92鱗目:2日目!龍娘!
僕の通っている高校で行われる文化祭は三日に渡り開催される。
そしてその開催日中、学生の為の初日以外では学校に多彩なお客様が招かれる。そして今日、その二日目で招かれるお客様というと……
「ありがとうございましたー!」
よしっ、これであと少しすれば一旦休憩に入れる!
「席が開きましたので、次でお待ちのお客様中へ」
んー!回転率が凄まじい!さて次のお客さんは──────
「鈴ちゃ〜ん♪」
「……あ!ちー姉ちゃん!」
僕よりも幾分か背の高いその見慣れた姿を見た僕が歓喜に満ちた声を上げると、その人はこちらに駆け寄って僕をむぎゅうと抱きしめる。
「いらっしゃいちー姉ちゃん!今日は楽しんで行ってね!」
「もちろんだよ!たーっくさん楽しませて貰うからね!」
そう、二日目のお客様は生徒達の関係者、つまり生徒達の家族なのである。
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「ふぅ、美味しかったし皆可愛かった〜」
「それは良かった!というか、来たんなら呼んでよちー姉ちゃん、そしたら校門まで迎えに行ったのに」
せっかく来てくれるんだからそれくらいは…………ん?
「仕事ほっぽり出してまで来そうだからやめといたんだよ。さてそれはそうと…………鈴ちゃん?どうかしたの?」
「んーん、なんでもないよ。それで?」
「えっとね、今日お姉ちゃんねー─────」
何かを感じて窓から見える山の方へ視線をやっていた僕は、気の所為だろうと顔をちー姉ちゃんの方に戻し、楽しそうに喋るちー姉ちゃんの話を聞く。
「─────に行きたいなーって」
「勿論だよちー姉ちゃん!回れるだけ回ろっ!」
「いいの?でも鈴ちゃんも持ち場とかあるんじゃ……」
「いいよいいよ!」
だって───────
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「千紗さんと一緒に歩き回りたい?」
「うん…………ダメ?」
「別にいいわよ」
「え?!いいの!?」
絶対ダメだと思ってたのに!
文化祭初日の片付けの最中、手を合わせきゅっと目を閉じてさーちゃんにお願いしていた僕は、あっさりとOKをもらい拍子抜けする。
「で、でもお客さんの目的って僕でしょ?やっぱりいた方が……」
「最初はそれが目的だったんだけどね。正直鈴の集客力が凄すぎて他のクラスからクレームが来るレベルだったのよ」
「あー……」
それはもう……申し訳ない。
「というわけで明日明後日は余計に人が来るし、鈴は前半の3分の2くらい働いてくれれば充分だから」
「はーい」
休みが貰えるのは嬉しいけど、それはそれでちょっと不服ー。
「それに、鈴が歩いてるだけで宣伝にもなるしね」
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「こういうことがあったから」
「あはははは……まぁ確かに、人凄いもんねぇ」
「ねー、もう慣れたけど相変わらず皆見てくるよ」
「それは鈴ちゃんの仮装も関係あるんじゃないかなぁ」
「う、うるさいなぁ……僕だって好きで着てる訳じゃないんだから」
というかこういうのはまずもっとスタイルのいい人が……そう、今僕の横にいるちー姉ちゃんとかがする格好だよ。
僕はむすぅっと頬を膨らますと、丁度自分が映っている廊下の鏡へと目をやる。
そこには真っ赤な生地に金で龍の刺繍が入った服を身にまとい、おでこにはそれらしい札を貼り付けた翼と尻尾のあるチャイナ服のキョンシーが居た。
「でもすっごい似合ってるよー!うん、かわいいかわいい!」
「素直に嬉しくなーい、というかほら!時間なくなっちゃうよ!早くお店回らないと!」
「そうだねぇ……それじゃあおすすめのお店に道案内お願い出来るかな?鈴ちゃん」
「任せてちー姉ちゃん!でも僕のオススメかぁ……それなら予定変わるけどさ、ちょっと寄り道してクラスの出し物の方を見に行かない?」
「別にいいけど……どうして?」
「せっかくなら色々楽しんでほしいし、それに僕はともかくちー姉ちゃんはまだどんな出し物があるか知らないでしょ?」
「あらあら、別に気にしなくてもいいのに。でも鈴ちゃんがそう言うなら先にそっちに行っちゃおうか」
何となく今学年の出し物の方に行くと例の金髪さんとかち合う気がした僕は、そう言ってちー姉ちゃんと一緒に学年棟へと向かい始める。
「前に一回来たけど、やっぱり鈴ちゃんをこの学校に入れてよかったわ」
「そう?」
「えぇ、だって沢山仲のいい人出来てるみたいじゃない」
「そうかなぁ〜」
そんな事言われると何だか照れくさいよ〜。
「いやいや、そうじゃなきゃ屋台の前を通る度に商品貰えたりお菓子貰えたりしないでしょ。まぁそれを一瞬で食べる鈴ちゃんも鈴ちゃんだけど」
「だって美味しいんだもーん」
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「ちー姉ちゃんちー姉ちゃん!」
「はいはい、なーに鈴ちゃん」
「あっちの肉巻きおにぎりっていうの美味しいんだよ!ちょっと寄り道していかない?」
「あらそうなの?せっかくだし食べていこうかな」
「うんうん、そうしよそうしよ!」
そう言って僕がお店に向かおうとすると、こっちに気がついたのか肉巻きおにぎりの屋台の人がちょいちょいと手招きして僕を呼んでくる。
「鈴ちゃん呼ばれてるよ?」
「だねぇ、どうかしたのー?」
「いや今日も食べに来てくれたのかなと思って。出来たて、取っておいたよ!」
「わっ!ありがとー!それじゃあ肉巻きおにぎり2つお願いね!」
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「いやーよかったねちー姉ちゃん。綺麗なお姉さんだってさ!」
ちなみにとらちゃんもそう言ってた!
「もー、恥ずかしいから言わないでよー。あ、鈴ちゃん」
「ん?なーに?」
「あれ行ってみない?マジックショー!」
「あー……」
マジックショーかぁ……あれなぁー……
「どうしたの?嫌だった?」
「いや、そうじゃないんだけど、僕自身が大きいのと、油断して尻尾揺らしちゃうと人とか物に当てちゃうから……」
「あー……確かにね、鈴ちゃんはどーしてもスペース取っちゃうからねぇ」
何となく気まずくてちー姉ちゃんから目を逸らしつつそう言う僕に、ちー姉ちゃんは仕方ないといった風に頭をぽんぽんとしてくれる。
「でもあそこに何か書いてあるよ?」
「えーっとなになに……龍娘専用席アリ、気ヲ使ワズニゼヒドウゾ……」
「ふふふっ、見事に見透かされてたね」
「う、うるさいなぁ……それなら第3部の開始時間にもピッタリだし……見ていく?」
耳を赤くして上目遣いにちー姉ちゃんにそう聞くと、ちー姉ちゃんはもう一度僕の頭を撫でてから僕の手を握り、満面の笑みを浮かべるのだった。
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「いやー楽しかったねぇ」
「ねー、思ってたよりもちゃんとしたマジックショーでびっくりしちゃった」
一通りお店を回ってきた僕達はそろそろいい時間という事もあり、ガヤガヤと騒がしい体育館に来て学年の出し物を待っていた。
「えーっと確か、2年生の出し物はクイズ大会だったっけ?」
「そうそう、景品も出るって話だよ。ほら、噂をすればなんとやら、景品が運ばれてきたよ」
僕の視線の先で並べ始められたクイズの景品であろう品々を見ていた僕は、ふと数ある景品の中に紛れる白いもふもふを目にして──────
「にゃんこうだー!ねぇねぇ、ちー姉ちゃん!にゃんこう!にゃんこうあるよ!」
思わず大はしゃぎしてしまった。
「あらほんと、鈴ちゃんあれ欲し…………聞くまでもなかったね」
「ちー姉ちゃん!クイズぜっっっったい正解しようね!」
「ふふふっ、はいはい。これは絶対勝たなくちゃね」
その後、僕は途中で間違えてしまったが、ちー姉ちゃんが勝ってくれたおかげで僕はにゃんこうを手に入れることが出来たのだった。




