80鱗目:9通の文、龍娘
「すっずやーん!一緒に帰ろー!」
「あ、とらちゃん!いいよー!もちろんだよー!」
6限後のSHRが終わり終業のチャイムが鳴る中、ガラリと勢いよく扉を開けてそう言うとらちゃんを見て、僕は尻尾をひゅんと軽く振ってそう返事をする。
「いつも思うけど、朱雀峯さんってここに来る時いつもすげぇハイテンションよねぇ」
「すまんな、うちの朱雀峯が迷惑をかけて」
「虎白ちゃんはアンタのじゃ無いわよ隆継ー」
「そうだぞ隆継ー」
それに雅紀さんとむーさんからとらちゃんを取るのは難易度高そうだ。
「冗談なんだから鈴香まで便乗してくるな。こほん…………とりあえず俺は先に帰るから」
「おーう、また明日」
「たかくんまた明日」
「おう!二人共また明日」
隆継がそう言って先に男友達と帰ったのを見送った僕達は、とらちゃん達と雑談をしながら帰る為に廊下を歩いて行く。
「それでなー、りゅーくん階段で足踏み外して持ってた牛乳のパック握りつぶしてね」
「おおぅ……むーさん大丈夫だった?服とかも」
「うん、ガクッとはなったけどなんとかね。まぁ服はともかく、掃除をすることにはなったけど」
「あはははは……」
それはまぁ災難だったとしか…………
「知り合いにそれで靭帯切った奴いるから本当に気をつけるんだよ?」
「うへぇ、まじか。ありがとう、気をつけるよ天霧さん」
「気をつけておくだけ損は無いし、それがいいわ」
「だな、っと話してたら着いたな。んじゃ俺の靴箱あっちだから」
「ウチもー」
「はーい、2人とも行ってらっしゃーい」
さて、それじゃあ僕も靴履き変えなきゃ。
いやーでも本当、怪我には気をつけないと。怪我しちゃった後、僕みたいに気を失ってる間に翼とか尻尾が生えたりするかもだしね〜って、ん?
「なんだこれ?」
とらちゃんとむーさんが向こうの靴箱へ行った後僕がいつも通り自分の靴箱を開けると、何かひらひらと青いものが落ち、僕はそれを尻尾で取る。
手紙?呼び出しか何かかな?わざわざそんな回りくどい事せずとも、普通に会って要件話せばいいだろうに。
「どうしたの鈴?何かあった?」
「あ、さーちゃん。ちょっと靴箱の中になんか入ってたみたいでさ、多分手紙だとは思うんだけど……」
「えっ?!鈴それって!」
「でもあれだよねー、わざわざ呼び出すなら普通に話しかけてくればいいのにー…………ってさーちゃん?」
なんか気まずそうにしてるけどどうかしたのかな?
「あーうん、そのー、多分、多分だけどね鈴。それってそういう鈴が思ってるのじゃなくて……」
「思ってるのじゃ無くて?」
「えーっと、えーっとね鈴。鈴にはショックかもしれないけどそれは多分ラブ───」
「すずやん達どうしたんー?何かあったんかー?」
「わっ!」
「あ、とらちゃん。ちょっとこんなのが靴箱に入ってて。反射的に尻尾で取ったからクシャッとなったけど」
「ちょっ!鈴まっ────」
「えっ!それってラブレターやないの!?」
ラブレター?ラブレターって確か……好きな人に送るやつだよね?という事はこれを靴箱に入れた人は僕の事が好きな人で…………………僕の事が好きな人?!
ひょこっと横の靴箱の列から顔を出して来たとらちゃんに僕が手紙を見せると、とらちゃんは興奮したようにそう言って来て、それを聞いた僕は驚きで目をぎょっと開く。
「あぁぁ……虎白ちゃん言っちゃった…………」
「えっ、なんか言ったら不味かったん!?」
「いや、まぁちょっとね、鈴にそういうのは……」
「でもラブレターって凄いやん?」
「まぁそれはそうなんだけど…………とりあえず鈴大丈夫?」
ラ、ラブ、ラブレッ!好きっ!?僕を?!だから僕にラブレター!?んな馬鹿な!僕は男だぞ!?
あ、でも性別は女か、なら別にラブレター貰ってもってそんな事は関係なくて!
「ふにゃらっせいっ!」
「「あっ!」」
心配そうにさーちゃんから声をかけられたタイミングで、久しぶりにプチパニックを起こしていた僕は、掛け声と共にラブレターを勢いよく引き裂く。
「さっ!それじゃあ帰ろっか!」
「えっ?でもすずやんラブレターどうす───」
「そうね!途中でどこかお店にも寄りましょうか!」
「いいね!僕ケーキ食べたい!とらちゃんもいこっ!」
「おぉぉ!?わっ!わかったからすずやん全力で引っ張るのはやめてー!」
「ごーごー!」
とらちゃんに有無を言わせぬような勢いで僕は靴を履きながらそう話すと、この話題を終わらせるべくちょっと強引にとらちゃんの手を引っ張って歩いて行くのだった。
ちなみにさーちゃんが言いにくそうにしてたの理由が僕が元男だったからなのは、言うまでもあるまい。
そして後日……
「……………………またか」
「どうした鈴香、石みたいに固まって」
「あーいや、またこれがね」
「またか……いい加減俺が断ってくるぞ?」
僕がそう言ってペラリと靴箱に入っていた便箋、ラブレターを見せると、隆継はため息をつくようにしてから明らかに機嫌を悪くしてそう言ってくる。
「んー……まぁ大丈夫だよ、相手にしても僕の答えは変わらないし、相手にして現状が悪化するかもしれないし」
ちー姉ちゃんの受け売りだけど。
「まぁそうか、とりあえずなんかあったらすぐに言えよ?お前を守るのも俺とサナの役目だからな」
「はははははっ、頼りになるよ」
「絶対そう思ってねぇだろ鈴香、というかそれ何枚目だ?」
「んー」
ひーふーみーよーいつむー…………
「9枚目ー……かな?」
手元にあるその便箋を最初とは違い、慣れたようにスカートのポケットにしまいながら、僕は今まで入れられていたラブレターの数を数える。
「うげっ、そんなになのか……」
「そんなになんだよー、告白とかするなら真正面から言ってくればいいのに。というかそもそも僕のどこがいいのか」
こんな中身男じゃなくてさーちゃんとかとらちゃんみたいな中身も可愛い人間の女の子に告白すればいいのに。
「そのちょくちょく見せる可愛い仕草じゃないの?」
「僕何かやってた?」
「やれやれと言わんばかりに首振ってたぞ」
「ありゃ……なーんか無意識に取っちゃうんだよねぇ…………」
そう言いつつ僕はまた無意識にえへへと頭に手を置いて笑ってたのに気が付き、すぐにその仕草をやめてこほんと咳払いをひとつする。
「そう言うのも仕草って言うんだぞ」
「うっさい」
「まぁそれはともかく、鈴ももう慣れたものよね。最初はパニックして「ふにゃらっせい」なんて言って破いちゃってたのに」
「うぅぅ…………もうそれは言わないでぇ……」
あれは黒歴史、黒歴史だから弄んないで……!
「まぁ隆継の黒歴史よりマシだけど」
「それは確かね」
「ちょっ!お前らぁ……!」
「きゃー隆継が怒ったー」
「逃げろ〜」
「待てやコラァ!」
「「きゃー!」」
さっきまでの深刻そうな雰囲気はどこへやら、僕達はそんなノリで追いかけっこをするようにして家へと帰っていったのだった。
路地裏からこちらをじっと見つめる不審な影に気がつくことも無く。
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「9回も同じ人から?」
「うん、最後の文が全部一緒だから多分。さすがに3週間も経たないでこのペースは怖かったから一応」
「ううん、それで大丈夫よ鈴ちゃん。これは私達の方でもなにか対策考えておくから」
「ん、お願いちー姉ちゃん」
夕飯の後、僕は今日も来ていたラブレターの話をちー姉ちゃんにしていた。
今までは話す必要がないと思って話さなかったが、帰り道で流石にちー姉ちゃんにも話しておこうと隆継達と決め、今に至るという訳だ。
「それにしてもまさか鈴ちゃんにラブレターがねぇ……」
「む、ニヤニヤしてきてー…………そんなちー姉ちゃんにはこうだ!」
「あー、そこそこ!すっごく気持ちいい……!」
「どうだ!気持ちいいか!」
「すっごく気持ちいいよー!あーそこ!そこをもうちょい……!」
「うりゃあー!」
全力の多分1%くらいー!
「あー!鈴ちゃん最高!」
キャッキャとそんな風に賑やかにその日の残りも僕の1日は平和に過ぎていくのだった。
明日以降、あんな酷い目に会うとも知らずに。




