91鱗目:料理大会!龍娘!
よし、ちょうど人居ない!
「降りるよ!」
「え、えぇ!」
バサリと大きく翼を広げ、僕は人の大勢いる料理大会の会場横にある選手受付のテント傍へと、さーちゃんをお姫様抱っこしたまま屋上から飛び降りる。
「いーよっと!」
「し、死ぬかと思った……」
「あはは、さーちゃんごめん」
幾ら時間が無いとはいえ、お姫様抱っこしたまま忍者さながらに屋上をぴょんぴょん移動するのは心臓に悪かっただろうなぁ……本当に申し訳ない。
「時間に間に合ったんだから気にしないで、それよりも……」
ん?
「そっちを早く何とかしましょ」
「わぁぁあぁ!ごめんなさいごめんなさい!驚かせちゃってごめんなさいっ!」
髪を整え始めたさーちゃんの指さした方を見た僕は、驚きのあまりでか物凄い形相と物凄い格好で固まってしまった受付の生徒さんを見て必死に謝るのだった。
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「んーしょっ…………と。でも本当にありがとうね鈴、少し、いや結構怖かったけどショートカットしてくれなかったら間違いなく遅れてたわ」
「いいよいいよ、僕も気がついてなかったんだし。なんにせよ間に合ってよかったよ」
あの後気を取り直した受付の生徒さんに連れられ、僕とさーちゃんは選手用の控え室横の更衣室へと通されていた。
「でもまぁ、まさかクラスの代表が僕達とはねぇ」
「少なくともアタシが出る事になったのは鈴が原因なんだけどね」
「む、僕だって好きで出るわけじゃないんだよ。出来れば慎ましやかに騒がれること無く静かに暮らしたいって思ってるんだから」
だからそんな「何を言ってるのこの子は?」みたいな目で僕を見るでないさーちゃん。まぁそれはそれとして……
「このエプロンはもうちょっとどうにかならなかったのかなぁ……すっごいひらひらでピンクでふりふりで…………ピンク……」
エプロンを身につけ据わった目でこちらを見てくるさーちゃんに僕は内心そう言いながら、手元にあるさーちゃんの身に付けている物と同じエプロンを見てそうボヤく。
「そのエプロンのテーマは新婚さんらしいわよ。提供は被服部ですって」
「わぁい、メイド服と合わさってふりふりにばーい、かーわーいーいー」
「台詞の中身と違って声が死んでるわよ」
「頼むから死なせてくれ」
そんな会話をしつつメイド服の上からそのエプロンを僕が身につけた所で、バンっ!と勢いよくドアが開けられ、僕達はそちらを振り向く。
「遅れてきた選手が誰かと思えば、やはり貴女でしたのね!」
「あ、コスプレの人」
「コスプレじゃありませんわ!髪の毛とかは元からですの!も・と・か・ら!」
そういやそうだった。
「ごめんごめん」
僕らと同じエプロンをつけ更衣室へと入ってきた以前会った金髪さんに、軽く謝って居た僕は、ふとそこで以前聞き逃した事を思い出す。
「全く貴女達ときたらこんな大事な催しを忘れて……それに比べてこのワタクシ!受付開始30分前に来てましてよ!そしてこの試合でワタクシは優勝して貴女より優れていると証明しますわ!」
そんなに早く来てじっと待つくらいならその間に他のお店回ればいいのに……じゃなくて。
「そういや前聞きそびれてたけど、君の名前は?」
「あら、そんな事もしりませんの?これだから他人に興味が無い人は…………いいこと?ワタクシの名は──────────」
「あー!こんな所にいた!もうそろそろ時間なのにうろうろしてちゃダメでしょ!3組の2人とも迷惑かけてごめんね、料理大会頑張ろ!」
「ちょっ!まだっ!」
バタン
「……えーっと鈴?あの人は?」
「……コスプレさん?」
「…………料理大会頑張りましょ」
「…………だね」
同じクラスの出場者の子に金髪さんが連れていかれた後、虚しく音を立てて締まったドアを見ながら僕達は微妙な雰囲気の中そう話すのだった。
『みんなー!盛り上がってるかーい!』
「「「「「「「「「「おぉー!」」」」」」」」」」
『文化祭!楽しんでるかーい!?』
「「「「「「「「「「うぉぉぉおおー!」」」」」」」」」」
『さぁいよいよこの時間がやってきた学年出し物!みんな全力で楽しむ用意はいいかい!?』
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉおおお!」」」」」」」」」」
『いいねぇ!それじゃあ1日目!一年生主催料理大会!開幕だ!』
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「す、凄い気迫だね……さーちゃん」
「そうね……本当にそうね……」
ここからでもわかる舞台前の盛り上がりに、そう話す僕とさーちゃんだけでなくステージ袖で控えていた全員は気圧されていた。
『さぁそれではいよいよ選手の入場です!まず最初に我々を楽しませてくれるのはこいつら!学校にも慣れたか?今年はすごい奴もいる、新1年生達だ!』
「「「「「「「「「「うおおぉぉぉおお!」」」」」」」」」」
とうとう来たー!!
い、いや……落ち着け僕、いつも通り、そう落ち着いていつも通りやればなんの問題もないんだから……
「鈴」
「んう?」
「今日の晩御飯は?」
晩御飯?えーっと確か冷蔵庫の中に結構野菜あったからそれ使うとして、隆継が喜ぶようなお肉があるのにするなら……
「ロールキャベツとコンソメベースの野菜スープ、それと白ご飯くらいー……あっ」
そうじゃん、ある食材から作れる物を作ればいいだけじゃん。
「ふふっ、どこでやる事になっても料理はそんなものよ。さ、行きましょ?」
「うん、そうだね。いこっ!さーちゃん!」
さーちゃんに言われ改めてこの試合で僕が何をすればいいのかわかった僕は、そう強く返事を返すとステージへと他の参加者と共に上がるのだった。
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「ま、間に合った……」
なんとか試合開始前に来ることが出来たぞ……
ぜぇはぁと息を切らしながら、屋上を移動して行った鈴香達と違い全力で会場まで走ってきた俺、隆継は後ろの席へとどかりと座る。
鈴香の力なら1人持つのも2人持つのも変わらないだろうから俺も一緒に連れてってくれればよかったのに……
いや、それだけ焦ってたんだ。仕方ないさ。っと話をすればだな。
『さぁさぁさぁ!続々と料理の腕に自信のある挑戦者達が入ってくる中……おぉっとぉ!
入ってきたは彼ら一年生の顔!大きな翼に長く太い尻尾!時折見るほにゃっとした笑顔に何人の男子が魅了されたか!
尻尾と翼を触りたい、可愛いかわいいKAWAIIの満場一致の可愛いで今年度彼女にしたい生徒トップ5にも入った一年三組天霧鈴香選手だ!』
わァァと盛り上がる会場を前に、そんな説明を受けた当の本人であるステージに上がった鈴香は、一瞬ぎょっとした顔になった後耳を真っ赤にして顔をうつ向けていた。
おー恥ずかしがってる恥ずかしがってる、それに今絶対内心「なんだよそのランキング!」って突っ込んでるだろうなぁ。
というか─────────
「いくら推薦されたとは言え、あいつらの料理のレベルだと嗜んでるとか手伝ってる程度のヤツじゃ相手にもならないだろうなぁ」
俺はそう呟くと、これから始まる料理大会の展開を思い浮かべ、1人苦笑いを浮かべつつ他選手に目をやり────────
「それにしても、あの金髪っ子目立つなぁ……なんのキャラだ?」
そう呟いたのだった。
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開会式的なのから数時間後、難無く決勝に進んだ僕達は開始のゴング……ではなくベルを合図に同じく決勝に進んだ各チームと料理を始めていた。
「さーちゃんそっちどう?」
「いい感じに沸騰してきたわ、茹で始めるわよ」
「ん、お願い」
それじゃあその間に僕はデザートの下準備を進めようかな。
トントントンと包丁でリズミカルな音を立てて具材を刻みつつ、開会式で顔を真っ赤にしていたのが嘘のように、僕はいつも通り料理をしていた。
「でもまさか学年戦を勝ち上がれるとは思ってなかったなぁ」
「あら、鈴はアタシと一緒じゃ不安だったのかしら?」
「む、さーちゃんのいじわる。そんなわけないじゃんか」
逆に一緒に来てくれるのがさーちゃんじゃなかったら絶対に出なかったと思うくらいだし。
「でもまぁ当然といえば当然よね」
「どうして?」
「普通アタシ達の歳でレシピとか見らずにここまで作れる子はなかなか居ないって話よ」
「でもさーちゃんできるじゃん?」
「そりゃあ、鈴に料理の腕で負けてるなんて…………女子として悔しいじゃない?」
「ふふふっ、なるほどね。さーちゃんも可愛いところあるじゃん」
「余計なお世話よ」
『1年代表チームの2人、とても仲睦まじくまるで姉妹のように楽しそうに料理をしている!これは目の保養、あっ、いや、料理の方にも期待が積もります!』
「姉妹だってさ、鈴」
「僕がお姉ちゃんかな」
「逆じゃないかしら?」
「ふふふっ」
「えへへっ」
解説さんの台詞を聞きつつ、僕達はクスクスと楽しげに笑いながら料理を続け、そして───────
「いやー、惜しかったな」
「最初はどうでもいいって思ってたのに、今だと負けて割と悔しいと思う自分がいる」
「まぁでも相手は料理部の部長副部長だったらしいし、負けても仕方ないわよ。それにタダ券沢山貰えたじゃない」
「まぁねー」
残念ながら惜しくも2位という結果になった。
「というかさ2人とも」
「ん?なんだ」
「何かしら?」
「あの解説の人?が言ってた彼女にしたい生徒ランキングってなに?いつの間にそんなの開催されてたの?!」
全く知らなかったんだけど!
掴みかかるようにして2人に僕が今1番気になっていた事を問いただすと、2人は露骨に目を逸らしてその内容を話そうとしない。
そんな2人を見て僕はムスッと頬を膨らませると、ぷいっとそっぽを向く。
「むぅー、今日はいじわる多めだ」
「でもこういうことって」
「鈴が嫌がると思って」
「うっ……まぁ、確かにそうだけど……でも───────」
『本日の文化祭終了まであと1時間となりました。生徒の皆さんは二日目に備え、準備や片付けを開始してください』
「もうそんな時間か」
「早いものね。という訳で鈴、この話は一旦ここでおしまい、家に帰ってから話しましょ」
むぅ……色々と不本意だけど、もう時間来ちゃったし…………
「仕方ない、でも帰ったら絶対教えて貰うからね!」
こうして、そんな話をしながら文化祭1日目は幕を閉じたのだった。




