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企業  作者: 珈琲フロート
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訓練

04訓練


1.地域紛争

 訓練校の所在地はウズベキスタンだ。今のところ、ここが戦禍にさらされることはない。しかし、隣国クルグズとタジキスタン、それにカザフスタンの一部は空爆されている。

 もっとも、Uyg紛争の主戦場は天山山脈南側の麓だ。中央アジア諸国には地上軍の介入はなく、敵味方ともにお互いの補給路を空爆しているのだ。

 当社の役割も、敵の補給路を攻撃すること及び後方かく乱だ。


 当社が参加している中央アジア連合軍は自由Uyg独立戦線を支援している。自由Uyg独立戦線とUyg人民政府及び西Chi共和国とは三つ巴の戦いを繰り広げていた。

 自由Uyg独立戦線は西側諸国が支援しているゲリラ組織だ。

 Uyg人民政府は赤いUygとも呼ばれている。これはロシアなどが支援する共産系の勢力で、既に独立宣言をしている。しかし、西側諸国はこれを承認していない。

 西Chi人民共和国は共産党支配ながら資本主義的な経済体制をとる国だ。この国はUygの領有権を主張して、地上軍を投入していた。

 Uyg紛争は、この三者の地上軍が激しい戦いを繰り広げているのだ。

 当社の受け持ちは、主に西Chi人民共和国の補給路だ。具体的な攻撃目標は、橋や道路、鉄道路線、補給基地などだ。現在のところ、工場などの後方施設を空爆する戦略爆撃を行う予定はない。

 なお、赤いUygの補給路が我が社の基地から遠いことから、こちらを攻撃する機会は少ないはずだ。しかし、各勢力の支配地域は入り組んでおり流動的なので、味方のドローンが相手方航空戦力と出くわしての空中戦や地上部隊からの対空砲火の洗礼はありそうだ。


2.訓練校の教官

 訓練校には校長・教頭・主任教官・教官・実習補助教員などの教員を置いた。一般教養の教官は普通の高校教師と変わりはない。だが、軍事関係の科目を担当する教官は軍人や傭兵出身者だ。特に実践科目の教官は、航空部隊の指揮官を兼任している。


 因みに、校長は航空司令官として中佐、教頭は対地攻撃部隊長で少佐とした。実践科目の主任教官は中隊長で大尉、教官は小隊長の少尉を兼任している。対地攻撃部隊のドローンは訓練生たちが操縦するが、教官たちが各隊長として命令を下すのだ。


 なお当社にはこの他に、空戦用ドローンの中隊がある。これは対地攻撃部隊の護衛と施設の防空を担当している。このドローンの操縦は教官や実習補助教員が行う。この場合は一人の職員が3機のドローンを同時に操る。

 もしも訓練生の中に、空戦に適した才能を持つ者がいれば、いずれ育成するつもりだ。


 そのほか訓練校の職員には、事務員や用務員、警備員、操縦装置の整備を担当する整備員などがいる。




3.訓練生の一日

 本格的に訓練が始まった。当初3か月間のカリキュラムは、軍事教練としてドローン操作の実習と座学を主体にしている。だが、語学と一般教養それに体育も併せて実施する。なお、クラブ活動も許可した。


 訓練生は朝起きると、丘の上の寮から麓のフードコートへ行き朝食を取る。それから登校するのだ。そして又、昼と夕方にフードコートで食事をしてから寮に戻るのだ。

 授業終了後早い者は4時頃から、あるいは部活をする者は遅いと7時過ぎに食事にやって来る。皆楽しそうに会話をしながら食事を取る姿を見ると、私も何かの役に立っていると思えて嬉しくなった。


(クルグズの教育制度)

 訓練生の大まかな民族構成は7割がクルグズ人、2割が地元のウズベク人(ともにテュルク系)、残りはタジク人(東イラン系)とウイグル人(テュルク系)などで、カザフ系も数人いる。


 クルグズでは小学校は7歳から4年間で、中高校が7年間(~11年生)だ。しかし、クルグズの義務教育は前期中等教育の9年生までだ。

 後期中等教育の10年生、11年生が日本の高校にあたるが、戦乱の影響で難民キャンプの子達は、これを受けていない。それで高校に該当する一般教養なども訓練校のカリキュラムに入れた。

 このことは好意だけでやっているのではない。やはり優秀な兵士を育てるためには一般教養も不可欠なのだ。



4.実践日

 1か月も経つと、皆ドローンの操作が上手くなっていた。訓練生は、週に5日間の訓練及び授業を受ける。その内の1日は、終日実習のみを行う実践日としている。実戦日と言い換えても良い。


 いよいよ実践日に実戦を経験してもらうことになった。訓練生は1クラス36人で4クラス編成だが、火曜日から金曜日まで、それぞれクラスごとに実践日が割り振られている。1クラスずつ実戦を経験するのだ。テレビゲームをするように、人殺しをするのだ。



 本部の建物のひとつがドローンを操縦するための施設になっている。部屋は体育館の様に広い。操縦席は1機ごとにボックス化されている。予備を含めて60以上のボックスが並んでいた。

 勿論、ドローンは目標地点まで自動航行できるし、1台の操縦装置で複数のドローンを操作して攻撃することもできる。しかし、攻撃の精度を追求すると、やはり1人で1機のドローンを操縦した方が確実なのだ。


 この方式で部隊のドローン定数48機全てが参加できるように、余裕をもって設備を整備している。全機を投入する作戦命令が、いつ発令されてもおかしくはないのだから。


 それに、某機関から提供された資金は潤沢だった。操縦装置などはそれほど高くない。

 この地で数百人を雇用したが先進国とは違い、ここでは人件費が安い。一般的に賃金は日本の十分の一だ。

 訓練生は、ここの一般的な賃金相場よりもかなり高額で雇用した。支援部隊の隊員は、さらにその数倍の金額だが、それでも先進国出身の傭兵の賃金よりもかなり安い。


 それで、訓練生は定員の2倍の人数を採用した。3か月間訓練したのちに操縦の上手い者を選抜することにしたのだ。また、途中で辞めていく者も出るだろう。しかし歩留まりはどの位なのか、やってみないと分からなかった。

 1か月経過する間にも、やはり馴染めない訓練生が十数人リタイヤした。

 できれば頑張って一人でも多く残ってほしいものだと思った。しかし、3か月後には定員からはみ出す人数は解雇しなくてはならない。

 クビにせずに、何か受け皿があればよいのだが現実は厳しい。資金に余裕があるとはいえ、やはり余剰人員を抱える訳にはいかないのだ。せめて他の部署で使える子は残そうと思った。


5.初陣

 今日から4日間、訓練生A~D組の初陣をモニターすることにした。

 今回参加できるのは、各組とも模擬戦の上位24人だけだ。

 既に各組から4~6人程度の欠員が出ている。今は一組30人前後の人数だが、それでも下位6~8人程は実戦に参加できない。


 ひとつの組を2チームに分けて、それぞれ午前または午後に出撃させた。


 A組の実践日に室内を巡回していると。午前中に出撃する第一チームに、アルマグルさんがいた。彼女と目が合ったので「おはよう。頑張ってね」と言った。

 すると周囲の女子が「キャー」と黄色い歓声を上げた。

 「中学生か」と言ったが、通じない。

 アルマグルさんは、少し上気した顔で「おはようございます」と答えた。

 浮かれていないように周囲の女子に注意しようと思ったが、現地語が話せないのであきらめた。通訳も近くにいなかった。


 訓練生が座る操縦席には、ドローンに設置されたカメラ映像やレーダー表示盤、速度計・高度計・燃料メーターなど多数の計器が並んでいる。これらを見ながら機体の操縦と爆撃を試みるのだ。


 本日の実戦は、指定された目標物を爆撃することだ。ドローンには250キロ爆弾2発が搭載されている。

使用する爆弾は誘導可能だ。この爆弾は付属する羽を自律的に動かして風の影響を無効化する。利用している衛星の位置情報に基づき、落下位置を外さない。誘導して落下地点を微調整することもできる。命中精度は高い。

 今回は建物や橋・道路などの固定目標で、敵の対空砲がない無防備な施設を攻撃する。

 初陣の目標としては、こんなところだろう。次回はロケット弾による攻撃を試みる。その次には防空戦力のある施設への爆撃と、難易度を次第に上げていく。


 私は2階の別室で、実戦訓練の様子を見学した。アルマグルさんはこの日、A組2位の成績を残した。1位は午後出撃した第2チームのアイヌーラと言う20歳の人だった。これまでの模擬戦の成績も、この人が全体の1位なのだ。


 A~D組全ての初陣が済んだ。初回としては予想以上の出来だ。先ずは順調な滑り出しと言える。これから経験を積んでいけば、優秀な部隊になり得る。かなり有望だ。

 個人別のランキングでは、アルマグルさんが全体の6位に入っていた。何故か私まで、うれしく感じた。


                                     了


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