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94鱗目:三日目!龍娘!

 いよいよ文化祭も最終日となる三日目、案の定昨日のようにまともに働かせて貰えず、かといって今日の客層的に外回りに出す訳にも行かないので、僕は料理班に居た。

 その為、お客さんと会うことも無く平和に終わると思っていたのだが……


 「接客がなってない、担当呼べって!」


 「今日は天霧さん接客の担当じゃないから無視!」


 「ねぇ天霧さん、またお客さんー。太ってるよー」


 太ってる奴は今日来る予定のお客さんに居ない!


 「追っ払っといて!」


 「了解!」


 「ここに龍の娘が居ると聞いた────」


 「「「「立ち入り禁止です!」」」」


 「「「「出てってくださいっ!」」」」


 「ぬぅおおおぉぉお?!」


 ある時は理由を託けたり、またある時は知り合いを装って直接やって来たり、そしてある時は最早家庭科室へと突撃をかけてくる者まで居た。

 しかしずっとそんな状況が続くと流石に料理にも支障が出てくるもので……


 「このままじゃ料理もまともに作れないから、ごめんね?」


 「うんん気にしないで」


 家庭科室を追い出されてしまったのであった。

 とはいえ追い出されるとどうなるのかと言うと分かりきっていて……


「いやー綺麗な翼だ、うちではアクセサリーを────」


「うちでは色々な物を扱っていてね、角が生えてるんだろう?是非とも見せて────」


「噂には聞いていたが本当に可愛らしい美人だ、今度是非ともうちの雑誌に────」


「あはははは……」


 三日目のお客さんである企業のお偉い方々に捕まってしまったのであった。


「あれで何人目やっけ?」


「17人目ね」


「うわっひゃあ……流石すずやんや、まだ教室でて30分も経ってないのに…………でも尻尾も振ってるし、まだそこまで機嫌は悪くないんかな?」


「そうなのかしら……確かに顔はいつも通りニコニコしとるけど…………」


「それは違うよ」


 「「あ、千紗さん」」


「よく見て二人共、鈴ちゃんの尻尾の振り方、横とか縦じゃなくて先っぽで円を描くみたいにくるくる回してるでしょ?」


「あ、確かに」


「あれってね、鈴ちゃんがすっごいストレス感じてる時にやっちゃう癖なのよ」


「へーそうだったんやね……ってそれなら!」


「そういうこと!ということで二人共、鈴ちゃん助けるよ!」


 「「は、はい!」」


 ーーーーーーーーーーーー


「気づいてたならもっと早く助けてよ……」


「ごめんなさい。流石に連続で続いてると割り込む隙がなくって」


「後でクレープ奢るから許してやすずやん、な?」


 周りからみても明らかに疲れているのがわかる程ぐでっと翼と尻尾を垂らしながら、僕は謝る2人を前にしてぶすっと頬を膨らませていた。


「それはそうと、なんで当然の如くちー姉ちゃんいるの?今日は確か一般参加お断りのはずだけど」


 居て当たり前って言うくらい自然に居たから最初違和感無かったよ。


「それはだな鈴香、今日天霧は日医会として来てるからだ」


「今の声って!」


「よう!元気にしてたか鈴香」


「三浦先生に柊さん!それに叶田さんに陣内さん、柏山さんまで!お久しぶりですー!」


「おぉ……一気に上機嫌…………」


「やね……」


 僕は突然現れた久しく会ってなかった日医会の皆を見て、嬉しさに尻尾をブンブンと振って皆の元へと駆け寄る。


「いやー、まさか日医会がこの学校と関係あるって思ってなかったですよー」


「そりゃあ鈴香が入学したから関係持った様なもんだしな」


 なるほどね。というか……なんだかさっきから皆の目がキラキラしてるような……


「姫ちゃん!その衣装かわいいね!」


「やっぱそうっスよね!いやー!もふもふな尻尾!すっげぇかわいいっス!」


「それにその被り物も、とってもかわいいな」


「もー、恥ずかしいからやめてよ皆ー」


「皆も言ってるが、すっごく似合ってるぞ鈴香。その狼女の────」


「狼男」


「……狼女の────」


「狼男」


「…………狼男の衣装」


「でしょー?僕もそこそこ気に入ってるんだ〜♪もふもふだし」


 僕は三浦先生が間違いを訂正したのをちゃんと聞くと、にっと笑顔を浮かべてからそう言ってくるりと回る。

 そんな僕の今日の衣装は皆の言った通り、茶色の毛並みの尻尾に狼のフードを被ったちょっと着ぐるみみたいな狼女、もとい狼男の衣装だ。

 ちなみに翼は意図的に垂らす事でマントみたいにしている。


「ふふふっ、もう姫ちゃんもすっかり女の子だねぇ」


「そんな事ないもーん……ってあれ?」


 叶田さんの指に何か……


「指輪?」


「あぁこれね、いつか姫ちゃんにも報告しなきゃって思ってたんだよ」


「?」


 叶田さんは少し恥ずかしそうにはにかみつつ、首を傾げていた僕の頭を撫でると、グイッと柏山さんの腕を引っ張って────


「実はね、ウチ柏山くんと結婚するんだー!」


 「「「えぇぇぇー?!」」」


 にっと笑いながら、そう言って2人は左手薬指にはめた指輪をキラリと輝かせ、僕やとらちゃん、さーちゃんの方へと見せてくる。


「えっ!えっ!すごい!えっ!」


 結婚?!結婚ってあれだよね!?だいすきーって2人がもっとすきーってなってずっと一緒に居たいからなるやつだよね!?うわーっ!うわぁーっ!


「おめでとうございます!」


「おめでとうございます!結婚いいなぁー!」


「ありがとね二人共、それに実はもうお腹に赤ちゃんも居てねー」


 はわわわわ!赤ちゃんまで!まさか2人がそこまで仲良しさんだとは…………


「えと!えっと!二人共本当におめでとー!」


「ありがとう姫ちゃん!ううん、鈴香ちゃん!」


「姫ちゃんのおかげで叶田さんと仲良くなれたんっスよ、本当に、本当に鈴香ちゃんありがとうな!」


 ぎゅーっと叶田さんと抱き合いながら、突然の吉報に感極まった僕は混乱しながらも、めいいっぱい心の底から2人にお祝いの言葉をかけるのだった。

 しかし、その時間もそう長くは続かず……


 「いた!天霧さん!」


 「ふぇ?」


 不穏な呼びかけがかかったのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーー


「いやだ!」


「そこをなんとか!」


「お願い天霧さん!」


「やだったらやだっ!」


 体育館裏の一角、賑やかな体育館とはうってかわり静かなその場所に、何かを断る可愛らしい高い声が響く。


「クレープ買ってくるから!」


「うっ……」


「天霧さんと仲良くしてた人達も喜んでくれると思うよ?」


「うぅぅ……それでもやだっ!」


 そう言って僕は、目の前で手を合わせてお願いしてくる開催委員の人からぷいっと顔を逸らす。

 一体僕が何をここまで嫌がり、お願いを拒否しているのか、それは数分前に遡る。


 ーーーーーーーーーーーー


「ミスコンに出てくれだってぇー!?」


 二人のおめでたい報告を聞いた後、何故だかとても焦った様子の先輩に体育館裏に連れられたかと思うと、いきなりそんなお願いをされていた。


「お願い天霧さん!もうプログラムにも組み込んじゃってるの!」


「いっ……」


 いやいやいやいやいやいやいやいや!

 ミスコンに?僕が?!なんの冗談だ!?

 と、とりあえず落ち着け……相手側にも何か理由があるはずだ。


「えーっと……とりあえず説明して貰えますか?」


「はい……」


 どうしてそうなったのか僕が先輩に尋ねると、先輩はしゅんとしながら説明してくれた。

 まず事の発端は特別ゲストでミスコンに出る予定だった前年度のミスコン優勝者の先輩が来れなくなり、その先輩の穴埋めとして僕が採用されたという。

 しかしながら当事者の許可なく出てもらうのはやはりダメであり、勿論僕の許可を取ろうとクラスの男子達に大丈夫かどうか聞いておくように頼んでおいた所…………


「その男子達が僕に聞かずにOKをだしてそのまま受理されたと……」


 恨むぞ男子ィ〜……後で思いっきりデコピンしてやる…………


「本当にごめんなさい!ちゃんと後で確認を取るべきだったのに取らなくて!」


「まぁ仕方ないですよ、バタバタして忙しかったでしょうし……」


「なら!」


 それに先輩達には悪気無さそうだしね、でもまぁ……


「ヤ・ダ♪」


 ーーーーーーーーーーーー


 そうして今に至るのである。


「天霧さんどうしても?」


「どうしても」


「そこをなんとか!」


「だーめ」


 だっていくらそっちにも事情があるとはいえ、こっちは勝手に選ばれた挙句許可も取ってもらってないもの。


「うぅぅぅ〜……どうしよう〜」


 あっ、泣きそうな顔に……いやいや、ダメだぞ僕。お涙頂戴は定番の戦法じゃないか。


「あらこんな所で何をやってるの?それにその人達は?」


「あ、さーちゃん」


 僕を探してくれていたのかひょこっと現れたさーちゃんを見て、やっと開放されると思った僕はぱぁっと顔を明るくしてどういう状況かを説明する。

 するとさーちゃんはにこっと笑い──────


「せっかくだし出てみたらどう?」


「えっ?」


 僕にそう言ったのだった。


「たまにはこういう女の子じゃないと楽しめないようなイベントもいいんじゃない?それに鈴なら人前も一応大丈夫だし、そういった意味ではある意味先輩達が鈴を選んだのは正解だったかもね」


「え、いや、えと」


「それにこれに出るのは立派な人助けになるし、鈴も断る理由はないんじゃない?」


「うぐっ……!」


 さーちゃんが敵に着くなんて……なにか、なにかここを切り抜ける手は…………そうだっ!


「で、でも!ミスコンって綺麗な女の人が出るやつでしょ?その、僕が出るようなものじゃないと思うんだけど…………さーちゃん?」


 僕の発言の後なんだか雰囲気が一気に静かになった気がして目を開けると、そこには明らかに不機嫌になった様子のさーちゃんが居た。


「え、えーっと……さーちゃん?」


「鈴は全女性に喧嘩を売ってるのかしらー?女の人なら誰もが羨ましがるくらい可愛い顔をしてるのに?」


「ち、違う!そうじゃない!」


 えーっと何か……何か言い訳を……


 「そう!僕が出るようなジャンルじゃないって話!」


「ジャンル?」


「そう!ジャンル!自分で言うのもあれだけど、さーちゃんが言ってたみたいに僕って綺麗、美人っていうよりも可愛いとかそういう感じでしょ?

 だから美人さんとかが出るものには合わないんじゃないかなぁーって」


「…………なるほどねぇ」


 よかった……なんとかさーちゃん怒らせないで済んだ…………


「それなら余計出ても大丈夫ね、だって皆が求めてるのは綺麗じゃなくて可愛いだもの」


 えっ。


 早口で言い訳し、なんとかなったと心の中でふぅと一息ついていた僕は、悪い笑みを浮かべるさーちゃんにそう言われカチンと固まる。


「え、えと、それってどういう…………」


「あら知らないの?えーっとそこの貴女、チラシ持ってるわよね?」


「あ、はい。これですが……」


 チラシ?


「ありがとう。ほら鈴、ちょっとここ読んでみなさい」


 下の方?えーっとなになに……


「我こそはというかわいい女子生徒募集、そのかわいさで男子を魅了しろぉ?!」


 それって……それって…………


「思いっきり墓穴を掘ったってことになるじゃんかぁ!」


「あはははははは……まぁ、そうなりますね。あ、勿論綺麗な人も大歓迎ですよ!」


「んー、アタシは申し訳ないけど遠慮願うわ。さて、それじゃあかわいいかわいい鈴ちゃん、観念して行きましょうね?」


「いやだぁぁぁぁぁぁ!」


 まるで断末魔の様な叫び声を上げながら、僕はそういうさーちゃんに連れられミスコンの控え室へと連れていかれたのだった。



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