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83鱗目:友人

 あのストーカー事件から1週間が過ぎた。

 幸いにもこの件はメディアに取り上げられることも無く、あの場で何があったかはその場に居た人しか知る事はなかった。

 いや、きっとこれはウチの父ちゃんと三浦さんが手を尽くした結果であり、幸いと言うべきでは無いのかもしれない。


「もう大丈夫なのか?」


「うん、もう大丈夫やで。1週間もお休みを貰ったんや、色々と教えてもらわんとあかんなぁ」


「ははは、頑張れよ虎白」


「勿論や!でもまずはすずやんに謝らんとな」


 あの事件の時、ウチはすずやんに無理矢理ついて行き、そのせいで犯人に捕まり人質となってしまい、最終的にすずやんに助けて貰った。

 だけどあの時、ウチは怯える事しか出来ず、せっかく助けてくれたすずやんにお礼のひとつも言うことは出来なかった。


 命の恩人に失礼なのはわかっとるけど、あの時のすずやんはホンマに恐ろしかったなぁ…………まるでホンモノの化け物みたいな………

 アカンアカン!

 ただでさえ大切な友達で、ウチが自分から巻き込まれたのを助けてくれた命の恩人なのに、そんなバケモノなんて思ったらアカン!


「大丈夫か?やっぱりまだ無理してるんじゃ……」


「そんな事あらへん!ほらりゅーくん、早いところ学校いくで!」


「はいはい」


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「え?すずやんお休み?」


「おう、ちょっと調子が悪いみたいでな。自宅療養中だ」


 学校に着いて仲良くしている子達への挨拶もそこそこに、自分の鞄を教室に置いてウチがすずやんの教室へ行くと、ウチはたかくんからすずやんは休みという事を伝えられる。


「それホンマなんか?」


 あんなに元気だったのに?な〜んか嘘臭いなぁ……


「ホンマも何も、あの事件の後よ?疲れで体を壊しても可笑しくは────────」


「それはホンマ、なんか?」


「…………朱雀峰さん、帰り道時間あるな?」


「ちょっ……!隆継!」


「大丈夫だってサナ、相手は朱雀峰さんなんだ。隠した所でもう気がついてるだろうし、話した方がゴタゴタが少なくて済む」


 流石たかくん、こういう事に関してはさなっちよりも融通が効くなぁ。さて、この様子を見るに…………


「だからって……」


「それに、朱雀峰さんなら今の鈴香をなんとかしてくれるかもしれないだろ?千紗さんでもどうにも出来なかったが、打てる手は打つべきだ」


「そう……ね、そうするしか無いものね。分かったわ」


 やっぱり、すずやんに何かあったんや……それがもしウチのせいなら…………


「とりあえず、丁度人も来だしたところだし、詳しい事は帰り道で話すよ」


「ん、頼むで2人とも。それじゃあまた」


「おう、またな」


 そうしてウチは2人と別れ、自らの教室に戻りいつもの様に仲良くしてる子達と雑談をしたり、授業内容のノートを取ったりしていた。

 しかしそのどれをやっている最中でも、ウチの頭にはいつもすぐニヘラと可愛い笑みを浮かべる甘いお菓子が大好きな、翼と尻尾のある友人の顔が浮かんでいた。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「それで?ここまで来れば話しても大丈夫やないの?」


「周りに人は居ないな…………よし、それじゃあ話すぞ」


「頼むでたかくん」


「おう、サナと龍清は一応人が来ないかだけ見ててくれ」


「分かったわ」「了解」


 帰り道、遠くにすずやんの家が見えてきた所までウチらが歩いて来ると、たかくんはそう言って2人に見張りを頼み、ゆっくりと話し始める。


「さて、先ずどこから話そうか……なんてアニメとかゲームみたいなフリは要らないな。簡潔に今鈴香がどんな状態なのかだけ教えるよ」


「ありがとたかくん、話が早くて助かるわ。それですずやんは今どんな状態なん?ただ体調崩したって訳じゃないんやろ?」


「あぁ、先ず鈴香は別に体調を崩した訳でもないという事は言っておく。だが鈴香はあの事件以来部屋に引きこもって1歩も出てきてない」


「部屋から出てきてないって…………み、水とかは?ご飯とかちゃんと食べてるん?」


 流石に1週間の間1度も飲食しないなんて、いくらなんでも……


「いや、食べてないし、飲んですらいない」


「それってまずいんじゃ……」


「あぁ、だから衰弱しきってると三浦さんも予想していつでも救護に当たれるよう、ここ数日ほぼ寝ることなく待機してるんだよ」


「そんな…………」


 あれ?でも部屋の様子が分かるなら部屋には入れるんよね?


 先程のたかくんの発言と今の発言に矛盾のような物を感じたウチはそう考え、その事をすぐさまたかくんに質問してみる。


「なら部屋に入ったついでに無理矢理食べさせたりとか出来たりするんちゃう?」


「いや、部屋に入れたのは1度きりだ。その後は誰1人として部屋には入れてない、千紗さんすら入る事が出来なかったからな」


「そうやったんか…………」


 せめて、せめてあの時……怯えたままじゃなくて何か一言、すずやんに声をかけれたならこうはならなかったんやろうか…………


「それと……これはあまり聞かせたくはないが…………」


「この際よ、話しておきなさい。その場でショックを受けるよりもいいはずよ」


 まだ何かあるんか……?


「鈴香の部屋の前で耳を澄ましてるとな、時々ごめんなさいって聞こえてくるんだよ」


 悔しそうな顔でたかくんが言った事を聞き、後悔の念に囚われかけていたウチはとんでもない事をしてしまったと最後の一押しをされたかのように、目の前が真っ暗になるような錯覚を見た。

 そして次の瞬間、ウチはガリッと歯が軋むような、なんなら砕けたのではないかという程歯を食いしばり、走り出した。


「虎白?!」


「朱雀峰さん!?」


 行かんと……!今度は…………今度はウチがすずやんを助けないと………っ!


 後ろからウチを呼ぶ声が聞こえる中、その一心を胸にウチはすずやんの家へと全力で走るのだった。

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