62鱗目:お盆!龍娘!
やっぱり……賑やかなのっていいなぁ…………
「なぁサナ、1切れでいいから分けてくれねぇか?鈴香の食べっぷり見てたらもっと食べたくなってな」
「いやよ。アタシだって食べたいもの」
「そう言って食べるの制限しないとその内太るぞ」
「ほー?」
「隆継くん?女の子にそんな事言っちゃだめよー?」
「あっちょっ!二人共勘弁!」
…………賑やかなのっていいなぁ……
目の前で隆継の皿に残っていたトンカツをさーちゃんと千紗お姉ちゃんが罰とでも言うように全て取るのを見て、僕はそう思いつつ流石に可哀想なので1枚分けてあげる。
「ありがとな鈴香〜。お前は本当に優しくて可愛くて最高だぜー」
「ほっふー」
「あっ!悪かった!可愛いじゃなくて男らしい太っ腹な振る舞いでかっこいいぞ!だから没収は勘弁!」
調子のいい奴だなぁ。
そうして賑やかに僕達の夕飯の時間は過ぎ去って行くのだった。
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「お盆だから帰る?」
「そ、ご先祖さまが帰ってくる日だからね。アタシの親も帰ってくるし、従兄弟達も集まるからアタシだけ行かない訳にもいかないわ」
晩御飯を食べ終え、いつも通り僕がさーちゃんと一緒に皿洗いをしていると、突然さーちゃんがそんな報告をしてくる。
「そっかぁ、もうお盆かぁ」
「鈴は帰るの?」
「僕?」
僕は……
「家に……居るかな」
「あっ…………そ、そう、分かったわ。ゆっくり休んでね」
「うん、さーちゃんもゆっくりしておいで」
さーちゃんに気を使わせちゃったなぁ。
「ありがとう………………ごめんね?」
「ううん、気にしないで」
困ったような笑顔を浮かべながら僕が家に居ると言うと、さーちゃんは少し申し訳なさそうな顔で僕にそう言ってくる。
その後僕達は何も無かったかのようにお喋りをしながら皿洗いを終えた。
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そっかぁ、さーちゃん帰るのかぁ。実家に帰るなら柊さんに乗せてって貰うのかな?
皿洗いを終え、明日出発する準備の為にさーちゃんが部屋に戻った後、台所でぼーっと僕がテレビを見ていると後ろから肩を叩かれる。
「んー?」
「あでっ!!」
あっ、しまった!
「ごめん隆継!不注意だった!」
「き、気にすんな……いつっ…俺が不用意に後ろに立ったのがいかんかった」
くるんと特に注意もせずいきなり後ろを振り向いた事で、僕は後ろに立っていた隆継を翼でぶっ叩いてしまう。
「大丈夫?」
「おう、ありがとな」
「いいってことよ〜。それで何か用?」
「あー。それなんだけどな……あー」
僕は倒れていた隆継の手を引っ張り起こしてあげた後、隆継に何か用があったんじゃないかと聞いてみる。
すると隆継は少し言いづらそうに頭を搔きながら何度も本題を言い出せないのを見て、何となく察した僕は口を挟む。
「その、だな……」
「帰るんでしょ?」
「え?」
「お盆、帰るんでしょ?」
「お、おう。よくわかったな」
「まぁ、そりゃあ……ねぇ?」
さっきのさーちゃんも同じ事だったし。
内心そう思いつつ苦笑いを浮かべ僕が疑問形を投げつけると、隆継は首を傾げながらもまぁいいかと言うようにこれ幸いと話始める。
「まぁ、鈴香の言う通りだ。16日の朝には帰ってくるから」
「ん、ちゃんとご先祖さまを出迎えてあげるんだよ?」
「おう!まぁ俺が行く目的は小遣いなんだけどな!」
ええぇぇぇ…………
「なんじゃそりゃ!」
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「さーちゃんだけじゃなくて隆継もかぁ………いやまぁちょっと考えればというか、考えずともどっちも帰るに決まってるよね」
夕食を終え、薄水色のパジャマへと着替えた僕は例の超巨大にゃんこうへ体を預け、自分で買ったにゃんこうを抱きしめて天井を見ながらそんな事を呟いていた。
ご先祖さま……ねぇ…………僕のご先祖さまってどんな人なんだろう?というかそれ以前に両親の顔すら僕もう殆ど覚えてないけど。
こう、なんか……
「ドラゴンアイ!的な能力でご先祖さまとか見えたりしない?あ、しませんかーさいですかー」
にゃんこうから起き上がり、シュバッとチョキにした手を目に当ててそんな事を言い、パタンとにゃんこうに背中から倒れ込もうとした所でぴくぴくっと僕の耳が動く。
「帰ってきたかな?」
きっと疲れきってると見た。
よっこらせと起き上がった僕は、垂れさせてた翼を起き上がらせて尻尾を揺らしながら玄関へ出迎えに行くと、そこには僕の予想通り疲れきった千紗お姉ちゃんが居た。
「鈴ちゃん疲れたよぉぉぉぉおおお……」
「よしよーし、千紗お姉ちゃんよく頑張ったよく頑張った。明日たっぷり構ってあげるから今日はゆっくりおやすみー」
「うん〜…………ってそうそう!鈴ちゃん!」
「なっ!なに?!」
荷物を放り投げて僕に抱きついてきた千紗お姉ちゃんの頭を僕がよしよしと撫でていると、千紗お姉ちゃんは何かを思い出したように、ガシッと肩を掴んでくる。
そして──────────
「明日、里帰りするよ!」
「里帰りぃ?」
興奮気味にそう言う千紗お姉ちゃんに、僕は素っ頓狂な声を上げたのだった。




