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企業  作者: 珈琲フロート
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会社の組織

02会社の組織




1.本部


 幾つかの難民キャンプを回り、必要な人員を採用して本部に戻ると、中野とテミルベックの二人が待っていた。


 中野も人集めに奔走していた。彼はこの国の政府・関係機関や業者を相手にして、条件に合う人材をまとめて提供してもらうように交渉していた。主に、機械の整備士・車の運転手・作業員それに傭兵などを確保していた。


 中野徹という名だが勿論、本名ではない。間もなく30歳になると聞いたが、かなり若そうに見えた。少し神経質そうで整った顔立ちだ。頭が切れそうだ。実は中野は、私のスポンサーである某機関から派遣された職員だ。私のお目付け役でもある。


 私の軍事会社は実質的に彼が立ち上げたと言ってよい。この会社の事業が軌道に乗ったら、彼は別の任務のために姿を消すそうだ。だが時々、様子を見に来ると言っていた。


 もう一人の人物、テミルベックはクルグズ国軍元中尉の退役将校で、中東で外人部隊傭兵の経験がある。日本にも数年間在住していたので日本語が話せる。中野が最初に連れてきた現地人で、年齢は40代後半だ。


 彼は当社の支援部隊長として少佐の階級章を付けている。因みに中野は副司令官で大佐、私は司令官で准将の階級章を付けている。勿論、この階級章は全て当社が勝手に発行したものだ。


 なお、支援部隊(大隊)は、守備中隊、機動中隊、整備補給中隊の3個中隊で編成されている。


 中野は「こちらの部隊は人数が揃いましたので、研修を始めました」「各隊の幹部が教官になり、整備員や作業員などを訓練しています」「傭兵は、そのまま直ぐに使えます」と報告した。


 私は「ご苦労様でした」「私の方も、ようやく人数を確保しました」と応じた。その詳細は既に文書で彼に伝えてある。


 中野は「お疲れさまです。それでは、守備中隊幹部との打ち合わせを行いますので、会議室までお願いします」と言って席を立った。




2.守備中隊


 会議室には通訳と三人の傭兵が待っていた。中隊長と二人の小隊長で、階級は大尉と少尉だ。私たちが室内に入ると、三人共起立して大きな声で何か言った。そして敬礼した。


 守備中隊は警備、防空、護衛の3個小隊72人の編成だ。


 当社には、主要な施設として本部基地と航空基地及び前進基地の三つの基地がある。


 本部基地はウズベキスタン(国)のアンディジャン(都市)の近くにあり、紛争地域から離れている。周辺に難民キャンプや国連機関の出張所が点在する地域だ。ここが敵に爆撃される可能性はない。


 その東にある航空基地はクルグズ(国)のグルチャにあり、山脈に阻まれて敵に爆撃される危険性は少ない。敵味方共に紛争地域を限定していることも理由として上げられる。


 前進基地は南のサルイ・タシ周辺にあり、ここは敵の爆撃圏内に入っている。



 これら施設を警備するのが警備小隊だが、隊員は50代の年配者ばかりだった。中隊長がこの小隊を直接指揮する。防空小隊は、自走式短距離ミサイル発射機と自走対空砲を保有し、前進基地の防空を担う。また護衛小隊は、移動・展開中の他部隊を護衛するための部隊で、前進基地に配備している。この小隊には若い傭兵もいた。



 守備中隊の将校達は皆、中央アジア出身の中年男性で屈強な印象を受ける。私の目から見れば、彼らは実年齢よりも老けて見えた。

 いずれも傭兵としての実戦経験を積んだベテランで、十分に頼れる存在だ。直ぐに任務に就いてもらうことにした。


 しかし、当社では彼らが主力となって戦う訳ではない。あくまで、警備や護衛がその任務なのだ。



 その後、大会議室に移って守備中隊全員との顔合わせが行われた。通訳が私のことを「風間健さん」と紹介したが無論、本名ではない。 




3.ドローン


 翌日も、支援部隊の幹部達との会議が続いた。


 ここで、当社の業務について説明しておこう。当社は敵地上部隊や地上施設に対して、ドローンを用いて攻撃することを主な業務とする軍事企業だ。


 軍事用のドローンは半自律型の無人誘導兵器だ。人が乗れるほどの大きさで、ジェットエンジンが付いている。このドローンは主に地上施設攻撃用で、爆弾やロケット弾または機銃を搭載する。


 しかし、ドローンに爆弾を搭載すると増槽(外部燃料タンク)の積載個数が減るため航続距離が短くなる。


 これらは航空基地に配備しているが、基地の位置は敵の空爆圏外にあるのだ。実際の最前線より、かなり後方に基地があるため、出撃するドローンの航続距離が不足することが予想された。


 敵地の奥深くへ長距離攻撃を仕掛ける場合は、空中給油で対応するのだが、これは滞空時間の制約やコストと技術的な問題がある。特に我が社の役割は、主に敵前線施設への空爆なのだ。そのため通常行われる前線への攻撃には、支援部隊を出来るだけ前方に進出させて、帰還途中のドローンに補給などの支援を行う必要が出てくる。また、損傷機などは不時着することが多いので、機体を回収する部隊が必要になる。


 それで、ドローンの補給と応急修理や回収及び運搬を担当する部隊として、機動中隊を設置した。この部隊は、無人機の遠隔操作を保持するための電子戦にも一役買うことになる。


 機動中隊の幹部とは午前中に打ち合わせをした。この中隊は4個小隊48人の編成で前進基地に配置している。ただし、基地よりも更に前線に近い場所に、大型車両を伴う部隊が待機可能な隠れ家的な施設を幾つか保有している。場合によっては、そちらに配備されることもある。



 当社の基本戦術としては、機動中隊が航空燃料を積んだタンク車やドローン運搬用トレーラー(空車)を伴い前進基地を出発する。そして、約100㎞先の最前線付近まで進出する。次に電子戦対策を行う。

 そして航空基地から発進したドローンが目的を遂げて帰還する際に、燃料不足となった場合には近くで待機している機動中隊周辺に着陸する。ドローンは燃料の補給を受けてから再び発進して航空基地に帰還する。

 機動中隊は直ぐに移動して、予想される敵の反撃に対して回避行動をとる。また、不時着したドローンを捜索して回収するのだ。



 午後からは、整備補給中隊の幹部と会議を行った。この中隊は2個小隊42人で、航空基地に配置している。航空基地には倉庫や燃料タンクなど補給用設備のほかに、ドローンや車両の整備工場が設置されている。整備小隊は、整備士や技術者の集団だ。主にドローンと車両の修理と整備を担当している。そのほか、武器の補修なども行う。




4.訓練生


 ようやく、多忙な一日が終わった。今日は早めに休もう。そうだ、いよいよ明日は戦闘隊の女性隊員たちが本部基地にやって来るのだ。


 彼女らが戦闘用ドローンを遠隔操作して実際に戦うのだ。航空基地から出撃したドローンを、主に某国の衛星通信を利用して後方の本部基地で操るのだ。無論、敵の通信妨害があるが、これは対策済みだ。


 本部基地の操縦装置にかじりつく彼女たちの姿が想像できる。一人ずつボックス席に入って、テレビゲームをするように戦争をするのだ。


 本部基地に配置される戦闘隊は4個中隊編成の大隊だ。この部隊が一度に運用できるドローンの最大数は48機になる。


 各中隊で誘導するドローンは12機だが、操縦士の人員は余裕をもって18人を配置する。大隊全体の合計は定数48機で定員72人になる。


 私が難民キャンプを回り採用した女性達は144人だが、これらは戦闘隊の隊員候補なのだ。彼女らに、訓練を受けさせてドローンの遠隔操作を覚えさせる。一通り操作を覚えたら、直ぐに出撃して実戦で腕を磨いてもらうことになるだろう。そして、3か月後には定員の72人を選任するのだ。半数が脱落することになる。彼女たちは簡単な適性検査を受けて採用されたが、訓練が始まれば直ぐに相当数がキャンプに帰っていくことだろう。


 本部基地施設内に訓練校を設置した。ここで訓練してもらう。皆、15~19歳の若い女性たちだ。華やかになることだろう。


 以前、この地にも外国企業が進出して経済発展していた時期があった。その当時、ここに進出していた日系企業の施設を本部基地として再利用することにした。


 従業員研修施設は当社の訓練校として使用することにした。そのほか、食堂や宿泊施設が付随している。新たに数棟の宿舎を建設したので訓練生全員の寮も完備した。


 この戦闘部隊は当分の間、教官たちが指揮を執ることになる。やがて、この子たちが腕を上げれば…


睡魔が襲ってきた。



                     了

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