が笑ってくれればそれで十分で(前編)

挿絵(By みてみん)


 おとうさん。

 いつもはすごく優しいの。

 本をたくさん読んでくれるし。

 髪だって優しくとかしてくれる。

 おとうさんの作るホットケーキはふわふわだし。

 シロップだってたっぷりかけてくれる。

 

 ……だけど。おかあさん、帰ってこなくて。

 お仕事も。

 

 おとうさん、なにも悪くないのに。

 悪く、なかったのに。

 ……なのに。

 

 揺れる車内で女の子が懸命な声で訴えた。

 

 なにが、悪かったのかな。

 

 どうすればよかったのかな。


 あたしが、悪いのかな。


 ……あたし、どうすればいいのかな。


「お父さん、好き?」

「……うん」


 そっか、とつぶやく。

 

 あなたは悪くないよ、なんて無責任なこと、いえない。

 がんばれなんて、もっといえない。

 この子と父親のふたりの暮らしはまだまだ続く。その場しのぎの言葉なんてかけられない。


 ──彼だったらなんていうかしら。

 わたしは前を見たまま口を開く。


「あのね──。つらかったら、お父さんに悪いとか思わないで、ちゃんと誰かに頼るのよ」


 女の子の顔が険しくなる。だって、と口を開きそう。

 その前にわたしは続ける。


「それがお父さんのためでもあるって、わたしは思うから」

「おとうさんの?」


 わたしはうなずく。

 娘が我慢していたら、これ以上がんばれないくらい追い詰められていても、父親はもっともっとがんばらなくてはいけなくなる。

 たぶん、それくらいは子ども思いの父親だったみたいだし。


「──おにいちゃんみたいに?」

「え」

「おにいちゃん、すごく強かった。だけど、おとうさんが」


 女の子はつらそうに唇をかむ。


「だからおにいちゃんは、おねえちゃんを呼んだんでしょう? 大好きなおねえちゃんなら、きっとなんとかしてくれるからって」

「大好きかどうかはわかんないけどね」


 苦笑すると女の子が身を乗り出した。


「大好きだよ」

「そうかなあ」

「そうじゃなければ頼めないよ」


 女の子はさらに言葉を強める。


「こわくて、頼めない」


 叫ぶような声。返事ができない。

 ……泣きそうになる。

 会ったばかりの女の子が、こんなふうにいってくれることに。

 それから。

 たった6歳くらいで、どんな人に頼めばいいのか、わかることに。


 アラームの音が強くなる。

 火災竜巻が接近していた。火の粉も接近しているのか、燃えている木々の合間から見える空が真っ黒だ。

 しかもあれ、彼によるとただ黒いだけじゃなくて、ものすごい熱風をはらんでいるらしくて。

 あんなのに襲われたらさすがに──。

 

「バウンドする。しっかり歯を食いしばっていて。舌をかむわよ」


 いい捨ててアクセルをさらに踏んだ。

 一番近い市街地。そこをまっしぐらに目指す。



**



広告の下の☆☆☆☆☆ボタンから応援をお待ちしています☆彡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ