69鱗目:本番、龍娘
「それでは天霧さんが出るタイミングでこんな合図を出しますので、そしたらそこの舞台袖から出て来てください」
なるほど、そのびっ!って感じの合図が出たら出ればいいんだね。
「その後は先程説明したように質問に答えて頂く形になりますが、他は右から2番目のカンペを読んでください」
「了解しました!」
「それじゃあよろしくお願いしますね」
合図を見て僕がコクコクと頷くのを見た角水ADは満足気に頷くと、僕にどうすればいいか説明をして忙しそうにトタトタと持ち場へと去っていく。
「はぁー……緊張するなぁ…………」
やっぱりいざ出るとなると緊張が…………というかここからたった数メートル前に出るだけでテレビに………うおあぁぁぁ……なんか怖いっ!緊張してきたぁーっ!
「鈴ちゃん鈴ちゃん」
「ち、ちー姉ちゃん?何?」
「大丈夫?すっごい緊張してるみたいだけど……ほら、尻尾カクカクになってる」
うわっ!本当だ!なんかカクカクってなってる!もどれーもどれー!
「ふぅ……もどった…………」
「よかったよかった。それにしても鈴ちゃん、今までにないくらい緊張してるね」
「あはははははは……いざ本番となるとやっぱりねー…………」
というか改めて見ると、何も無いよりはって尻尾にリボン付けられてるのなんか恥ずかしいんだけど!
尻尾をフリフリと動かしながら僕がそう考えて居ると、何か盛り上がりでもあったのだろうか会場の方から大きい拍手が聞こえて来て、僕はそっちに目をやる。
「さてそれでは次のコーナー、全国の子供達に元気を─────ふむふむ……なんとここで!急遽会場へ特別ゲストの方が来て下さったとの事です!」
ちょうどコーナーが終わった所だったのか!って事はいよいよ僕の出番!?
「特別ゲストですか?一体誰なんでしょう」
「えーっとですね、その方は今なお話題になっている方で今回何度もお願いし、ギリギリで特別に出演する事をOKして下さったそうです」
「ほぉ!そんな方が!一体どんな方なのでしょうか。我々も誰が来るか何も知らないので少しドキドキしております!」
あーやばい!なんか逆にすっごい緊張してきたぁ!
「鈴ちゃん、ちょっとおいで」
「な、なに?ちー姉ちゃん、もう僕出ないと────」
会場の方で少しはぐらかした僕の紹介がいよいよ始まり緊張で僕がその場で足踏みしていると、ちー姉ちゃんはそう言って近づいていった僕をぎゅっと抱きしめてくる。
んむっ?!ち、ちー姉なにをっ!?
「大丈夫、鈴ちゃんならやれるよ。落ち着いてやれば大丈夫」
ちー姉ちゃん……………………
「嬉しいし励まされたけどちょっと顔が胸で埋もれて息が出来ない、苦しい。離して」
「え〜〜っ!もっとぎゅーってさせて〜」
「もー、僕今から出なきゃなんだけど……………言ってくれたら好きなだけさせてあげるのに……」
「鈴ちゃん何か言った?」
「ううん!なんでもない!」
抱きしめられたままちー姉ちゃんに頭を撫でて貰い、さっきまでの緊張が嘘のように消えた僕は、小声でぼそっと言ったのをなんでもないと誤魔化す。
そしてちー姉ちゃんの肩をひと押しして離れる。
「さて!特別ゲストは一体どのような方なのでしょうか!」
「既にこちらまで来てくださっているようです!それでは登場して頂きましょう!特別ゲストの方です!どうぞ!」
さて!それじゃあいっちょやりますか!
「行ってらっしゃい!鈴ちゃん!」
「うん!行ってきます!」
角水ADの合図を見た僕はちー姉ちゃんにそう返事を返すと、悠々と胸を張り会場へと出ていったのだった。
ーーーーーーーーーー
「いやぁー!すいません失礼しました!まさか特別ゲストがあの龍娘さんだとは思わず、驚きのあまり声も出ず!」
「い、いえ!気にしないでください!しーんとなっちゃってちょっと不安になったけど、そういう事なら!」
一瞬シーンと静まりかえった後前以上に盛り上がり出した会場で、司会者をしている国民的アイドルグループの人にマイクを渡された僕は、顔を振りながらそう答える。
「しかし龍娘さんには前に凄い迷惑をおかけしたにも関わらず、今日は来てくださって本当にありがとうございます」
「いえいえ、せっかくこんな特別な舞台へお誘いをして貰えたんですから、その事は水に流して今日は皆様と仲良く出来ればなぁと」
これでいいんだよね?カンペには「嫌じゃなかったなら適当に答えて」って書いてあるし……
「さてそれではそんな龍娘こと、天霧鈴香さんに我々から幾つか質問させていただきます。答えにくい、答えたくない質問はノーコメントと仰ってください」
「は、はい!」
「言わなくても分かってるとは思いますが、皆さん常識的な、良識のある質問でお願いします。それでは奥から順番に質問のある方は質問を!」
そう司会者の人が言うと同じくステージに立っている俳優さんや女優さん、芸能人さんが質問をしようと盛り上がり始める。
うおぉ……皆手をあげるなぁ…………どんな質問来るんだろう。
「それではまずは清水さん、どうぞ!」
「あ、あのっ!その翼とか尻尾って本物なんですか?!私っ、最初に貴女を知った時から一度触ってみたくって!」
「はい、本物ですよ!んっ……しょっと、ほらこの通り動かせます。せっかくなので皆さん触って見ますか?あ、根元はこそばゆいのでダメですよ?」
そう言って僕が翼カバーを外して翼を露わにして大きく動かして見ると、会場中から「おぉ〜」という声が上がる。
「尻尾も触ってみてもいいでしょうか?」
「あ、翼はともかく尻尾はちょっと…………お腹とか太ももを触られるような感じですので、あんまり初対面の人に触られるのは……」
「おっと、それは失礼しました」
「いえいえ」
「さてそれでは次に行きましょう!では次は秋月さん、どうぞ!」
「はい!えっと、翼とか尻尾が生えたのっていつ頃なんですか?」
「だいたい今年の四月頃です。もしあの時日医会に助けて頂いて貰えてなければと考えると、ぞっとします」
いやほんと、こればかりは本当にその通りだよ。
「じゃあ次は俺いいですか?翼は天霧さんの体くらいありますし、尻尾もご自身の身長くらいあって結構生活の邪魔になりそうですがそこの所はどうなんですか?」
「えーっと、僕の住んでる家は僕用に色々と大きかったり特殊なサイズのドアとか家具になってまして、基本は困りません」
「なるほど」
「まぁ強いて言うならビックリして急に振り返ると時々翼とか尻尾で机の上の物とかを薙ぎ払ったり、寝返りがしにくかったりしますけど、それくらいですね」
次々と来る質問へ僕が答える度に、会場から「おぉー」という声が段々と大きくなりながら聞こえてくる。
「なんか魔法とか使えたりするんですか?ブレス吐けたりとか!」
あ、やっぱりそんな質問来るのか。
うーん、魔法、魔法ねぇ…………水晶作れるし魔法みたいなの使えなくも無いけど……
「はははっ、流石に使えませんよー。
僕自身が充分ファンタジーですが、流石に魔法は使えませんでした。ブレスももしかしてって思ってふーっ!てしたこともあるんですけど出なかったです」
言わないでおくのが絶対にいいと思う!三浦先生も絶対にそうすると思うし!
「「「「かわいー!」」」」
そう思いながら尻尾をピンと伸ばし、ふーっと息を吹くような動作をした僕に女性の芸能人さん達がそう言って来る。
「わっ!わわっ!」
「こらー女性陣ー、天霧さんが可愛いのは分かるけどさわがなーい。すいません天霧さん。驚いちゃったでしょ」
「い、いえ!大丈夫です!」
びっ!びっくりしたぁー!
いきなり司会者として立っていた女の人達に突如騒がれた僕は、カチコチに固まりながらもそう答える。
そしてその後も────
「鱗って腕とか首の所以外にも生えてるんですか?」
「はい、脇腹とか太もも、腰の上辺りにもありますよ」
見せたりはしないけどね。
「その翼のカバーとか角のカバーはどのように?」
「これは自分で作りました、どうです?自分では結構似合ってると思うんですが」
「とても似合ってますよ!」
おぉ!有名人にそう言われると作ったかいがあった!
「車の後ろを掴んで引き留めてる動画がありましたが、あれは本当なんですか?」
「はい、本当です。あんな事になった原因は皆さん知ってるでしょうから…………この際せっかくなのでちょっと言いたい事言ってもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
「街で見かけたからって勝手に動画を撮ったり写真を撮ったりしないでください。本当に迷惑してますので、やめて頂けなければ最悪……という事もありますし」
せっかくだし、テレビを利用させて貰おう。
「はい、わかりました。会場の皆さんだけでなくテレビの前の皆さんも、無断での撮影、盗撮は肖像権侵害になる事がありますので許可のない撮影は止めましょう」
せっかくだしと笑顔でそんな事を言いながらも僕はその調子で幾つもの質問に答えていき、もう10分は軽く経ったであろう時にチャイムが鳴ってコーナーが切り替わる。
そしてそのコーナーが終わり会場へとカメラが戻り、少しお話にまざっていると「そろそろここで」と書かれたカンペを出される。
「さて、次のコーナーもありますので天霧さんはここまでとなります。長々と様々な質問に答えてくださり、天霧さん本当にありがとうございました」
「いえ、僕も皆さんと沢山お話できて楽しかったです」
こんな有名人と話す機会なんてまず無いしね!そういう意味では役得でした!
「それでは最後に全国の頑張っている子供達に天霧さんからも一言お願いします!」
あ、やっぱり僕も言わなきゃなのね。えーっとカンペには……「適当な応援メッセージを」…?えっ、えーっと……
「人生何があるか本当に分からないけれど、諦めずに出来ることを頑張ればきっと大丈夫です!」
本当に何があるかなんてわかったもんじゃないしね!うん!
「はい!という事で特別ゲスト、龍娘こと天霧鈴香さんでした!皆様盛大な拍手でお見送りしてください!」
「今日はありがとうございました!また機会があればぜひ!」
カンペに書いてあった通り本当にその場で思いついた事を言った僕は、拍手に見送られながらそう言って舞台袖へと下がって行った。
「あー、緊張したぁー」
「お疲れ鈴ちゃん!よく頑張ったね!」
「疲れたよちーねぇー」
「はいはい、さっ!帰ろっか!」
「うん!」
舞台袖へと下がった僕は、珍しくちー姉ちゃんに甘えるようにぎゅっと抱きついてそう言うと、一緒に手を繋いで会場を去っていった。
こうしてテレビへの初出演と共に僕の高校最初の夏休みは終わりを迎えたのだった。




