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俺たちの仕事

薄暗い廃墟で、二人の男と見上げるような体躯を誇る二足歩行の獣が対峙している。

俺の名はラクス、もう一人はレイス。お互い初対面で、偶然同じ依頼を受けたので共闘しているに過ぎない。俺たちは異形に堕ちた魔法使いを屠る為、魔術を行使する術を身に付けた魔術師だ。対峙する獣の名はウェアウルフ。高い筋力に鋭いかぎ爪、更に凄まじい敏捷性を併せ持つ強力な魔獣だ。恐らく元となった魔法使いの力量も凄まじい物だったのだろう。

魔法使いから変異した異形の化け物たちは、当然生前の特徴を色濃く受け継ぐ。

低い獣の唸り声と魔術の炎が爆ぜる音が交錯する。

「グガアアア!!」

先に動いたのはウェアウルフだった。凄まじい敏捷性にものを言わせ、ダークグレーの軌跡を残しながら一直線に向かってくる。とは言えこちらも黙ってそれを眺めている訳ではない。手の内に握りこんでいた深紅の薔薇を握りつぶしながら詠唱し魔術を紡ぐ。触媒や詠唱無しでも魔術は行使出来るが、威力や精度は格段に落ちる。なので基本的に魔術師は触媒を常にいくつか持ち歩いている。

「炎棘よ!焦がし穿て!!」

詠唱は簡略化したがそれでも拳大の燃え盛る七つの棘が出現し、ウェアウルフを迎え撃つ。

「!グ、ギャオォアアア」

頭部に二つと腹部に三つ、更に両膝にそれぞれ突き刺さり爆発する。突進の勢いは減衰したが、しかしそれでも致命傷には程遠い。とはいえ流石に怯んだらしくレイスの魔術が完成するには十分だった。レイスは白蛇の抜け殻を踏み砕きながら叫ぶ。

「凍てつく蛇よ!這いずり喰らえ!!!」

レイスの足元から真っ白な氷の蛇が出現し、襲い掛かる。ウェアウルフもこれはまずいと思ったのか素早く跳躍し避ける。が、

「まだだ!蛇ってのは執念深いんだよ!」

そう言ってレイスが左腕を振り上げると、地を這っていた蛇は突如鎌首をもたげ上空のウェアウルフに喰らい付く。

「止めは任せた!」

「おう!」

このチャンスを逃す訳にはいかない。空中でバランスを崩したウェアウルフに向かって跳び、空中に足場を作って更に跳躍。そして同時に懐からナイフを取り出し自らの左腕に切りつけ、流れ出た自ら血液を触媒として魔術を発動させる。

「斬り裂け!妖刀血煙!!」

鮮血でできた紅の刃がウェアウルフの首筋を貫き、そのまま切り飛ばす。どちゃりと湿った音を立てて生首が転がる。元々人間だったとはいえ、殺したことに対して罪悪感などありはしない。もう、慣れた。

「っふう、討伐完了だ。お疲れ様」

「おう、お疲れ。素晴らしい魔術だったよ。この先殺し合いにならない様祈ってるぜ。それじゃ」 

「じゃあな、できれば次も味方として会おう」

お互い背を向けて手を振りながら各々帰路に就いた。恐らく彼ともう会うことはないだろう。魔術師とはそんなものだ。久々の強敵で疲れた。早く帰ろう。




俺が拠点としている町、グロスリーバに辿り着くころにはとっぷりと日は暮れ、辺りは猥雑な喧噪に包まれていた。賑やかな繁華街を横切り裏通りを抜け、俺はとある胡散臭い店を訪れた。

「いらっしゃい。おお、ラクスか。あのいぬっころは始末できたかの?」

店内には怪しげな商品が所狭しと陳列しており、奥にはこれまた怪しげな老婆が一人佇んでいる。ここは魔術師の組織である魔術連盟が経営する店で、俺たちは此処で依頼を受けたり報酬を受け取ったりする。あと触媒やら魔道具やらを販売していたりする。

「ああ、これが証拠品の牙だ。鑑定よろしく」

俺がウェアウルフの牙をカウンターに乗せると、早速老婆は複雑な魔方陣が映し出されるモノクルを片手に鑑定を始めた。あのモノクルは魔道具で、なんか色々分かるらしい。詳しいことは俺も知らないし興味もない。

「ふむ、確かにウェアウルフを討伐して来たようだね。はいこれ報酬」

「ああ、確かに受け取った。また来る」

俺は報酬を受け取って店を後にした。さて、飯でも食うか。裏通りを抜け、再び繁華街に戻り、近くの酒場に入る。

「うわ、アイツ魔術師じゃねえか。ったく人殺しは店に来るなよ・・・・・」

「シッ!聞こえたらどうするんだよ!?消し炭にされるぞ!!」

聞こえてるよ。魔術師が殺す異形たちも元は人間で、彼らにも愛し愛される相手がいたはずだ。それを無慈悲に殺害していく魔術師は当然、普通の人々からは嫌悪される。全く、魔術師がいなければその愛し愛される相手にぶち殺されていたかもしれないってのに。まぁとはいえ、異形と生前関りがあった親や子供、恋人を平気で囮として利用した挙句諸共ぶち殺したり、俺は気にしてないがさっきの奴みたいに癇に障る事を言った者を実際に消し炭にしてみせたりと、魔術師側も結構屑なのでどっちもどっちである。俺はため息をつきながら注文した料理を平らげ、自宅に戻った。



俺の家は町の外れにある小高い丘の上にあり、元は知り合いが住んでいた一軒家を格安で譲り受け、自宅兼工房として活用している。この家は元々4人家族がゆったりと暮らせる様な設計になっていて、工房や書斎等を作っては見たが、やはり自分独りで住むには広すぎる。

さて、まだ寝るには早いし、今日手に入れたウェアウルフの牙を触媒に加工しようかな。

触媒には二種類あり、一つ目は今日使っていたような使い捨ての簡易型。そしてもう一つは魔力のチャージは必要だが、壊れるまで半永久的に使える永続型の二種類がある。簡易型は安価だが決まった魔術しか発動することができない。しかしこの永続型は自分で魔術を作成することができ、材料によって向き不向きはあるが、大体なんでも作れるのだ。しかしこの永続型の触媒に利用できる材料にはいくつか条件があり、その一つが元々魔力を帯びている物ということだ。ピンキリではあるが魔力を帯びた物は基本的に高価でそれ故永続型の触媒は高値で取引される。さて、このウェアウルフの牙はどうしようか。触媒は以前の形状の特性を色濃く反映させる。これの場合は俊敏性か、となると無難に身体能力向上系が妥当だろう。触媒の作り方は至って簡単。作成したい魔術を込めた魔方陣の上に材料を置き、魔力を込めるだけである。魔方陣自体は既に作成済みの物がいくつかある為それを使う。工房の台の上に魔方陣を敷き、その上にウェアウルフの牙を慎重に設置する。そして牙に手を翳して魔力を祖注ぎ込む。

「・・・・・・・・・、出来た」

触媒は無事、完成した。試運転も済ませておきたいが今日はもう遅い。明日でも良いだろう。俺は完成した触媒を倉庫にしまい、寝室にて眠りに着いた。





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