63鱗目:姉と帰省、龍娘
朝早く、人1人入る大きな水晶の箱を両手でぶら下げ、僕は翼を一定間隔で羽ばたかせて、大空を滑るように飛んでいた。
「鈴ちゃん大丈夫ー!?そろそろ休憩挟んどかなくても平気?!」
んー、まだ翼は全然余裕だし疲れてもいないけど……
箱の中の千紗お姉ちゃんに休憩を提案され、ぎゅっぎゅっと箱の持ち手を握り直した僕は、思ったよりも体の熱が奪われている事に気が付く。
ここらで休憩挟んどくのがいい……かな?
「それじゃあお言葉に甘えて一旦地上に降りるね!近場に良さそうな場所はー!?」
「このまま直進2kmの所に公園!」
「了解ー!」
千紗お姉ちゃんから着地するのに良さそうな場所を聞いた僕は、バサリバサリと翼を動かして高度を落とす為に滑空し始めた。
ーーーーーーーーーーー
「はふぁ〜……あったまってきたぁ……」
「鈴ちゃんお疲れ様、本当ごめんねー?」
「いいよいいよー、こればっかりは仕方ないもん」
千紗お姉ちゃんもここ最近はお仕事で忙しかったからね。新幹線とやらのチケットが取れてなかったのも多分仕方ないよ。
新幹線がどんなのか知らないけど。
ジーワジーワとセミの鳴く高原の人気のない公園に着地した僕は原っぱの上で心地良さそうに翼を大きく広げて寝っ転がり、暑い太陽の光を冷えた体全身に浴びていた。
そしてなんで今僕達はそんな場所に居るのかと言うと……
「熊本まで後どれくらいー?」
「んー、今中国地方だし多分この調子なら後3、4時間くらいかなぁ?おっ、もう100kmくらいで関門海峡だね、海が見えるよー」
「海!!寄っちゃだめ?」
「だーめ、今日は里帰りが目的なんだから。寄り道はダメよー」
むぅ、仕方ない……まだ九州にも入ってないし、寄り道は出来ないかぁ。
「はーい」
今日は千紗お姉ちゃんの里帰りの為、千紗お姉ちゃんのおじいちゃんおばあちゃんのお家があるという九州の熊本へと向かっている所なのだ。
とはいえ移動手段は車でも飛行機でも新幹線とやらでもなく、僕を使っての空での移動だが。
「それよりも初めての長距離飛行だけど鈴ちゃん大丈夫?翼とか背中に負担かかかってない?」
んー、翼も動かすのに違和感とか痛みもないし……
「うん、大丈夫だよ。ほらこの通り」
「ほんと?無理とかしてない?」
「ふふん♪無問題なのだよ千紗お姉ちゃん。さっ、そろそろ体もあったまったし行こ!お昼までにはつきたいし」
「そうね、そうしましょうか。それじゃあ鈴ちゃん後少し、お願いね」
「はいさー!」
僕が元気よく翼を広げて返事をすると、千紗お姉ちゃんは僕の鱗の粉末を混ぜて作ったという命綱代わりのロープを僕の腰と自分の腰に結びつける。
そして千紗お姉ちゃんが箱に入ったのを確認すると僕は箱にある持ち手の部分を持ち、翼を大きく広げて空へと飛び立つ。
「さ!千紗お姉ちゃん飛ばすよ!」
「うん!」
翼を羽ばたかせ一気に空高く舞い上がった僕は千紗お姉ちゃんにそう言うと、何度も強く大きく翼を羽ばたかせて空を翔る。
緑豊かな森を通り過ぎ、眼下に広がる大きな街を眺め、途中風が乱れたせいでバランスを崩しかけたりしながらも海峡を渡り、大きな山々を越える。
「本当に凄いね鈴ちゃん。いつもこんな景色見てるの?」
「ううん。ここまで色んな景色を見たのは初めてだよ」
本当、海とかあんなに大きな街とか初めて見たよ。
「今度は海にも寄りたいなぁ」
長時間飛んでいると流石に慣れてきた事もあり、僕達は最初の頃と違って声も張ることも無く会話をしていた。
「ふふっ、そうだね。来年は長めにお休みとって途中で海とかにも寄ろうか」
「本当?!それじゃあ僕もマッサージとか覚えて千紗お姉ちゃんが頑張れるようにしないと」
そうすれば千紗お姉ちゃんのお仕事ももっと捗らせることが出来てお休みも早く取れるかも!
「あら、それは楽しみ。あっ、見えてきたよ鈴ちゃん。あの川の傍にあるちょっと大きい家が私のおばあちゃんの家だよ」
おー……もしかして…………千紗お姉ちゃんのお家ってお金持ち?
阿蘇山という山を超えた辺りから徐々に高度を落としていた僕は、見えてきた千紗お姉ちゃんの言う家を見てそんな疑問を抱く。
「着陸は庭の所に着地して貰えば大丈夫だから、そこに着地してね」
「ん、わかった」
千紗お姉ちゃんにそう言われた僕は、即座に返事を返すと着地をするために高度を更に落とすのだった。
そしてそれから数分後、その家の座敷にて無言で俯いて正座をしている千紗お姉ちゃんと、微動だにしない目を瞑った千紗お姉ちゃんのおばあさんが向き合っていた。
「…………」
「…………」
千紗お姉ちゃん……大丈夫かな…………
僕はそんな千紗お姉ちゃんを心配しつつ、廊下の角からほんの少しだけ頭をだして、無言で座っている2人を遠くから見ていた。
なぜこのようなことになっているのかと言うと、それは数分前、いや結構時間が経ったから約1時間くらい前、僕達が到着した頃まで遡る。
ーーーーーーーーーーー
「おばあちゃんただいまー!」
「お、お邪魔しまーす……おぉ……」
家の中も凄い……なんか古い御屋敷みたいな感じだ。いや、多分実際にそうなんだろうなぁ。
庭に着地した僕は千紗お姉ちゃんに連れられて玄関へと入り、外に引けを取らないほど趣のある千紗お姉ちゃんの実家に圧倒されていた。
「ほら鈴ちゃん、上がって上がって」
「えっ、いいの?」
というか千紗お姉ちゃんもう上がってるし。
「私の実家だしいいのいいの!それに他に車も無かったからまだ誰も来てないしね。私達が一番乗り〜────」
「なんね、すごい音がしたと思ったらもう帰ってきたとね千紗。んで、そん子は誰ね?」
「「うわぁぁあ!?」」
びっ、びっくりしたぁ!
千紗お姉ちゃんに言われるがまま恐る恐ると家に上がった僕は、廊下の分かれ道に差し掛かった所で突然横から声をかけられ、千紗お姉ちゃん共々驚かされる。
「もーびっくりしたよばあちゃん」
この人が千紗お姉ちゃんのおばあさん…………なんというか………
「あーたが珍しく帰ってくるって聞いたけん、ばあちゃん楽しみにしとったとよ」
「あはははは、ごめんねばあちゃん。忙しくてなかなか帰れなくて」
ザ、昔のおばあちゃんって感じだ……!
千紗お姉ちゃんと楽しげに話すおばあさんは皺の多い顔に白髪、そして歳の割には真っ直ぐ伸びた背に着物という、一昔前のおばあちゃんという人だった。
「それで、あーたが後ろで玄関から顔だけ出しとるそん髪が灰色か子は?頭になんかつけとるばってんが」
ぼ、僕の事だよ……ね?頭に何か付けてるのって僕だけだし……
「あらあら、鈴ちゃんそんな所に引っ込んでないで出ておいでー」
「う、うん」
少しドキドキと緊張しながら、驚いて廊下の角に隠れていた僕は1歩踏み出して、千紗お姉ちゃんのおばあさんの前へと姿を見せる。
するとおばあさんは僕の姿、と言うよりも尻尾と翼を見て少しの間ギョッとした顔をした後、次の瞬間それまでののんびりとした雰囲気は消え去る。
そして千紗お姉ちゃんに僕の事を問い詰め始める。
「あーた、こん子どぎゃんしたとね」
「えっと、この子は身寄りがなくて、だから私が引き取って、今は一緒に暮らしてて……」
千紗お姉ちゃんなんだか話にくそう……いやまぁそりゃそうだよね。
唯一の身内だっていうおばあさんに何も相談もせずに勝手に決めちゃったんだから。
「そんだけね?」
「……」
千紗お姉ちゃん……
流石の千紗お姉ちゃんもおばあちゃんには相談や一言も無しに勝手にした事が後ろめたくて言い難いのか、厳しい表情をするおばあさんを前に黙って俯いてしまう。
「そんだけね?」
「……養子縁組を…………法的な親子関係を……結びました……」
「………千紗、座敷に来なさい」
「…………はい」
千紗お姉ちゃん大丈夫かな……?というか僕はどうすれば……
「あの、えと、僕は……」
「おっと、あーたさんはどぎゃんとこでもおってよかけん、ちょっと上がってまっとってください」
「ど、どぎゃん?」
ど、どういう意味?
「どこに居てもいいからお家に上がってちょっと待っててって事だよ。それじゃあ鈴ちゃん、私ちょっと行ってくるから」
「う、うん……分かった」
千紗お姉ちゃんは僕におばあさんの方言を説明すると、頷く僕を見てから先を歩くおばあさんの後を微妙な笑顔でついて行ったのだった。
えっと、えーっと……それじゃあ僕もとりあえず…………隠れてだけど一応見とこうかな………?
ーーーーーーーーーーー
そんなこんなあって今に至るという訳である。
それにしても千紗お姉ちゃん達、いつまであのままなんだろう……そろそろこの体制もきついんだけど…………
そんな無言の時間が暫く続いていると、吹いていた風がピタリと止み風鈴の音が消え去る。するとそれを合図にしたかのように、おばあさんが目を開いて話し始めた。
「千紗」
「……はい」
「あん子をあーたはどうしたかとね。どうしてばあちゃんに何も言わんで、あん子とそぎゃん関係ば結んだとね」
……!そういや、なんで千紗お姉ちゃんがあんな即決で僕と……僕と家族になってくれたのか…………まだ知らなかった。
僕はおばあさんが千紗お姉ちゃんにそう聞いたのを聞き、何故千紗お姉ちゃんがあんなにも即決で僕と家族になってくれた理由を僕はまだ知らない事に気が付く。
そして僕はそれを聞こうと、もう少し角から体を乗り出す。
「……私は、私は鈴ちゃんば助けたくて…………」
「あん子ば助けたくてその場の勢いでね」
「違か!そぎゃんその場の勢いだけじゃなか!
あん子、鈴ちゃんがどぎゃん子でどぎゃん生活ばしとったか知ったけん私は……!私が!私が助けたい、守りたいって思ったけん!皆に鈴ちゃんば任せて貰ったと!!」
感情に任せて喋ったからか、それとも長い年月共に過した本当に心を許せる相手だったからか、はたまたその両方か。
そのせいで素が出たであろう千紗お姉ちゃんは顔を上げ、おばあさんと同じ方言で捲し立てるようにしてそう言う。
そしてそれを聞いた僕は、あの時僕と即決で養子縁組を結んでくれた時に千紗お姉ちゃんが三浦先生へと喋った事は本心だったのだと、僕は確信を得た。
喋り終えた千紗お姉ちゃんが息を荒くしておばあさんの目を見返す。するとおばあさんは立ち上がり、1歩前へ出て手を上げると───
「ならばよし!あーたはその場の勢いだけじゃのうて、自分の本当の、心からの想いで本当に困ってた子ば助けた!それならばそれはヌシの正しい正義や!」
「ばあちゃん……」
千紗お姉ちゃんの頭をポンポンと優しく叩いて撫でたのだった。
そして撫でられて恥ずかしそうでもあり、嬉しそうにもしている千紗お姉ちゃんに向けていた優しい目を僕の方へ向けると、イタズラっぽくニヤっと口を歪ませる。
「それに……あん子もあーたばたいぎゃ好いとるみたいだけんね」
ヤバっ!おばあさんにばれてた!
「えっ?あっ!鈴ちゃん?!」
「逃げる!」
「ちょっ!待ちなさい鈴ちゃん!もしかして私が方言喋ったの聞いてっ?!」
「ちー姉ちゃん!」
危ないっ!
長時間正座して足が痺れていたのか、おばあさんに僕が居ると教えて貰った千紗お姉ちゃんは立ち上がった際に、バランスを崩して倒れそうになる。
そして逃げようとした僕はそれに気が付き、身を翻してギリギリで千紗お姉ちゃんの下へ滑り込むと、その体を僕は背中と翼でしっかり受け止める。
「いっててててててて……鈴ちゃんありがとう。大丈夫?」
「どういたしまして〜……ちょっと畳で擦って熱痛かったけど大丈夫」
千紗お姉ちゃんの方言っていう珍しいのも見れたしね。どちらかと言えばプラス。
「もしかして鈴ちゃん、さっきの私の話……全部聞いてた?」
「さぁ〜ねぇ〜」
「あっ!鈴ちゃん絶対聞いてたでしょ!忘れなさーい!」
「やーだね!」
心の奥底にしまっといてやるぜふひひ。
「あらあら、仲がよかことよかこと。さてそれじゃあ、一番乗りで来た孫娘共には色々と手伝ってもらおうかねぇ」
僕達が重なり合ったままそう言い合って居ると、おばあさんはクスクスと笑いながら僕達へとそう言ってくるのだった。
読者の皆様、今回も「ドラゴンガール」を読んでくださり、誠にありがとうございます!
これにて夏休み企画の1週間毎日3話投稿終了です!
結構1話1話の文字数も多く、読むのも大変だったかもしれませんが楽しんで頂けたでしょうか?楽しんで読んでもらえたのならば作者としてこの上ない喜びです!
今後もこの様な機会があればこの様な企画もまたやりたいなと思っております。
それではこれからも「ドラゴンガール」をどうぞよろしくお願いします!




