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64鱗目:新たな呼び名!龍娘!

「はーい、おしまい。みんな降りてねー」


 バサリバサリと翼をはためかせて縁側の側へと高度を下げて来た僕は、そう言って手に持っている頑丈な作りの木箱を先に下ろして着地する。

 するとその下ろした木箱の中から、次々とはしゃいだ様子のちびっ子達が出てくる。


「ふぅ……いつつっ…………!」


 流石に一日で飛びすぎたかなぁ………ちょっと肩と腰が痛い…………でもまぁ。


 「ありがとお姉ちゃん!」「すごかった!」「お姉ちゃん凄い!」「すっごい楽しかった!」「お空凄かった!」


 こんなに喜んでくれてるのなら少しは無理した甲斐もあったかな?

 お姉ちゃんって呼ばれるのはちょっとあれだけど……まぁ……嫌じゃ、ないかも?


 あの後、千紗お姉ちゃんの親戚の人が集まるまでの間、僕はおばあさん、いやおばあちゃんの料理を手伝った。

 そして親戚の人達が集まりいよいよ宴会が始まる所で、おばあちゃんに「おばあちゃんの孫」として千紗お姉ちゃんの親戚の方々へと紹介されたのだった。


 まぁその時におばあちゃんに「おばあさんじゃなくておばあちゃんって呼んではいよ」って言われて、そう呼ぶしか無くなったんだけどね。

 さて、それはともかく……


 「鈴姉ちゃん次おれ!」「お兄ちゃんさっきやって貰ったぁ!次わたし!」「お姉ちゃんアタシ連れてってー!」


「すっ、ストーップ!お姉ちゃんもう無理です!今日はもう空飛べません!翼が限界です!他の事して遊んであげるから勘弁してー!」


 次は次はと何度もせがんでくるちびっ子達に僕は助けてとばかりにそう叫ぶのだった。


 ーーーーーーーーーー


「皆寝たかな……?あー…………疲れた」


「ほんなこてウチの娘息子達が面倒ば見てくれてありがとね鈴香ちゃん。はい、冷えた水でん飲んで一息つきなっせ」


「あ、ありがとうございます……あっ、美味しい」


 宴会が一段落した後おば様達が楽しげに話している横で、今は僕の周りで死屍累々とばかりに遊び疲れて寝ているちびっ子達の遊び相手になっていた。

 そしてぐっすり眠っているちびっ子達に囲まれた僕は、キヨとおばあちゃんに呼ばれていた少しふくよかなおば様から貰ったお水を飲むとそう言う。


「熊本の水はうまかけんなぁ。それじゃあアタシはばあちゃんば手伝いしてくるけん。鈴香ちゃんもゆっくり休んどってはいよ」


「ありがとうございます〜」


 なんというかキヨさんって……


「キヨおばちゃんって世話焼くのが大好きな人なんだよねぇ。鈴ちゃんもそう思うでしょ?」


「確かにそう思ってたけど……千紗お姉ちゃんもう片付け終わったの?」


 僕は思っていた事が顔に出てたのか、見事に思っていた事をキヨさんと入れ替わりで部屋に入ってきた千紗お姉ちゃんに言われる。


「うん。明日の料理の仕込みは今おばあちゃん達がトモおばちゃん達と楽しそうにしてるよ。それにしても……」


 んう?


「お姉ちゃん、大人気だったねぇ」


「うっ。し、仕方ないじゃん……僕が男だったって事バラす訳にも行かないし、それにあれくらいの年の子が僕の事鈴香とか鈴ちゃんって呼ぶのもおかしいし」


 ニヤニヤとした顔でからかってくる千紗お姉ちゃんに、僕はブスっと膨れながらそう反論を返すと、そんな僕を見て千紗お姉ちゃんはクスリと笑う。


「何さー……」


「いやぁー。鈴ちゃん可愛いなぁって」


「むぅ……」


 僕としては可愛いってあんまり言われたくないんだけどなぁ……嬉しくないわけじゃないんだけどね。


「それはそうと鈴ちゃん」


「ん?」


「さっき私が倒れたの助けてくれた時、私の事「千紗お姉ちゃん」じゃなくて「ちー姉ちゃん」って呼んだでしょ?」


 あー、そういえばあの時「千紗お姉ちゃん」じゃなくて「ちー姉ちゃん」って呼んだもんなぁ。


「嫌だった?」


 確かに僕はあの時咄嗟に足の痺れで倒れかけた千紗お姉ちゃんを「千紗お姉ちゃん」ではなく「ちー姉ちゃん」と呼んだ。

 そしてそれを思い出した僕は嫌だったのかと千紗お姉ちゃんへ首を傾げていると、千紗お姉ちゃんは笑顔のまま首を横に振る。


「んーん、そんな事ないよ。それに、なんだかちー姉ちゃんって呼ばれる方が今までよりももっともーっと仲良くなったような感じがしたし!」


「そうなの?それじゃあちー姉ちゃん、改めてよろしくね!」


「うん、鈴ちゃん。これからもよろしくね」


 僕達は向き合い、新しい呼び名で僕はちー姉ちゃんに改めてよろしくと僕達は言葉を交わしたのだった。

 そしてその日の夜。


「んんっ………んんぅ……」


 ダメだ、寝れない。


 晩御飯やお風呂なんかを済ませ、寝るのにいい時間になるまでおばさんやちびっ子達とお喋りして過ごした僕は、布団の中で眠ることが出来ずにモゾモゾしていた。


「んむぅ…………鈴ちゃんふわふわさらさら………」


 ちー姉ちゃんそれ僕じゃなかばい。ちー姉ちゃんの掛け布団ばい。

 やっぱりちー姉ちゃんの実家だし寝慣れてるのかなぁ。ぐっすりとよーく寝てらっしゃる。というか…………


「んんぅ………………」


 ……やっぱりでっかいなぁ………というか初めて会った時よりもう一回りくらい大きくなってない?


 寝言を言いながらもぐっすりと眠っているちー姉ちゃんの、寝返りを打つ度ぽよんぽよんと大きく動く2つの塊を見て、僕は自身の平原へと目を落とす。


 ……………僕のも少しくらい大きく、せめて……せめて手に少し引っかかるとか当たるとか、その程度でいいから僕にも…………せっかくだしそれくらいは……


「…………少し、散歩でもしてこよう」


 ふにふにと柔らかいが一切の引っかかりもない自身の部位を触っていた僕は、何やってるんだと言うように布団から起き上がって頭を振る。

 そしてちー姉ちゃんを起こさないように僕は静かに障子を開けて廊下へと出ると、適当に縁側にでも行こうかと暗い廊下を歩き始める。


 夜になると雰囲気あるなぁ…………こう、この間隆継がやってたゲームのダンジョンとかいう感じの。


「…………こ、怖くなんてないし。ちょっとその、隆継がやってたやつだとお化けが出てきたからって別に怖がってないし!あんな事は現実で怒るわけないんだから!」


 僕自身が現実でありえない事を体験してるじゃないかって?それはそれで、これはこれだから。


 自分の当てはめた隆継のやっていたゲームがお化けの出てくる物だったのまで思い出した僕は、きゅっと尻尾を抱っこしながら自分にそう言い聞かせつつ廊下を進む。

 そして宴会会場でもありちー姉ちゃんが正座させられていた座敷まで僕が来ると、そこは夜とは思えない程月明かりで明るくなっていた。


「わぁ…………すごい、月明かりだけでこんなに明るく……」


 僕自身暗闇はよく見えるんだけど、こんなに明るいなんて…………凄いな田舎。そうだ、せっかくだし夜空でも見てから戻る事にしよう。


 そう僕は考えると縁側へと向かい、ガラス戸をカラカラと開ける。そして─────


「さてさて、こんなに明るいんだからきっと夜空も────────」


 雲一つない夜空に一際明るく浮かぶ月と、夜空いっぱいに広がる一つ一つがハッキリとわかる程輝いている星々に僕は思わず息を飲む。

 そして僕が縁側に立って夜空を見上げていると、後ろから声をかけられる。


「なんね、鈴香も空ば見に来たとね」


「あ、おばあさん……じゃなくておばあちゃん」


「うむ」


 呼名にこだわるのはちー姉ちゃんと一緒なんだよねぇ。これはやっぱり血筋と言う奴なのだろうか。


「ここの夜空は綺麗かでしょ。星がよー見えて、それに今日は雲もなかけん、いつもよか星が見える」


 僕が名前を言い直すと満足そうに頷いたおばあちゃんは、縁側に座って夜空を見ながら僕へとそう言って来る。

 そして僕もおばあちゃんに習って縁側へと座ると、おばあちゃんは僕へとちー姉ちゃんの事を話し始める。

 ちー姉ちゃんが小さい頃どんなだったか、おばあちゃんが親代わりだった事、昔から自分に似て正義感の強い人助けをする子だった等。

 僕の知らないちー姉ちゃんの話を僕は沢山聞いた。


「あん子はよー人ば助けようて無理するけん、鈴香が助けてやってちょうだいね」


「はい」


 僕の時も即座に決断するような人だからね。止めはしないけど助けてはあげないとね。


「鈴香」


「は、はい」


 んっ。


「あーたももうばあちゃんの大切な孫だけんね。なんか困った事とかあったらすーぐ頼ってよかけんね」


 空を見ていたおばあちゃんはいつの間にか僕の方を向いて名前を呼ぶと、僕の頭にぽんと手を置いて優しい顔でそう言ってくる。


「うん……ありがとうおばあちゃん」


 なんか少し気が楽になったかも。


「よかよか、さっ、もう遅かけん部屋へ戻って寝なっせ」


「うん、おばあちゃんおやすみなさい。また明日ね」


「はい、おやすみなさい」


 僕はおばあちゃんに頭を撫でられた後頭をぽんぽんとされ、それからおばあちゃんに僕は笑顔で手を振りながら、尻尾を上機嫌に揺らして部屋へと戻った。

 その後、僕はさっき寝付けなかったのが嘘のようにすうっと眠りへと落ちたのだった。


 ーーーーーーーーー


「もう帰るとね」


 あれからもう一日、おばあちゃんの家でゆっくり過ごした僕達は、早朝にこっちに来た時と同じような格好で玄関前に立っていた。


「うん。休みが明日までしか取れてないからね。次はお正月に帰ってくるから」


「僕も来るからねー!」


 お姉ちゃんって呼ばれるのも悪くはなかったしね。


「あーたが休み短かねぇ。ばあちゃんも二人が正月に来るとば楽しみに待っとくけんねー。それじゃあまたおいで」


「うん!」


 おばあちゃんに手を振って貰いながら、僕はちー姉と荷物の入った水晶の箱を持って空へと舞い上がり、家への帰路へとつく。

 そうして僕達のお盆の里帰りは終わったのだった。

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