ワンダーランド お開き
「どっせえええええい!」
メキャァ
リリスの豪快に振り下ろされたメイスが動きを封じられた人形をひき潰す。
「ふー、これで終わり?ですかね」
「いや、それはない。ダンジョンってのは主が俺たちを出してくれるか、主を殺すしか脱出方法はないからな。」
「ふふふ、その通りじゃ。もう少しだけ楽しませてもらうぞ」
また、あの声だ。恐らく彼女がこのダンジョンの主なんだろう。
「さて、やはり雑兵には荷が重かったか。ならばこやつ等はどうかな?」
ダンジョンの主(?)の言葉と共に巨大なトランプが現れた。J、Q、Kの札だ。
「へぇ、さっき迄の奴らとは違うようだな」
トランプは一瞬光輝き、中から豪奢な恰好をした人型の奴らが姿を現した。顔の部分にはそれぞれJ、Q、Kのアルファベットが入った仮面を被っている。Jは大振りのナイフ、Qは柄の両端から刃が生えた両剣を、そしてKは身の丈程もある両刃の大剣を装備している。
最初に動いたのはJだった。
「!速い」
咄嗟に魔眼を発動させてギリギリで躱しながらポケットに手を突っ込む。
「そっちが速いならこちらも加速するまでだ!」
先日手に入れたウェアウルフの牙を握り締める。
「俊敏なりし狼よ,駆けろ」
詠唱が終わると共に俺の身体を灰色の光が覆った。
「行くぞ!身体装甲!」
刻印魔法で硬化させた右腕でJに殴りかかる!うわ、俺はっや。
ガキィ!!
俺の右腕とJのナイフが交差する。
「せえい!」
強引にナイフを弾き飛ばし足払いをかけて組み伏せる。
「——!」
「死ね!」
偶然近くに落ちてきたJのナイフを拾い上げて馬乗りになった状態で心臓部に突き立てる。
まぁ、こいつ等に心臓が有るのか知らないけど。
「ラクス!危ない!!」
「ん?ってうぉ!?」
いきなり背後からQの刃が迫ってきた!直ぐにJの胸からナイフを引き抜き、受け止めながら飛びさする。が、そこには大剣を振りかぶったKが。
うは、俺死んだか?
ガギィ!!
「すまん、助かった!」
すんでのところでリリスが受け止めていた。
「くぅうう、重い・・・・・」
体制を整えた俺は助走をつけてKの脇腹に飛び膝蹴りをぶちかます。身体強化された膝蹴りはノーガードだったこともあり、かなりのダメージになったようだ。
「てぇい!」
ドゴン!
隙だらけのKにリリスがメイスを振り下ろした。Kも撃破。残りはQだけだ。刃の片方をナイフで受け止めもう片方をリリスが受け止める。
「終わりだ!燃え尽きろ!」
ポケットから赤い薔薇を取り出し簡易詠唱で魔術を完成させる。俺の左手からは紅蓮の焔が生み出され、至近距離からQを焼き尽くしていった。
「ふむ、お見事」
何所からともなくパチパチパチと拍手の音がした。
「漸くのお出ましか」
いつの間にか、俺たちの眼前に怪しげな雰囲気を放つ赤い瞳の少女が立っていた。
人型・・・・?人語を話す魔物は稀に存在するが、姿まで模してくる奴はそういない。一体何者だろうか。
「貴方がここの主ですか?」
「いかにも。私がこのワンダーランドの主であるアリスだ」
リリスの問いに対し、少女——アリスは鷹揚に頷いた。
「お前を殺せばここから帰れるってことでいいのか?」
「む?まぁそうだがお主らには無理であろう。心配せずとも出してやるぞ。元々私は俗世と関わる気は無いしの、今回はただの気まぐれだ」
アリスが手を翳すと、じわじわと石灰色の煙が集まりだし、扉の形を創り出した。
「そこから元の場所に帰れる。今日の余興はなかなかに楽しめた。これは褒美だ、受け取るがいい」
アリスはこちらに何かを放った。
「これは、鍵?」
リリスの手には二つの古ぼけた鍵が収まっていた。
「ここに繋がる鍵だ。気が向いたら手を貸してやらんでもないぞ」
「ふーん、せんきゅ」
ダンジョンから出ると、辺りは既に夕闇に包まれていた。
「一時はどうなる事かと思いましたが、無事戻ってこれて良かった。それにしてもアリスさん、でしたっけ、何者なんでしょう」
「さぁね、ただその鍵は大事に持っていた方が良さそうだ。リスクは有るがいざという時の保険にはなりそうだ」
「?私にはただの女の子にしか見えませんでしたが」
「だろうな、俺も魔眼を発動するまで気づかなかった。あの子、俺の魔眼には何も映らなかったんだ。少なくとも俺が今まで出会った魔物の中では一線を画す実力だろうよ」
「・・・・不思議な子でしたねえ。取りあえず今日はもう遅いですし帰りましょうか」
「そうだな、報告は今度でいいか」
俺たちは薄暗い森を抜けて帰路についた。