70鱗目:席替え!龍娘!
「皆お疲れー。どうだったー?」
「アタシはまぁまぁね。いつもより少しいいかもってくらい」
「俺もそれくらいだな。特に可もなく不可もなくって感じ。天霧さんはどうだった?」
「僕もそんな所ー。んでそこの2人は…………まぁ言うまでもなさそうだね」
「ちょっ!すずやん酷ない?!いやまぁほんの、ほんのちょこーっと悪かったかもなぁっちゅーのはあるんやけど!なぁたかくん!」
「そうだそうだ!確かに解答用紙の半分くらいは適当に書いたけど、40点を超えさえすれば赤点は免れるんだから大丈夫だ!」
「せやせや!」
とらちゃん、隆継……それは最低ラインというもので大丈夫とは言わないんだよ……
夏休みも終わり、二学期が始まって数日後の事、三日にわたる実力テスト初日を終えた僕達はお昼を食べながらそんな話をしていた。
「それはともかく、すずやん朝から大変やったなぁ。あんな転校初日の二の舞みたいにもみくちゃにされて」
「あはははは……まぁうん、そんなことになる気はしてたから。それに、今日は皆にも助けてもらったお陰でなんともなかったし」
やはり30時間テレビに僕が出た事は皆の話題になるには充分だったようで、朝から隆継達と登校してきた僕はまるで初日の時の様にもみくちゃにされたのだった。
ちなみに僕が出た後から視聴率が爆上がりしたそうで、とらちゃんによると歴代最高視聴率である73.2%を叩き出したらしい。
概ね三浦先生の企み通りになったって所かな?
…………まぁ睨むような目で見られたりもしたし、三浦先生の悪い予感も当たっちゃったみたいだけど。
「それより天霧さん、この後時間とかある?」
「うん、時間はあるけど……何か用?」
「あぁ、ちょっと手伝って欲しいことがあってね。頼めるかな?」
むーさんが僕に頼み事とは珍しい。結構大変な事なのかな?
「もちろんいいよー。それで手伝うのはいいけど、何をすればいいの?」
「本来は図書委員の仕事なんだけど、修復に出す古い本を詰めたダンボール箱を運んで貰いたくてね」
むーさんは最後に「女の子に頼むような事じゃないけどね」と付け加えると、苦笑いを浮かべながら僕にそう頼んでくる。
僕はそんなむーさんに任せてと張り切って言うと翼を少し動かし、腕を回しながら立ち上がる。
「頼りになるよ、それじゃあお願いするね。報酬は今度とっておきの甘い物でも」
「わーい甘い物やったー!」
しかもむーさんのとっておき!どんな物なんだろ!
「甘い物で尻尾ぶんぶん振って喜ぶすずやんかわいいなぁ…………でもまぁ。甘い物で女の子を釣るなんて、りゅーくん悪い人やー」
「あーっと、天霧さん以外に手伝ってくた奴にもご馳走してやろうと思ってたんだがなぁ」
「すずやん!ウチもすずやんのお手伝いするで!」
「あはははは……ほどほどでいいからね」
「ほなはよ図書室いこっ!」
とらちゃん、甘い物に釣られたのは貴女ですわよ……
僕の手を引っ張って図書室へ向かおうとするとらちゃんに、僕はしかたないなぁと笑顔を浮かべながらそう思うのだった。
「さてそれじゃあ僕は行ってくるけど……」
「アタシ達も勿論ついて行くわよ、アタシも包装くらいなら手伝えるかもだし」
「俺も力には自信あるからな、鈴香程じゃないにしても少しは手伝えるはずだ」
「二人共…………目的は甘い物でしょ?」
「あ、バレてたか」
「バレてたわね」
やっぱりそんな気がしたもん。でもまぁ……
「ありがとね!」
僕は予想通りの動機だった2人に笑いかけながらそう言うと、早く早くと手を振っているとらちゃんの所へと歩いて行くのだった。
この後、お昼休み中に隆継がヒーヒー言ってダンボール箱を運んでる横で、僕がダンボール箱を翼に乗せたりして平然と5つ6つ同時に運んでたのは気にしてはいけない。
そしてむーさんとらちゃんとまた放課後にと別れ、暫くしてチャイムが鳴ると、何だかウキウキとした様子で代永先生が教室へと入ってきて────
「それじゃあ皆、席替え始めるからねー」
「「「「「「「「「「おぉぉぉおー!」」」」」」」」」」
流石席替え、皆盛り上がってるなぁ……
3日に渡る実力テストも全て終わり、後はこのSHRが終われば帰るのみとなったクラスメイト達は、代永先生のその一言に大盛り上がりしていた。
「やっぱり席替えってドキドキするよな。鈴香」
「あ、うん。そうだね」
「どうしたの鈴?あんまり乗り気じゃないみたいだけど」
うーん……まぁ、何となく先の展開が読めると言うかそんなのもあるけど……
「さーちゃんと離れたくないなぁって」
やっぱり仲良い人の隣がいいからね。
「あらあら〜。嬉しいこと言ってくれるじゃないこの子」
「えへへ♪」
席を決めるためのくじ引きの列が出来ていく横で僕が隆継達と集まってそんな話しをしていると、先生がこっちへ手を招いているのが見えた。
「なんか先生こっちに手招きしてねぇか?」
「あーうん多分、というか間違いなく呼んでるの僕だと思う。という訳でちょっと行ってくるね」
「……?おう、わかった」
「行ってらっしゃい鈴」
「ん、行ってくる」
まぁ、もうここまで来ると間違いなく僕の予想通りの要件だとは思うけど……違うかもしれないから─────
「────────という訳で、天霧さんの席は1番後ろの列でいいかな?1番後ろならどこでもいいから!」
うん、予想通りだった!
「こればかりは仕方ないですよ。それに僕は目もいいから不便はしませんし、そこまで気にしないでください」
僕は予想通り「翼が邪魔になるから後ろの席でいい?」と代永先生に言われ、心の中で予想出来てたけどと後ろに一言付け加えながらそう答える。
「ありがとう天霧さん、それじゃあ席は何処がいい?」
「んー…………それなら今と同じ場所がいいです」
もう少ししたら寒くなってくるけど日向でぽかぽかすると寝ちゃいそうだからね。
それなら少し寒いだろうけど今と同じ廊下側の場所がいいかな。
「同じ場所でいいのね?なら天霧さんはこれから丁度いい場所選んだわね」
「そうなんですか?」
「そうよ。丁度どの教室でも暖房が当たる位置だからあの場所暖かいのよね。でももし寝てたら容赦なく起こすからね?」
「は、はーい」
企みが裏目に出てしまった……ま、まぁ、寝なきゃいいんだから。うん。
笑顔でそう言ってくる代永先生の言葉を聞いて、僕は思わずゆったりと左右に振っていた尻尾を止め、苦笑いを浮かべながらそう返事をする。
そしてそんな事を考えて気を取り直そうとしながらてくてくと隆継達の元へ戻り、帰る準備をしながら全員がクジを引き終わる待つのだった。
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「んで自分が後ろの席になる事は予想出来てた鈴香さんも、俺ら3人が1箇所に固まるのは流石に予想出来なかったみたいだな」
「あんなの予想出来るわけないじゃん」
「思わず鈴突っ込んでたものね「どんな奇跡だよっ!」って」
「うむ」
本当、びっくりしたもん。
そう、席替えの結果僕の席の前にさーちゃん、横には隆継が来た事で僕は思わずそう突っ込んでしまっていた。
そんな事があった後の帰り道、ズココココと両手で持っている途中で買ったマンゴージュースを飲みながら、僕はニヤニヤ顔の隆継にそう答える。
「でもよかったわ。アタシもせっかくならまた鈴の近くが良かったし」
「俺は前は離れてたからな、今回は鈴香の横に来れて本当に嬉しいぜ」
「とかいって、忘れ物したら貸してもらったりする気なんでしょ隆継」
「あ、バレてた?」
どうせ隆継の事だからそんな事だと思ってたよ。
「アンタはわかりやすいのよ。それと、……まずちゃんと宿題は自分でやりなさい」
「へーい」
隆継は将来さーちゃんみたいな人の尻に敷かれそうだなぁ…………本当にそうなってたらからかってやろっと。
まだ蝉の鳴く日の昼下がり、僕達はワイワイとそんなくだらない話をしながら家へと帰るのだった。




